HONMEMO

読書備忘録です。

ノンフィクション

地方選/常位健一

取り上げられる地方選は、大間町、中札内村、姫島村、松野町、北山村、えりも町、上峰町の7つの首長選。 地方の首長選は、名望家、パトロンによるしがらみの政治が支配的で、多選、無投票になりがち、選挙があるとその分断が尾を引く。まあ、よく聞く話では…

10万個の子宮/村中璃子

子宮頸がんワクチンの接種後、痙攣する、歩けない、慢性の痛み、記憶力の低下といった神経の異常を思わせる様々な症状を訴える人が相次ぎ、厚労省は「積極的な接種勧奨の一時差し控え」を決定。ワクチン接種の副反応だとして裁判にもなったそのような症状は…

宿無し弘文/柳田由紀子

スティーブ・ジョブズに影響を与えたことで知られる禅僧乙川(知野)弘文の人となりを、日本はもとより、米国、ヨーロッパの多くの関係者のインタビューによって浮かび上がらせる。 マネージメント、組織化という能力に欠けるが、請われて出向いては人々を感化…

パワースポットはここですね/高橋秀実

もちろん、全国のパワースポット紹介本ではない。 パワースポットって何?どんなふうにできたの?人はそれに何を求めているの?そこでどんなふるまいを?行くとどうなるの? みたいなことを、毎度のようにぐるぐると考察するお話。 パワースポットはここです…

チョンキンマンションのボスは知っている/小川さやか

香港のタンザニア人コミュニティの経済活動を中心にしたルポ。(サブタイトルの「アングラ経済の人類学」のアングラというのはややミスリーディング。中古車や修理済み携帯などのスポット的な取引が多く、ニッチではあるが、ほとんどは違法というほどではない…

暴君/牧久

国鉄・JRの労働組合のドン松崎明の評伝。 国鉄労組といえば、経営に介入、生産性の向上、合理化に反対し、順法闘争とかスト権ストとか、なかなか理解しがたい戦術で混乱をもたらし、莫大な累積赤字の主たる原因を作ったというイメージ。そのドンともいう人物…

女帝小池百合子/石井妙子

石井妙子は、おそめ、日本の血脈の2冊を読んだことがあって、その丁寧な取材と文体を好感していたので、ジャーナリスティックな糾弾ものとは異なるだろうと思って手に取ったが、対象が対象だけに(?)やや情緒的な感じではある。 カイロ大学卒業という学歴詐…

鶴見俊輔伝/黒川創

鶴見俊輔については、日米交換船、日本人は何を捨ててきたのか、北米体験再考と読んできて、何故か気になる思想家。思想の科学も転向についての著作も読んだことなく、ベ平連の活動や安保闘争も中心となったのは私より一世代上で、私としては実感が乏しいの…

海峡に立つ/許永中

イトマン事件の主人公の一人として知られる許永中の自伝。戦後からバブル期に暗躍した在日のフィクサー。自身からみるとイトマン事件は全くの無実、検察の陰謀であると。 海峡に立つ:泥と血の我が半生 作者:許 永中 発売日: 2019/08/28 メディア: 単行本

女たちのシベリア抑留/小柳ちひろ

NHKのドキュメンタリーの取材をもとにまとめたもの。 女性抑留者には、看護婦や電話交換手、中には芸者などもいて、看護婦として働いたり、極寒の中を畑仕事をさせられたり、あるいは囚人として矯正労働をさせられたり。男性と同様の重労働は課せられないよ…

地形の思想史/原武史

タイトルは、分からなくはないが、大きすぎというか。それぞれあるテーマをもとにして、ちょっと地形にも絡めて、色々と考える旅行記という感じ。 ・「岬」 現上皇が皇太子時代に夏を過ごした浜名湖のプリンス岬のこじんまりとした保養所での日々は、当時の…

ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと/奥野克己

ボルネオ島に暮らす狩猟採集民族プナンは、反省しない。 プナンでは、寛大な心で与えられたものを最も頻繁に分け与える人物がビッグマンとして尊敬される。彼自身は最も質素。 プナンは、個人所有を前提として貸す、借りるということがなく、共有することが…

アフリカの難民キャンプで暮らす/小俣直彦

著者は、オックスフォード大学難民研究センター主任研究員。ロンドン大学で博士号取得のため必要な「難民の経済生活」調査のため、2008年にガーナのリベリア難民キャンプに入り、1年余を現地ブジュブラムで暮らす。 難民が受け入れ国に滞在する期間は平均で2…

おすもうさん/高橋秀実

国技、伝統、品格の相撲もこの著者にかかると、なんだかゆるゆる、ほんわか。独特のユーモアの中に戦時中の相撲などへーもあって、くせになる。 おすもうさん 作者:高橋秀実 (たかはし・ひでみね) 出版社/メーカー: 草思社 発売日: 2010/08/24 メディア: …

魔王/エヴァン・ラトリフ

ネタバレ 大規模な違法インターネット薬局事業、ソマリアでのマグロ漁(セーシェルのクーデター偽装目的)、武器や麻薬取引など闇の世界の元締め、殺人も意に介さない特異な人格ル・ルーの物語。 アメリカでも異例と受け止められているようだが、犯罪組織のト…

悩める法王フランシスコの改革/秦野るり子

貧者に寄り添う「改革派」法王。 法王には、巨大組織を動かす俗的な能力が必要とされると。 取り組んでいる改革は、以下のように多岐にわたる。 ・意識改革、機構改革(地方分権など) ・バチカン銀行改革 ・他宗教、他教派、他国との関係改善 ・中国問題 ・性…

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ

日本で暮らしていると分からない"ダイバーシティ"の実際。 母子の会話: 「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」 「楽じゃないものが、どうしていいの?」 「楽ばっかりしてると、無知になるから」 これ…

パンと野いちご/山崎佳代子

第2次大戦、ユーゴスラビア紛争下での旧ユーゴスラビアの人々の食を中心とする?記憶の聞き書き。6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教などと言われる極めて複雑な地域であることなどにもよるのだが、もう少し整理してもらわないと、読むのが辛い。…

最後の秘境 東京藝大/二宮敦人

東京藝大の学生たちへのインタビュールポ。 藝大は音楽と美術の両方をもつ点に特徴がある(言われてみればそうだ)。音楽は一過性の芸術であるのに対し、美術は作品が残るといったことなどを反映してか、音校と美校の学生にはそれぞれカラーみたいなものがあり…

天皇の憂鬱/奥野修司

天皇の憂鬱とは、 皇位継承問題と国民との距離感 天皇の憂鬱 (新潮新書) 作者: 奥野修司 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/03/14 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る

モンスターマザー/福田ますみ

この母親の言動は人格障害によるもので、問題は学校にではなく、母親にあるということは比較的容易に明らかになるものだったように思う。それを子供の自殺という最悪の結果に追いやったのは、いじめ問題というステロタイプに押し込めようとする人権派弁護士…

団地と移民/安田浩一

高齢化が進む郊外の団地に外国人労働者(移民)が流入して、住民のほとんどが高齢者と外国人というところが出てきている。高齢化に伴う孤独死などの問題と貧困、文化摩擦への対応、それはまさに、これからの日本が否応なく向き合わなくてはならない状況を先取…

恐怖の男/ボブ・ウッドワード

トランプ政権の意思決定過程が、まるでホワイトハウスで大統領の隣で見ているかのように記されていて、出色。 トランプ大統領は、極めて感情的で、気まぐれ。知能が低いとか小学生のようだなどと周りから評され、ブリーフィングをまともに聞くことも出来ず、…

さいはての中国/安田峰俊

-深圳のネトゲ廃人 (NHKで同様の特集を見た。) 社会主義中国の経済社会の矛盾 - 広州のリトルアフリカ 中国がアフリカに大々的に投資をしている一方で、実はアフリカからの移民が相当程度ある。アフリカ移民に対し、中国人が「連中は声が大きくて態度が傲慢…

死に山/ドニー・アイカー

60年前、冬のソ連ウラル山脈での若者9人の遭難事故。遭難者たちは、靴を履かず、衣服もろくに着けず、重傷を負ったものや舌がなくなっている者もあり、衣服からは放射線が検出された。ソ連時代という背景などもあって、謎の提示は圧倒的なのだが、ノンフィク…

小泉信三/小川原正道

小泉信三は、小熊英二のいう「オールド・リベラリスト」(大正期に青年時代を送り、共産主義を嫌悪し天皇を敬愛する自由主義者。都市中産階級以上の出身で、一般民衆から隔絶している。軍国主義は突発的異常事態であり、それ故正常な大正に帰ればよい)ではあ…

ふたつのオリンピック/ロバート・ホワイティング

ライター&ジャーナリストの名刺を持つ著者が、1962年、米軍諜報部員として来日して以来、今日に至るまでの自伝的ノンフィクション。 タイトルはいわば象徴的なもので、オリンピックに重点はなく、半世紀以上にわたる日米の政治・社会、裏社会、スポーツ、ジ…

戦禍のアフガニスタンを犬と歩く/ローリー・スチュワート

2002年初頭、休暇中のイギリス外交官が、タリバン政権崩壊直後の冬のアフガニスタン中部山岳地帯をヘラートからカブールまで、徒歩で(途中から犬を連れて)横断した記録。 著者は、ゲストとして泊めてもらうこととなる人々、道で出会う人々が、宗派、部族も異…

殺人犯はそこにいる/清水潔

取材力に敬服する。 一方、このような気合の入った(思い込みいっぱいと取られても仕方ないような)取材の仕方は、警察庁にハッパをかけられた県警の捜査と同様の危うさを孕むように思える。 少なくとも表現の仕方としては、告発すべきは告発すべきとして、も…

選べなかった命/河合香織

本書の主題とはズレるのだが、裁判による救済にはそもそも限界があるのではないかということを考える。最後の手段ということではあったのだろうけれど。 選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子 作者: 河合香織 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 201…