HONMEMO

読書備忘録です。

すべてがFになる/森博嗣

 【ネタバレギリギリ注意】ネタバレにならないように書いたつもりなのだが、結構ギリギリかもしれないので、未読の方ご注意を。(3月2日追加)
 いわゆる本格ミステリーってのはなんだか肌に合わなくてあまり読まないのだけれど、そこは踊る読者、評判につられていろいろ手を出す。もう10年近く前の本のようだが、この作者の本は読んだことがなく、それなら(実質上の)デビュー作からということで、読んでみた。
 この本は、「すべてがFになる」というタイトルが秀逸で、それに支えられているのだろう。「Fになる」というのがトリックの一つの鍵になっていて、それはよく出来ているのだろうけれど(私はプログラミングのことは分らないので、なんともいえないけど、少なくとも素人にはその部分については、へぇ〜なるほどってことだが)、犯人の仕掛けはほかにもいくつかあって、それらはリアリティを欠いているように思う。ネタバレになるので詳しく書けないが、一つは所長殺害場面。私には常識的とは考えられない。もう一つは、検死すれば明らかに矛盾が分るはずであることを前提としていること。もう一つあるんだが、どう書いてもネタバレになりそうだし、読み返して確認するのも面倒なのでパス。
 現実的には有り得ないような密室を構成して謎解きを主眼とするような小説で、トリックが破綻しているとしたら(私の読み方がおかしい可能性もあるのだが)、なんだかなってことになるんじゃないのだろうか。
 さらに言えば、犯人の動機がキチンと説明されていない。少なくとも作者は、犯人の特異な性格のせいにして、さらに言えば探偵役の抽象的言説癖を隠れ蓑にして説明することを逃げているような気がしてならない。動機がはっきり語られないから犯人像もあるいはそれを相手にする探偵たちの人物像も何だかあいまいにされてむずむずするのではないかという気がする。
 いずれにしてもこの犯人の極悪非道ぶり(手足を切り落とすといったことではなくて、その前の15年間のことやそれを含めての動機の浅薄、悪質さ)にかかわらず、最終章で、犯人は人形である、あるいは正しいこととは相対的なものであるといった理屈で犯人を断罪することもしないのは、著者がこの物語をパズルとしてしか見ていないことの証左だと思うのだが、それにしてはパズルのトリックがお粗末なのではないかというのが率直な感想。

すベてがFになる (講談社文庫)

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