HONMEMO

読書備忘録です。

エッセイ

経済学は悲しみを分かち合うために/神野直彦

宇沢弘文の思想の系譜に連なる財政社会学第一人者の自伝。大企業(日産自動車)の労務担当という経歴を持つ経済学者というのもなかなかいないだろう。 「分かち合い」「共生」を謳うグループの中心人物だと思うが、そのための負担(財政)のあり方についての国民…

中継地にて/堀江敏幸

回送電車は11年ぶりで、VIということ。新作が出るのを気にして待っている作家なのに、IVもVも読んでおらず、一体いつの間に出ていたのかと狐につままれた感じ。回送電車とは、評論でもエッセイでも小説でもないような文章の表象なのだが、そもそも著者の文章…

お客さん物語/稲田俊輔

飲食店経営者から見たお客さん、客の立場から見た飲食店関係者についてのあれこれ。 飲食店経営者は、お客さんに喜んでもらいたいという思いがあるが、お客さんそれぞれが何をもって喜びを感じるかはそれぞれで、そこにドラマが生まれる。 お店には、お客さ…

硝子戸の中/夏目漱石

読む本がなくなって、Kindleで知財切れの短いものを漁って。「硝子戸の中」ってエッセイだったのか。 39の短い文章からなっていて、繋ぎ合わせると漱石晩年の「吾輩は猫である」みたいな趣もある。幼少期の回想なども興味深い。 最後、漱石は、振り返って、…

ワンルームから宇宙をのぞく/久保勇貴

若いJAXA研究者によるブログをもとにしたエッセイ。ワンルームでの私生活のつれづれに宇宙機制御工学や物理、天文などのエピソードを絡めた優しい文章。読んでいてこちらが赤面するようなラブレターのようなものや宇宙飛行士選抜試験に落ちた赤裸々な心情な…

地霊を訪ねる/猪木武徳

著名な経済学者による紀行エッセイ。友人(研究者)とともに、鉱山跡地を中心に産業遺産や名所旧跡なども含めて、全国を旅した記録(著者は温泉好きのようで、宿泊先は秘湯と言われるような温泉宿も多い)。 巻末に人名索引があるのも、本書のようなエッセイでは…

からだの美/小川洋子

精緻な観察と想像力、そしてきめ細やかな感性とそれにふさわしい美しい言葉。上質で豊かな贅沢な時間を過ごす。しかし、本書を語るに陳腐な言葉しか出てこない我が身が悲しい。 昔ながらのコーヒーショップに置いてあったりするとすごくいい。 からだの美 (…

もっとおいしく作れたら/樋口直哉

著者は作家でもあり、料理人でもあるようだ。いろいろなサイトを参考にしながら適宜好みにアレンジしたりしているが、料理を工夫するのは楽しいものだ。 『おいしさと美しさはよく似ている。どちらも主観的であり、客観的なものではないので、自分とあなたが…

歴史のダイヤグラム/原武史

副題は鉄道に見る日本近現代史。鉄道ファンである著者の個人史的なものも含まれているが、初出が朝日新聞日曜版に掲載されたコラムということで、肩肘張らないちょっと気の利いた読み物になっている。 72年の浅間山荘事件で政治の季節は終わったとも言われる…

保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである/福田和也

20年も前になるだろうか、石原莞爾の評伝「地ひらく」などを興味深く読んだ頃、著者は江藤淳の弟子的な立ち位置で保守文壇の寵児としてエネルギッシュに活躍していた。その後も「昭和天皇」といった大著もあったことを知っているが、久しぶりに見たのが本書…

人間の集団について/司馬遼太郎

1973年に新聞連載されたベトナム思索紀行。米軍撤退後サイゴン陥落前の南ベトナム(サイゴン〜メコン)で考えたことを徒然に記したもの(解説の桑原武夫は第一級の思想書と評する)。 親中、親ソ、新米3つの正義(共産主義と自由主義でもいい)の名の下に、機械運…

サガレン/梯久美子

「散るぞ悲しき」は積んであったような気がしたが、この作者結局一冊も読んでいない。 サガレンとは、樺太/サハリンの旧名で宮沢賢治がそう呼んだことにちなむ。日露混住の地から樺太千島交換条約によりロシア領に。その頃、チェーホフが詳細な旅行記をまと…

ロシア点描/小泉悠

ロシアの生活と政治・権力構造について、自らの実体験をもとにやわらかく語るもの。 ロシア人は「これはルールです」と言われると反発したくなるようなところがある。ロシア人には、このような「容易に統治できない我々」意識とこれと表裏一体の関係にある「…

わたしのなつかしい一冊/池澤夏樹編

池澤夏樹編の50人による懐かしい本にまつわるエッセイ。掌編集かと思ったら書評・エッセイ集だった。 わたしのなつかしい一冊 作者:池澤 夏樹,小島 慶子,川本 三郎,辛酸 なめ子,山内 マリコ,高村 薫,若松 英輔,小島 ゆかり,瀬浪 貞子,益田 ミリ,養老 孟司,江…

ヘルシンキ 生活の練習/朴沙羅

ヘルシンキに幼児2人を連れて単身移住した著者によるエッセイ。関西弁とは関係なく、文体が好みでないためか、頭に入ってこない。 フィンランド人は、人間の性格や性質について、いいところと悪いところという発想がなく、練習が足りているところと足りてな…

新選山のパンセ/串田孫一

山にまつわるエッセー、思索の書。 哲学的な文章はあまり面白くない。無論私の理解が足りないからに違いないが。 新選 山のパンセ (岩波文庫) 作者:串田 孫一 岩波書店 Amazon

俳句と人間/長谷川櫂

俳句の話を縦糸に、生と死、天国と地獄、民主主義の挫折、時代精神の変遷、身辺雑事に及ぶ話題を記したエッセイ(あとがき)。 時代精神の話を少しメモ。 芭蕉は、古典復興の空気の中で生まれた根っからの古典主義者だったが、「かるみ」という脱古典を目指し…

作家と珈琲

古くはシーボルト、漱石、寺田寅彦から村田沙耶香に至るまでの52人によるコーヒーにまつわるエッセーのアンソロジー。 チェーンコーヒーショップとは異なる趣ある喫茶店でのコーヒーのお供に。 作家と珈琲 平凡社 Amazon

定形外郵便/堀江敏幸

2014年から21年まで芸術新潮に連載された文学・芸術まわりのエッセー集。 日常の中での気づきをやわらかな言葉で紡ぐ。 文章を綴る上での社会状況との関連についての文章(「傷つきつつ読みとったもの」)があるが、何編かのうちに政治や社会状況についての批…

米原万里の「愛の法則」/米原万里

1998〜2005年までの講演4本の文章化。表題作だけちょっと異質で、残りはコミュニケーション論。 ・アメリカ人のグローバリゼーションは、自分たちの基準を世界に普遍させること。日本人のいうそれは、日本の習慣・基準を世界標準に合わせること。これを自覚…

花の百名山/田中澄江

本書初出は1980年、著者72歳の時の上梓。今70を超えて登山をする人は珍しくないが、私などから見ると著者の健脚ぶりは驚くばかり。しかも、雨であろうと夜であろうと、風邪で熱があろうとお構いなし。少しの時間があれば山に行きたくて、着物/浴衣に下駄、草…

おいしいものでできている/稲田俊輔

食にまつわるエッセイは星の数ほどあるけれど、本書の楽しさはピカ一だ。 取り上げられる料理は月見うどんやサンドウィッチ、カツカレーなどなじみのものばかり。 それぞれについての著者のこだわりや視点が、押しつけがましくなく綴られる。なんというかdec…

両義の表現/李禹煥

美術家李禹煥の評論集。「13歳からのアート思考」でいう「探究の根」を李禹煥自らが解説し、様々なアートととどのように向き合ったかを語る。 ・絵画にせよ彫刻にせよ、自己のエゴで全てが決定される作品は、閉じた意味の塊になりやすく、生きた感じが出にく…

わたしが行ったさびしい町/松浦寿輝

エッセイ集。滝を見なかったナイアガラフォールズ、車の故障でやむなく泊まったアリゾナの町タクナ、その他通り過ぎただけといったような町、有名な観光地の人々の生活の場所などの思い出。 ピトレスクないわゆる観光地が、「記憶の底にいつまでも沈澱して残…

いつか来る死/糸井重里・小堀歐一郎

・食べたり飲んだりしないから死ぬのではなく、死ぬべき時が来ると食べたり飲んだりする必要がなくなる。 ・自己犠牲の精神で患者に「寄り添う」のは非常に難しい。だからこそ簡単に「寄り添う」などと言ってはいけない。 ・人は生きてきたようにしか死ねな…

歩いて、食べる東京の名建築さんぽ/甲斐みのり

行ったことのあるのは、取り上げられている25の建築の半分強かな。行ったことがあっても入れないところ、気がつかなかったところも多い。それから忘れているところ。東京文化会館は長いこと行っていないが、座席があんなにカラフルとは。人が座ってて分から…

こぐこぐ自転車/伊藤礼

事故を起こして骨折したり、お尻が痛くなってもやめられない自転車乗り。エッセイを書いた時点で古希、喜寿になってもまだ乗っているようなので立派。ユーモアほのかに楽しめる。 伊藤整の息子。と、何かにつけて言われる人生なんだろうな・・・などと。 こ…

戸惑う窓/堀江敏幸

窓を切り口にしたエッセイ。私は、堀江敏幸の鋭敏な感覚、観察と、難解な言葉一つない一見素直だけど詩的で厄介に感じる文章に、憧れているというべきなのかもしれない。 戸惑う窓 (中公文庫) 作者:堀江 敏幸 発売日: 2019/10/18 メディア: 文庫

私的読食録/堀江敏幸・角田光代

堀江敏幸と角田光代による小説やエッセイの中の食をめぐるリレーエッセイ。 角田「本の中に出てくる食べものというのは、読むことでしか食べられない」(「小公女」) 堀江「料理は記憶である」(「わたぶんぶん」) 私的読食録 作者:角田光代,堀江敏幸 発売日: …

家族最後の日/植本一子

著者は写真家。 第1部はモラハラの母親、第2部は割腹・飛び降り自殺をした義弟の話。第3部はステージ3の癌が分かって入退院を繰り返すラッパーの夫と小さな娘2人との暮らしの赤裸々な日記。 苦しいとき、母への憎しみとともに子どものように泣きつきたい衝…