HONMEMO

読書備忘録です。

ノンフィクション

北関東「移民」アンダーグラウンド/安田峰俊

ベトナム人不法滞在者ら(ボドイ)のコミュニティの迫真の密着ルポ。窃盗、殺人、売春などろくでもない犯罪行為がてんこ盛りだ。アンダーグラウンドの人間模様も読みどころ。 これら眼前の違法行為はキチンと正されるべきだが、これだけアングラコミュニティが…

セラピスト/最相葉月

精神医療、臨床心理学にかかわる多くの関係者を取材、自ら大学院に学び、中井久夫のクライエントとなって箱庭療法や風景構成法なども経験。河合隼雄、中井久夫という臨床心理学の泰斗の活動をはじめ、カウンセリングの歴史的な発展過程や臨床心理学、精神医…

経済学は悲しみを分かち合うために/神野直彦

宇沢弘文の思想の系譜に連なる財政社会学第一人者の自伝。大企業(日産自動車)の労務担当という経歴を持つ経済学者というのもなかなかいないだろう。 「分かち合い」「共生」を謳うグループの中心人物だと思うが、そのための負担(財政)のあり方についての国民…

近代おんな列伝/石井妙子

一人につき5〜6ページとコンパクトにまとめられた近代の女性37人の評伝。短い文章だが、性的な虐待や女性であるというただそれだけで差別され、才能の発揮を妨げられる無念や哀しみ、逆境の中でもがき、自己の意思を貫こうとする姿に心打たれる。封建的な人…

テロルの原点/中島岳志

2009年上梓の「朝日平吾の鬱屈」の改訂文庫版。安田財閥の創設者安田善次郎を暗殺した朝日平吾は、自尊心ばかり高く、何事にも他責的で、承認欲求が強い。北一輝の影響下に設計主義的な革新的日本主義を掲げ、「労働ホテル」構想の挫折等から富者に対する恨…

世界は五反田からはじまった/星野博美

著者の曽祖父の代からの'ファミリーヒストリー'を、また大(greater)五反田の歴史を、祖父の手記や関係者への取材、文献調査などによって、丁寧に、きめ細かく描く。大五反田は、正田家のあった高台の御屋敷町と川沿い・低地の工場街が近接する地域であり、工…

世界の食卓から社会が見える/岡根谷実里

世界各地の家庭に滞在して一緒に料理し、料理から見える社会や暮らしを伝える「世界の台所探検家」。 決めつけない、しなやかな考え方が、好ましい。 伝統食が政治や企業活動によって作られたイメージであることがよくある(ブルガリアヨーグルト) 安全性、文…

イラク水滸伝/高野秀行

世界古代文明(シュメール)揺籃の地にほど近いチグリス川とユーフラテス川の合流する辺りは、アフワールと呼ばれる広大な湿地帯になっていて、騒乱のたびに人々が逃げ込むアジールでもある。今でも政府勢力の影響力が及びにくく、情報も少ない謎の地域で、安…

シン・中国人/斎藤淳子

著者は北京に長く住むライター。 最近の若者の恋愛、結婚事情を中心とした中国社会事情ルポ。 中国では経済成長もそうだが、結婚平均年齢、離婚率の上昇、少子化など社会構造も超高速・圧縮型で変化した。 貧富の差の拡大、不動産価格の高騰などの経済成長に…

世界中から人が押し寄せる小さな村/島村菜津

アルベルゴ・ディフーゾとは分散型の宿などと訳される、地域に点在する古民家などを拠点として、自然や農村の暮らしを楽しむようなシステム(レセプションはひとつ、食事は村の食堂)又はその宿。イタリアでサント・ステファノ・ディ・セッサニオという村など…

世界の廃墟島/クラウディア・マーティン

世界中の廃墟となった102の島の写真集。城砦、流刑地、検疫あるいはハンセン病隔離施設などの役割を終えて放置された島、災害や戦争、核実験などにより破壊された島、過疎化により見捨てられた島など。 具体的には、チフスのメアリーが23年隔離されたノース…

サーカスの子/稲泉連

稲泉連は、「ぼくもいくさに征くのだけれど」、「アナザー1964」、「廃炉」と読んできた。 著者は就学前の1年ほど、母とサーカスに暮らした。それは夢と現のあわいの独特の時間として記憶される。本書は、その時に出会った人たちを中心とするサーカスの人々…

JK、インドで常識ぶっ壊される/熊谷はるか

親の転勤に伴い、インドで暮らすことになった女子高校生が考えたこと。 思ったよりずっとしっかりした文章で感心させられる。 潜在的な差別意識や固定観念についての気づき、貧富の差に直面しての罪悪感、貧しい子供達の持つ上向きの力=希望についての気づき…

シュードッグ/フィル・ナイト

NIKE創業者の自伝。凄まじい負けず嫌いと情熱。リスクをものともしないというか、ハッタリを超えて詐欺とも言えそうな行動(実際詐欺罪でFBI沙汰になる)をとったりする。痛快な成功物語だが、一方で、日商岩井の人情が際立ち、こういうリスクの取り方、商売の…

田中耕太郎/牧原出

東京帝国大学法学部長、文部大臣、参議院文教委員長、最高裁判所長官、国際司法裁判所判事を歴任した田中耕太郎の人物評伝。 田中は、論敵を強烈に批判し、明快に自らの価値に基づく意見を主張しつつ、状況に応じた対応をする。このことによって組織内で反対…

黒い海/伊澤理江

2008年、17人が死亡した漁船の海難事故の原因を追うノンフィクション。 現在原発処理水問題の渦中にある福島県漁連会長の会社の漁船が犬吠埼沖で沈没。その原因は波とされたが、油が大量に流失していたという生存者の証言は運輸安全委員会の報告書と大きく食…

人間の集団について/司馬遼太郎

1973年に新聞連載されたベトナム思索紀行。米軍撤退後サイゴン陥落前の南ベトナム(サイゴン〜メコン)で考えたことを徒然に記したもの(解説の桑原武夫は第一級の思想書と評する)。 親中、親ソ、新米3つの正義(共産主義と自由主義でもいい)の名の下に、機械運…

それでも、私は憎まない/イゼルディン・アブエライシュ

ガザの難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人の産婦人科医の自伝。 医学は人々の分断に橋をかけることができると信じて、ガザに住み、非人道的検問を通過してイスラエルの病院で診療を行うために往復する。(ガザに設備の整った病院はなく、パレスチナ人も…

戦争は女の顔をしていない/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

第二次対戦中ソ連軍やパルチザンに参加した女性たちに対するインタビューをまとめたもの。当時100万人を超える女性が従軍したという。衛生兵、看護師、通信兵といった職種だけでなく、工兵や狙撃兵、戦車部隊まで、また兵だけでなく士官もいるなど、ありとあ…

サガレン/梯久美子

「散るぞ悲しき」は積んであったような気がしたが、この作者結局一冊も読んでいない。 サガレンとは、樺太/サハリンの旧名で宮沢賢治がそう呼んだことにちなむ。日露混住の地から樺太千島交換条約によりロシア領に。その頃、チェーホフが詳細な旅行記をまと…

木琴デイズ/通崎睦美

平岡養一は、明治40年、実業家の長男として生まれ、音大でなく、慶應で学び、木琴の黄金時代を迎えつつあった米国で活躍、日米交換船で帰国後、日本における木琴時代(デイズ)を牽引、国民的音楽家となった。戦後再び米国へ渡るも、その頃からマリンバの人気…

人生はそれでも続く/読売新聞「あれから」取材班

過去にニュースで取り上げられた22人のその後の人生をたどるノンフィクション。 のぞき見的悪趣味かと躊躇うところもあったが、そうでもなく。 2012年9月から原子力規制委員会委員長も務めた田中俊一さんは、立場故に批判に晒されることも多かったように思う…

ヒロシマを暴いた男/レスリー・ブルーム

広島への原爆投下による被害、その影響を、まだ米国・米軍が隠蔽しようとしていた時に、6人の広島の住民の証言を中心として紹介したピュリツァー賞作家ジョン・ハーシーによるニューヨーカー誌の記事ヒロシマ。人道問題や隠蔽批判など激しい反響をもたらす一…

告白/旗手啓介

1993年カンボジアPKOでの文民警察官の殉死をめぐるドキュメント。NHKスペシャルの取材をもとにまとめたもの。 PKOは、紛争当事国間に停戦合意が成立していることを前提としている、すなわち現地は安全であることを原則(建前)としていることから、要員は、武…

レナードの朝/オリヴァー・サックス

嗜眠性脳炎の後遺症としてパーキンソン症候群を発症することがある。その特効薬であるドーパミン前駆体L-DOPAの投与についての臨床研究の記録。 同薬の投与は、パーキンソン症候群の症状を目覚ましく軽減、改善するが、その後、舞踏病、チック、過度の興奮、…

踏み出す一歩は小さくていい/河野理恵

ケニアでアパレル関係で起業した著者の成功譚。爽やかな幸福感を共有できる。著者には成功に至る様々な好条件、環境があったと言えようし、幸運に恵まれたという面もあるだろうが、とにかく踏み出すということ自体が凡人にはなかなかできないというところだ…

空へ/ジョン・クラカワー

難波康子を含む6人の死者を出したエベレストでの遭難事故の同行ジャーナリストによる詳細な記録。盛んになり出した商業的な公募隊の問題点をレポートするという目的があったが、著者は、参加した営業公募隊のメンバーの能力を評価し、資格不十分な者はむしろ…

モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語/内田洋子

イタリア北部の山の中の過疎の村モンテレッジオ(現人口32人)は、多くの人が本の行商で生計を立ててきた歴史を持つ。重いし、誰にでも売れるというものでもない「本」を担いで売り歩く?そういう面ももちろんあったのだろうが、基本的には都市に出て露天商と…

パキスタンへ嫁に行く/わだあきこ

著者は写真家。1995年の上梓。 パキスタン北西部、アフガニスタン国境に近いヒンドゥークシ山脈に抱かれた谷に暮らすカラーシャ族の祭りなどその習俗を取材するうちに半分現地で暮らすようになり、現地の人と結婚。 カラーシャ族の人々は、非イスラムで独自…

生かされて。/イマキュレー・イリバギザ、スティーヴ・アーウィン

1994年のルワンダの大量虐殺を生き延びた著者の独白録。2006年の上梓。当時、映画ホテルルワンダほどでないにしても話題になった本だが、たまたま図書館で目に入って。少年少女に語りかけるような柔らかな文章だ。 虐殺の嵐の中を狭いトイレに3ヶ月もの間こ…