HONMEMO

読書備忘録です。

フィクション

イスラエル/ダニエル・ソカッチ

イスラエル・パレスチナの歴史は、平和共存の合意ができる(できそうになる)と、妥協を拒む原理主義者らが暴力や無神経な挑発によってぶち壊す。暴力はこれに報復する過剰な暴力を生み、事態を悪化させるという繰り返し。 右傾化・強権化を強めるネタニヤフ政…

地図と拳/小林哲

冒頭から満洲を舞台にした謀略ものかと思って読んだが、主人公の一人細川は間諜風ではあるものの、謀略ものの駆け引きの面白さで読ませる本ではなく、ドキドキさせてもらえなかった。 著者の東大での指導教官だったらしい松浦寿輝の上海を舞台とした「名誉と…

夜と霧の隅で/北杜夫

北杜夫は中高時代の青春の書。 ほとんど覚えていないのだが、冒頭に置かれた「岩尾根にて」の蝿のたかる死体と自己が分裂する幻想など、ところどころ、ああそうだったとよみがえる。「夜と霧」を読んだついでにと借り出したのだが、表題作は全く覚えていなか…

キリンの首/ユーディット・シャランスキー

ドイツ東部(旧東独)の寂れつつある町のギムナジウムの女性生物学教師の独白的な物語。旧東独の雰囲気を引き継いでトーン全体が寒々しく印象的だ。主人公は、適者生存(キリンの首が長い理由と主人公は考えている)など生物学の持つ冷徹さを体現しているような…

彼女たちの場合は/江國香織

かみさんの本棚から。江國香織は初めてではないかな、と思ったら、きらきらひかるを読んでいた。 17歳の逸佳は、留学生として14歳の従妹礼那のニューヨークの家から学校に通うが、思い立って礼那と2人西部に向けて旅に出る。家出ではないと置き手紙をして。…

香港陥落/松浦寿輝

物語は、日本による香港占領にまつわる3人の食事場面6回(前半3回、後半side-B3回)で構成。 前半は、外交官を辞めて小さな新聞社の記者をしている日本人谷尾の視点で語られる、香港の中国人貿易商黄、香港政庁をやめてロイターに勤めている英国人リーランドと…

アメリカーナ/チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

ナイジェリア人の聡明な女性イフェメルは、アメリカに渡り、高等教育を受け、人種問題などを扱うブログが評判となるが、アメリカでの恋人と別れ、帰国する。イフェメルの中学校以来の恋人オビンゼは、アメリカに渡ろうとするも、911でビザが下りなくなり、断…

神坐す山の物語/浅田次郎

久しぶりに浅田次郎を読む。奥多摩御嶽神社の神官の屋敷を舞台とする連作短編。子供の目から見た、神様や霊が日常にある暮らしの物語。著者自らの経験がベースにあるようで、昭和のファンタジーといっても、「メトロに乗って」とは違った趣がある。 神坐す山…

おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子

芥川賞受賞作は15年位前まで結構読んでいたが、久し振りに。読む本がなくなってかみさんの本棚から。 頭痛持ち、ストレス耐性がないことから残業をせず、仕事を任せられない芦川さん、その仕事をカバーし、我慢する人とできる人でやらないと仕事は回らないか…

掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

これは日本文学が得意とする(した?)カギ括弧付きの私小説ではないか。アメリカ文学でこういうのは珍しいのかもしれないなと思う。いやアメリカ文学なんてそんなに読んでいないので分からないけれど。 掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講…

オールドレンズの神のもとで/堀江敏幸

2004年〜2015年頃にかけて、さまざまな求めに応じて発表された小編18編。 「私の場合、執筆の動機はつねに注文であり、言葉の自発性はそのあとからついてくるので、いったん作品ができあがると出発時の負荷がなくなって、なぜこんな書き方をしたのか理解でき…

無月の譜/松浦寿輝

著者らしらかぬ、というのも変な言い方だが、リーダビリティの高いエンタメど真ん中の分かりやすい小説。 奨励会で挫折した主人公の大叔父は、駒師としての志半ばにしてシンガポールで戦死。主人公は、大叔父「玄火」作の「無月」の駒が残されていないかを追…

忘れない味/平松洋子 編著

平松洋子が編んだ食にまつわる掌編集。短編小説、エッセイだけでなく、詩や俳句、漫画も。どの文章もそれぞれに印象に残る。と言ってすぐ忘れるのだけれど。 忘れない味 「食べる」をめぐる27篇 作者:平松 洋子 講談社 Amazon

日本文学100年の名作 第1巻/池内紀・川本三郎・松田哲夫編

荒畑寒村「父親」父の書棚に自伝があった。読んでない。 森鴎外「寒山拾得」洒落てる。 佐藤春夫「指紋」こんな作風だったの? 谷崎潤一郎「小さな王国」さすがというか、恐ろしい話 宮地嘉六「ある職工の手記」名前すら知らない作家 芥川龍之介「妙な話」幻…

死者の告白/奥野修司

東日本大震災の被害者など30人に憑依された女性と除霊をした通大寺の住職へのインタビュー。 住職は、霊魂やあの世の存在については問題にせず、彼女の言動をありのままに受け止め、問題を解決することを目指す。精神病の診断名をつけたところで、何の解決に…

希望の国のエクソダス/村上龍

2000年上梓の近未来(2002〜2008)小説。日本の経済社会の停滞、閉塞状況の中で、中学生が集団で不登校となり、ベンチャーを立ち上げ、危機感のない日本の金融危機を救い(マッチポンプ?)、希望だけがないこの国を脱出する。 村上龍は、70年安保(「69」)に強烈…

平成怪奇小説傑作集1/東雅夫編

松浦寿輝で検索して。「千日手」は「もののたわむれ」所収ということなので、読んでいるけど記憶なし。忘れるとまた楽しめるからいいんだと言ったのは誰だったか。 面白いと思ったのは吉田知子「お供え」。名前すら知らなかった芥川賞作家。知ってる方が少な…

もうひとつの街/ミハル・アイヴァス

幻想のイメージについていけず、置いてけぼり 小野正嗣の書評→https://allreviews.jp/review/4237 もうひとつの街 作者:ミハル・アイヴァス 河出書房新社 Amazon

農ガール、農ライフ/垣谷美雨

いいお話。ただ、陳腐といっては言葉が悪すぎるかもしれないが、登場人物の造形もストーリーも型にはまっていて。 農ガール、農ライフ 作者:垣谷美雨 発売日: 2016/09/13 メディア: 単行本(ソフトカバー)

月まで3キロ/伊予原新

物理学、地質学などのモチーフが散りばめられた読後感の清々しい短編集。 著者は地球惑星科学の博士ということ。本書の中の「星六花」では気象庁職員が登場し、「山を刻む」では新田次郎の本を話題としていて、初めから編集者が新田次郎賞を狙っていたんでは…

月岡草飛の謎/松浦寿輝

老俳人月岡草飛を主人公にした連作奇譚集。 織り込まれる月岡草飛の俳句や歌仙はすばらしい(勉強にもなる)のだが、月岡草飛自体はへんちくりんなので、全体としてはスラップスティックな趣がある。人違い、会場違いのとぼけた話や前作人外のモチーフも出てく…

家康、江戸を建てる/門井慶喜

家康の治水、造幣、上水整備、築城を主としてそれに携わった職人たちの姿を通して描く。カミさんが図書館で借りたものを拝借。 家康、江戸を建てる (祥伝社文庫) 作者:門井慶喜 発売日: 2018/11/14 メディア: 文庫

ロマネ・コンティ・一九三五年/開高健

1973〜78年に発表された短編集。 ベトナム戦争の虚無感が引きずられる中で食欲、酒、性、阿片などの欲望がわい雑に。 「輝ける闇」を知らない人も増えただろうな。 ロマネ・コンティ・一九三五年 六つの短篇小説 (文春文庫) 作者:開高 健 発売日: 2009/12/04…

痴人の愛/谷崎潤一郎

コケットリーの極北 耽美的マゾヒズム 痴人の愛 作者:谷崎 潤一郎 発売日: 2017/09/28 メディア: Kindle版

蟹工船・党生活者/小林多喜二

文学史上の記念碑的作品。「蟹工船」は比較的最近話題になって映画化されたりもしていたが、小説として面白いかというと・・・。「党生活者」は、未完のようで、この後の展開が期待されるところで終わっていて残念な感じではある。 青空文庫で。 蟹工船・党…

吾輩は猫である/夏目漱石

中学か高校で読んだような途中までだったような。雰囲気は覚えている。 個人主義の広がりなど日露戦争の頃の世相を知識階級の会話を通じて落語のようなリズムで語る漱石先生の処女作にして異色作。 最近は本を買うということがほとんどなくなった。今年はス…

籠の鸚鵡/辻原登

クライムノベル3部作の一つだそうだ。公金横領事件や暴力団抗争など実際の事件をモデルにしていて、いかにも通俗的なエンターテイメント小説の趣。ただ、ほとんどポルノといっていい手紙や、熊野の山岳信仰や補陀落信仰などの背景、籠の鸚鵡のようなカヨ子が…

あとは切手を、一枚貼るだけ/小川洋子・堀江敏幸

小川洋子と堀江敏幸による架空の往復書簡。 連歌のような? 楽しんで書いてるような気が(憶測) あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本) 作者:小川 洋子,堀江 敏幸 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2019/06/18 メディア: 単行本

冬の旅/辻原登

主人公緒方は、基本的に真面目、真っ当な人間なのだが、不当な解雇や配偶者の裏切りなど次々に不条理に見舞われ、ついには強盗の片棒を担いで刑務所へ。出所してのちも不運は続き、衝撃のラストへ。 最後「俺の最初の躓きは何だったのか」と、来し方を振り返…

秋冬 掌篇歳時記

二十四節気ごとに、七十二候の一つをタイトルとして、著名作家が掌篇を書き下ろしたアンソロジーの秋冬編 著者は、西村賢太、重松清、町田康、筒井康隆、長野まゆみ、柴崎友香、山下澄人、川上弘美、藤野千夜、松浦寿輝、柳美里、堀江敏幸 掌篇歳時記 秋冬 …