HONMEMO

読書備忘録です。

学術・教養

ロシア点描/小泉悠

ロシアの生活と政治・権力構造について、自らの実体験をもとにやわらかく語るもの。 ロシア人は「これはルールです」と言われると反発したくなるようなところがある。ロシア人には、このような「容易に統治できない我々」意識とこれと表裏一体の関係にある「…

昭和天皇の戦争/山田朗

著者によると、宮内庁編纂「昭和天皇実録」は、過度に天皇が平和主義者であるとのイメージを残し、戦争・作戦への積極的な関与については、編纂者が一次資料の存在を確認しているにもかかわらず、そのほとんどが消された。これは、資料批判の観点を十分に有…

レナードの朝/オリヴァー・サックス

嗜眠性脳炎の後遺症としてパーキンソン症候群を発症することがある。その特効薬であるドーパミン前駆体L-DOPAの投与についての臨床研究の記録。 同薬の投与は、パーキンソン症候群の症状を目覚ましく軽減、改善するが、その後、舞踏病、チック、過度の興奮、…

この国のかたちを見つめ直す/加藤陽子

加藤陽子による2010年頃から2021年までの時事評論。 記録を残し、検証可能性を高め、歴史に学んで政策判断に過ちなきを期すことの重要性は、特に現下の情勢ではいくら強調しても足りないだろう。歴史学者からみればなおさらだ。 「先の大戦は、自国のみを利…

「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた/グレゴリー・J・グバー

「ネコひねり問題」(=ネコをどんな格好から落としても、ちゃんと足で着地するのはなぜか?)って、生理学のことと思ったが、関係科学の広がりは角運動量保存則(知らなかったが、高校物理で習う?)といった基本物理から、最先端物理学、トポロジーなど果てしな…

さらば欲望/佐伯啓思

リベラルなデモクラシー、グローバルな競争原理、個人の基本的人権等の米国を中心とする西洋的価値や世界秩序構想が破綻。社会主義も破綻したことから、隠れていた「精神的な風土」が表出してくる。ロシアは西洋近代から圧倒的影響を受けつつ「ロシア的なも…

読んでない本について堂々と語る方法/ピエール・バイヤール

2007年上梓のベストセラー。 本について語ることは、自分自身について語ることだ。だから、読んでいなくても語ることができる。 大事なのは、作品と自分自身の様々な接点であり、作品のタイトル、「共有図書館」(その本を含むある文化の方向を決定づけている…

書かれる手/堀江敏幸

あとがきで、著者は、要旨次のように言う。 私の関心は、本質に触れそうで触れない漸近線への憧憬を失わない書き手に向けられている。問題は、その憧憬に適切な形を与える能力が欠けていることで、出来上がった文章は「評論」にも「エッセイ」にも「解説」に…

神の方程式/ミチオ・カク

村山斉の「宇宙は何でできているのか」もそうなのだが、わたしがざっくりでいいからこれを人に説明できるかというと、これは全く無理で、分かった気でも分かってはいない。それでもまた似たような本に手を出すだろう。 "真空は単なる無の状態ではなく、実は…

論語と算盤/渋沢栄一

維新後、有為の人は政治家となり、商業に従事する者は下に見られた。武士階級は、論語をはじめいわゆる武士道の教育を受けてきたが、商人はそのような教育はなされなかった。渋沢は、商業の発展に尽くすが、その際、仁義道徳の重要性を説く。その論拠とされ…

ファクトフルネス/ハンス・ロスリングほか

様々なバイアス、思い込みで、人は多くの事柄について勘違い、間違った理解をしていることが多い。データをもとに事実に基づいて世界をみる必要性を説く。 事実に基づいて世界をみる必要性は十分理解しているつもりだが、それでも私の理解はチンパンジー以下…

「歴史の終わり」の後で/フランシス・フクヤマ、マチルデ・ファスティング編

フクヤマの業績を網羅的に取り上げ、対話形式で平易に提示する書。「歴史の終わり」は趣旨は知っていたが未読だったので読むかどうか迷ったが、同書を読まずとも私には本書で十分かな。 ・権威主義的政府を倒すことができても、民主主義的制度を実際に立ち上…

新冷戦時代の超克/片山杜秀

2018年の口述をもとにした本。 日本にとってのリアルな問題は、憲法より日米同盟。集団的自衛権が解釈でOKになって、憲法改正の必要性は低下。むしろ改憲案が国民投票で否定されたら自衛隊の否定に繋がりかねないという危険な賭け。中国に対しても米国に対し…

映画を早送りで観る人たち/稲田豊史

思いの外まとも(失礼)な本だった。 映画などを早送り、スキップして見る人が増えている。その要因には、定額配信サービスの普及がある。 SNSによる共感強制が、セリフですべてを説明するような「わかりやすい」作品の増加につながっている。 こういう見方を…

ブルシットジョブ/デヴィッド・グレーバー

ブルシットジョブとは、 「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないと感じている。」 ブル…

不思議の国ニッポン/クーリエ・ジャポン編

取り立てて新しい気づきなし。 扱われている記事は2016〜2021年 海外メディアは見た 不思議の国ニッポン 新しい世界 (講談社現代新書) 講談社 Amazon

力なき者たちの力/ヴァーツラフ・ハヴェル

チェコ初代大統領となったハヴェルによるパンフレット。反体制運動「憲章77」の直後、78年の出版。その後も弾圧を受けて、ビロード革命に結実するのは89年だ。 東欧型権威主義的中央集権体制(ポスト全体主義)のイデオロギーに沿った「嘘の生」ではなく、アイ…

道徳教室/高橋秀実

ドイツでは一人一人に考えさせるが、日本の道徳教育は、みんなで考え、決めつけない。これはかつての価値観の押し付けが戦争を引き起こしたという過去の反省によると。 道徳性とは、自分を客観視すること、自分の中にいる第三人称の自分から自分を客観的に見…

事実はなぜ人の意見を変えられないのか/ターリ・シャーロット

人は自分の信念を裏付ける証拠はすぐに受け入れるが、反対の証拠はなかなか受け入れようとしない(確証バイアス)。したがって、反対の意見を持つ人を説得しようとするときは、間違っているという証拠を突きつけるのではなく、共通点に基づいて話をするのが効…

知ってるつもり/スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック

人間個人の知識は自分が思っているより限られており(知識の錯覚)、様々な外部コミュニティの知識を共有することで、知っているつもりになっている。このような自身の無知の自覚のなさが、フェイクニュースの流布など、不合理な判断や行動を生む。コミュニテ…

室町は今日もハードボイルド/清水克行

中世が基本的に自力救済、分権・多元的、呪術的な世界であることなどを、分かりやすいエピソードをもって語る。 室町は今日もハードボイルド: 日本中世のアナーキーな世界 作者:清水 克行 新潮社 Amazon

アダム・スミス 共感の経済学/ジェシー・ノーマン

近代経済学の父といわれ、神の見えざる手で知られるアダム・スミスの評伝であり、また、その思想の概説書。堀内勉氏の解説が簡にして要を得ている。本書を手に取ったのは同氏の書評、読書大全による。以下主として堀内氏の解説をもとに。 当時の経済学は、政…

次なる100年/水野和夫

日本では例外であるはずのゼロ金利が常態化しているが、これは資本主義が行き着くところまで行ったことを示す。より遠く、より速く、より合理的に行動することで経済成長を図り、それによって諸問題が解決できると考えてきたが、ゼロ金利は、現在と将来が同…

立花隆の最終講義/立花隆

2011年刊行の「二十歳の君へ」の一部を再編集したのもの。 適度な失敗は歓迎すべきものだが、取り返しのつかないような大失敗をしないためにどうするか。 →先決問題と考える順序。思い込みの排除。 職業的懐疑の精神。 といった思考技術、生きるヒントのよう…

古代中国の24時間/柿沼陽平

秦漢代を中心とする古代中国における日常を1日の時間軸に沿って幅広い資料、史料をもって紹介するもの。ハゲやらトイレやら下世話なものも含めて、n=1であろうような事例、エピソードも多数(文献等の注記付きで)連ねているのが面白い。 古代中国の24時間 秦…

政策起業家/駒崎弘樹

民主主義社会における制度、政策の決定に参画する方法は、議員を選ぶ投票に限られるものではないのはもちろんだ。 昨今の民主主義、政治的意思決定過程の問題については、選挙制度や投票率などの投票に関係する問題点もあるが、重要なのは、著者のように、問…

人体大全/ビル・ブライソン

このユーモアある文体はどこか馴染みがあると思ったが、「ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー」の著者だった。懐かしい。 人体について、器官や免疫の機能、医学の歴史など、常識と思われていることが必ずしもそうではないことや、科学の誤謬、今で…

老人支配国家日本の危機/エマニュエル・トッド

・トランプ、ブレグジットは、自由貿易から保護貿易への回帰、民主主義の失地回復を体現するもの。(新)自由主義(サッチャー、レーガン)もそれからの転換も英米により主導。 アングロサクソンの絶対的核家族に内在的に備わっている個人主義的で不平等に寛容な…

横浜の名建築をめぐる旅/菅野裕子・恩田陸

横浜の名建築案内。 知っている建物は多いけれど、建築を見るという目で見ないと何も見えていないということがよく分かる。 横浜の名建築をめぐる旅 作者:菅野裕子,恩田 陸 エクスナレッジ Amazon

無と意識の人類史/広井良典

現在、 1 人間の生の有限性 2 地球環境あるいは経済社会の有限性 に向き合わざるを得ない時代状況にある。 世界の人口・経済規模は、拡大・成長と定常化というサイクルを3回繰り返しており、定常化への移行期において、革新的な思想や観念が生成(量的拡大か…