ケアとセラピーは似て非なるもの。ケアは「傷つけない。ニーズを満たし、支え、依存を引き受ける。そうすることで…平衡を取り戻し、日常を支える」。ケアの必要な人は社会に「いる」のが難しい人たち、従って、ケアラーは「いる」のが難しい人と一緒に「いる…
ベトナム人不法滞在者ら(ボドイ)のコミュニティの迫真の密着ルポ。窃盗、殺人、売春などろくでもない犯罪行為がてんこ盛りだ。アンダーグラウンドの人間模様も読みどころ。 これら眼前の違法行為はキチンと正されるべきだが、これだけアングラコミュニティが…
精神医療、臨床心理学にかかわる多くの関係者を取材、自ら大学院に学び、中井久夫のクライエントとなって箱庭療法や風景構成法なども経験。河合隼雄、中井久夫という臨床心理学の泰斗の活動をはじめ、カウンセリングの歴史的な発展過程や臨床心理学、精神医…
宇沢弘文の思想の系譜に連なる財政社会学第一人者の自伝。大企業(日産自動車)の労務担当という経歴を持つ経済学者というのもなかなかいないだろう。 「分かち合い」「共生」を謳うグループの中心人物だと思うが、そのための負担(財政)のあり方についての国民…
御説は至極ごもっともで、本書の理論を自家薬籠中の物として、折々に適用していれば、私も成功したキャリアを歩み、一廉の人物となり得たかもしれない。 家族には恵まれて幸せな人生ではあると思うものの、自らの主体的判断によってそれが得られたという実感…
回送電車は11年ぶりで、VIということ。新作が出るのを気にして待っている作家なのに、IVもVも読んでおらず、一体いつの間に出ていたのかと狐につままれた感じ。回送電車とは、評論でもエッセイでも小説でもないような文章の表象なのだが、そもそも著者の文章…
イーロン・マスクの評伝。アスペルガーで双極性障害的気質の持ち主で、悪魔モードにある時は傍迷惑この上ない。 本人、休息が嫌いでシュラバ好き、リスクをとりに行くことが大好きで規制が大嫌い。 掲げるビジョンに向けて非常識と言える短い期限を設定し、…
ネット記事の日本語にうんざりすることが多い中で、新聞の日本語はこういう人に支えられているというべきなのだろう。 校閲記者ですら迷うという言葉遣いや表記の仕方など、違和感を感じる(じゃなくて違和感があるか)と思っても、自分の感覚の方がおかしいの…
著者の研究人生に焦点を当て、その研究内容を俯瞰するオーラルヒストリー。 経済理論は私には難解だが、氏の不均衡動学理論は、長く主流であった超新古典派的な「動学的確率的一般均衡」モデル(現実経済が大恐慌に突入しようがバブルで加熱しようが、それは…
イスラエル・パレスチナの歴史は、平和共存の合意ができる(できそうになる)と、妥協を拒む原理主義者らが暴力や無神経な挑発によってぶち壊す。暴力はこれに報復する過剰な暴力を生み、事態を悪化させるという繰り返し。 右傾化・強権化を強めるネタニヤフ政…
飲食店経営者から見たお客さん、客の立場から見た飲食店関係者についてのあれこれ。 飲食店経営者は、お客さんに喜んでもらいたいという思いがあるが、お客さんそれぞれが何をもって喜びを感じるかはそれぞれで、そこにドラマが生まれる。 お店には、お客さ…
一人につき5〜6ページとコンパクトにまとめられた近代の女性37人の評伝。短い文章だが、性的な虐待や女性であるというただそれだけで差別され、才能の発揮を妨げられる無念や哀しみ、逆境の中でもがき、自己の意思を貫こうとする姿に心打たれる。封建的な人…
著者曰く、音楽学は融通無碍。和音とかメロディの分析?みたいなことかと思ったが、全く違ってその言葉からイメージするものよりはるかに幅広い内容を含む。 紹介されるのは、 音楽史学 駄作という定評のワグナーの「アメリカ独立百周年行進曲」の成り立ちと…
東日本大震災直後から2015年までの朝日新聞「論壇時評」に掲載されたもの。 ここで民主主義とは、異なった意見や感覚、習慣を持った人たちが一つの場所で一緒にやっていくシステムのこと。他人と生きることはとても難しく、だから民主主義は困難で、僕らの民…
2009年上梓の「朝日平吾の鬱屈」の改訂文庫版。安田財閥の創設者安田善次郎を暗殺した朝日平吾は、自尊心ばかり高く、何事にも他責的で、承認欲求が強い。北一輝の影響下に設計主義的な革新的日本主義を掲げ、「労働ホテル」構想の挫折等から富者に対する恨…
並木浩一元日本旧約学会会長と奥泉光(ICU卒)の対談による旧約聖書の解題。 最後はヨブ記。ヨブは最後、神との対話を経て、(応報原則が当てはまらない)善人にも災厄が降りかかる現実を受け止め、神の責任を問うことをやめて神を全面的に受け入れる。応報原則…
冒頭から満洲を舞台にした謀略ものかと思って読んだが、主人公の一人細川は間諜風ではあるものの、謀略ものの駆け引きの面白さで読ませる本ではなく、ドキドキさせてもらえなかった。 著者の東大での指導教官だったらしい松浦寿輝の上海を舞台とした「名誉と…
著者の曽祖父の代からの'ファミリーヒストリー'を、また大(greater)五反田の歴史を、祖父の手記や関係者への取材、文献調査などによって、丁寧に、きめ細かく描く。大五反田は、正田家のあった高台の御屋敷町と川沿い・低地の工場街が近接する地域であり、工…
読む本がなくなって、Kindleで知財切れの短いものを漁って。「硝子戸の中」ってエッセイだったのか。 39の短い文章からなっていて、繋ぎ合わせると漱石晩年の「吾輩は猫である」みたいな趣もある。幼少期の回想なども興味深い。 最後、漱石は、振り返って、…
著者はコミュニタリアン。現在の政治状況における「形容詞としてのリベラル」の重要性を説く。(保守とリベラルというような名詞でなく、)新しいポピュリズムと闘うリベラルな民主主義者、権威主義に反対するリベラルな社会主義者、反ムスリム等排外主義的ナ…
宇沢弘文の評伝だが、その事績を詳細にたどることで、世界の経済学の潮流の盛衰記にもなっている。 著者には、宇沢とは思想的にも人間的にも対極と言ってよい竹中平蔵の評伝(大宅賞受賞)がある。 竹中が政権中枢に入ってその考え方で日本経済を動かす一方、…
中国の死神「無常」とは、中国民間信仰(仏教・儒教・道教と直接は関係しない)の領域の鬼神であり、死者を鬼界へ導く勾魂使者。様々なバリエーションがあり、ユーモラスな趣もあるのだが、長い舌をダラリと垂らすなどそのビジュアルが強烈で、何やらそれだけ…
町田康の自分語り。高尚な言葉、建前の言葉と卑俗の言葉、本音の言葉。前者は欺瞞の言葉、後者は公にすると面白くなる。 詩は、わからんけどわかるもの。重大なことを書くと面白くなくなる、 文体は、その人の意思そのものであり(癖ではない)、工夫している…
ビジネスシーンなどでの活用を意識した50の哲学・思想についてのいわば箴言集。▼知らないものや認識を新たにしたものも多く、興味深く読んだ。▼このようなビジネス書が役立つかどうかは結局読者の意識次第で、私にとっては猫に小判であることは分かっていて…
世界各地の家庭に滞在して一緒に料理し、料理から見える社会や暮らしを伝える「世界の台所探検家」。 決めつけない、しなやかな考え方が、好ましい。 伝統食が政治や企業活動によって作られたイメージであることがよくある(ブルガリアヨーグルト) 安全性、文…
我が国の進化心理学の第一人者による分かりやすい概説。 昨今は、性差についての研究は、性差別の問題と密接に関連するが故に議論が感情的となり、研究自体も減少しているという。人間の性差について客観的な評価は可能であり、研究者が偏見を持っていたとし…
人々は豊かになって暇を得たが、文化産業が人々に産業に都合のいい楽しみを提供し、労働者の暇を搾取している。これは人が退屈を嫌うから。なぜ人は暇の中で退屈してしまうのか。暇の中でいかに生きるべきか、退屈とどう向き合うべきか(暇と退屈の倫理学)。 …
ジェンダー格差についての実証経済学、すなわち統計学を使って因果関係(≠相関関係)を厳密に示すエビデンスを提供する研究を紹介するもの。 因果関係の証明は結構大変で、相関関係を因果関係と見誤ってエビデンスと捉えると政策の方向性を間違えかねない。 男…
著者によると、本書は、社会システム、制度・政策論中心の「人口減少社会のデザイン」、哲学的、思想的考察中心の「無と意識の人類史」に続く、両書を架橋する書としての3部作の最終作。前2作を読んだ者には、その著者の考え方を確認し、また理解が深まるも…
学生の頃読んだような気がするが、書棚に飾っただけだったか?今回も一応読んだが、きちんと読んだとは言えない。 中世の桎梏を脱して自由を得た市民は、その孤独・無力に耐えられず、自由から権威主義(=サド/マゾ)へと逃走、ナチスを産む(乱暴なまとめ)。 …