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読書備忘録です。

死に山/ドニー・アイカー

60年前、冬のソ連ウラル山脈での若者9人の遭難事故。遭難者たちは、靴を履かず、衣服もろくに着けず、重傷を負ったものや舌がなくなっている者もあり、衣服からは放射線が検出された。ソ連時代という背景などもあって、謎の提示は圧倒的なのだが、ノンフィクションの物語としての面白さという点では、もう一つという感じ。

たどり着いた謎の正体が正しいのかどうか、私には分からないーストンとは落ちない。

 

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

 

 

 

平成精神史/片山杜秀

-平成は、災害や北朝鮮というリアルに対応不可能な事象に対して思考停止し、現実逃避、刹那主義に陥るニヒリズムが蔓延した時代。しかも、諦めてやりすごして何とかなるとう楽天虚無主義。これは、永続するものという皇国イデオロギーにも関係している。しかし、一方で、平成になって可能性としての終末が突きつけられている。

-平成は、経済成長による分配で国民の福利厚生の向上を図ることが困難になった時代。この中で国民の統合を図るために保守的思想が使われる。

  平成において、中間団体(農協などの圧力団体、労働組合など)の解体が進んだが、これは戦間期の政治状況に似る。

  平成のナショナリズムは、資本主義の行き詰まりがもたらす国民国家崩壊を押しとどめるためのみならず、東アジア冷戦構造に対応するために使われ、これに復古主義ナショナリズムが野合する。

  平成のナショナリズムは、それまでの経済ナショナリズムを相対化するために機能している。すなわち、物質的豊かさより精神的豊かさだというナショナリズム、非常時なので団結しようというナショナリズムが、福祉を向上させてみんな豊かに暮らそうというというナショナリズムをスポイルしている。

- AIによる雇用の減少は避けられない(もはやフロンティアは存在しない)ので、人間は疎外される。本来、資本主義が勝利した時にこそ、マルクスが読まれるべきであった。自由放任主義では済まない。AI、ロボットは、選択と抑制を労働者階級による人間本位の権力によって行う(現代の機械打ち壊し運動)べき。

-北一輝の思想と国家総動員時代の関係は、オウム真理教と平成の時代精神(ファシズム的性向、人間のポストヒューマン化)になぞらえられうる。

 

 

 



 

 

歌仙はすごい/辻原登・永田和宏・長谷川櫂

あられもないタイトルだが、

「歌仙はすごい」はすごい

 

なんという豊かな「座」であることか。

歌仙は、この国の文芸の一つの極み。

 

 

 

 

小泉信三/小川原正道

小泉信三は、小熊英二のいう「オールド・リベラリスト」(大正期に青年時代を送り、共産主義を嫌悪し天皇を敬愛する自由主義者。都市中産階級以上の出身で、一般民衆から隔絶している。軍国主義は突発的異常事態であり、それ故正常な大正に帰ればよい)ではあるが、大正回帰ではなく、明治又はサムライの時代に理想を見てモラルバックボーンを取り戻すことに思想的課題を置いた点において異彩を放ったという。

なんだか、さっぱり分からない。

 

小泉信三―天皇の師として、自由主義者として (中公新書)

小泉信三―天皇の師として、自由主義者として (中公新書)

 

 

 

ふたつのオリンピック/ロバート・ホワイティング

ライター&ジャーナリストの名刺を持つ著者が、1962年、米軍諜報部員として来日して以来、今日に至るまでの自伝的ノンフィクション。

タイトルはいわば象徴的なもので、オリンピックに重点はなく、半世紀以上にわたる日米の政治・社会、裏社会、スポーツ、ジャーナリズムなどについて、自らの体験や綿密なインタビューに基づいて綴るもの。秀逸な日米比較文化社会論でもあり、東京の社会史にもなっている。

日米比較の視点そのものも面白いのだが、野球やプロレスあるいは保守政治と裏社会・CIAとの関係など、突っ込んだ取材により、人物、エピソードがヴィヴィッドに描かれていていて飽きさせない。

特に興味深かったのは、著者の米軍勤務時代。

U2が日本に墜落していたとか、

キューバ危機に際して、沖縄に核が配備されていたから、沖縄ひいては東京への核報復を真剣に心配したとか、

北朝鮮からのヘロイン密輸にまつわるキャノン機関の謀略だとか、

マルクス主義の学生をギャフンと言わせたロバート・ケネディ司法長官の礼儀正しい振る舞いとか。

 

 

 

 

考える日本史/本郷和人

-戦国時代の同盟は全く守られなかった。他国の人間は信用できなかった。→秀吉以前の中世に日本という国家はなかったのではないか?

-日本では、諸外国で見られたような大虐殺が見られない(信長除く)。穏やかで変化を好まない日本の背景には、多神教世襲原理がある。大思想家もでない。

- 日本では法は疎かにされ、実力による支配が幅をきかせていた。律令国家はフィクション。

- 政治家が民の貧困を意識するようになったのは、1200年頃から。

- 日本は穏やかな国柄で、大規模な会戦は多くなく、戦いを科学する伝統がなかった→勝てそうもない太平洋戦争突入

- 源平合戦の頃は本当に一騎打ちだった。集団戦が登場すると、素人が槍で「叩き合う」。

 

 

考える日本史(河出新書)

考える日本史(河出新書)

 

 

 

あらためて教養とは/村上陽一郎

共感する点が多々ある。

こういう論旨に対しては、マンガを人前で読んで何を恥じなければならないというのか、老害のたわごとだ、みたいな(無教養な)反応が多いのではないだろうか。万人が教養ある人ではあり得ず、そういう人は今も昔も限られるのだろうが、教養人(たらんとする人)の割合が著しく低下しているということなのであろう。

あらためて教養とは (新潮文庫)

あらためて教養とは (新潮文庫)