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読書備忘録です。

国家の罠/佐藤優

 自己正当化のための事実の歪曲やディスインフォメーションに対する警戒感というか不信感があってどんなものかと思っていたのだが、真面目に書かれた本ではあるのだろう。
 日本では諜報員というものを組織的に育成しておらず、またそのような存在を利用した外交を行ってこなかったが、佐藤は例外的に優秀な諜報員だったのだろう。そして外務省本流は、そういう存在を十分に使うことができなかったし、正当に評価することもできなかったのだろう。そんな中で、佐藤が鈴木宗男と結んだことが悲劇だったのだと思う。このあたり、橋本元総理秘書官江田憲司が、次のように言っているのは正しい見方だと思う。

「彼は日本では一人もいない、唯一の諜報部員だ。しかし、寄って立つ主(あるじ)を間違えた。橋本元首相に自らの夢(北方領土の返還)を託しているうちは良かったが、鈴木氏に託した時点で歯車が狂った。」

 本件が国策捜査だというのはそのとおりだと思うけれど、その国策というのは、佐藤氏のいうような「ケインズ型からハイエク型へ」「国際協調主義的愛国主義から排外的ナショナリズムへ」というパラダイム転換を狙っての「けじめ」であったのか。面白い見立てであり、間違ってはいないのだろうが、そのような大上段の「国策」とみなくとも、裏金作りなど外務省腐敗と政官癒着に対するけじめと見ておけばよいのではないか。東京地検の捜査も、外務省幹部が言ったというわが国の実質識字率5%論(新聞を読んでいる人間など5%ほどしかおらず、ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で、世論が決まる)に沿った世論を意識してのものだったようであり、官僚バッシングと田中真紀子鈴木宗男の対決構図に乗っかったということなのだろう。*1(ついこの間のことなのに、もう忘れてきているなぁ・・・)
 この本では、鈴木宗男は、北方領土返還という国益を実現するための優れた政治家という描かれ方しかしていないけれど、政策目的が正しくとも、その手法がどうであったか。鈴木宗男の逮捕がやまりん事件など贈収賄が中心になったように、カネに汚く、また、巷間言われるように、官僚に対する恫喝的な手法というのはあったのではないか(現在の対外務省質問主意書攻撃というのも鈴木宗男らしいえげつなさだ)。
 この本で描かれる鈴木宗男と佐藤の密着した関係は、一つの政策目的達成のためとはいえ、やはり異常だと感じざるを得ない。佐藤自身は、通常なら逮捕されるほどのことはない国策捜査の被害者〜まさに国策遂行のためわざわざ「ハードルを下げて」逮捕した〜という感じはするけれど。(支援委員会の背任容疑なんか立件されるようなものとはとても思えないし。)

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて


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*1:我が国にとって、田中真紀子鈴木宗男のどちらが害が大きかったかということでは田中真紀子であることは間違いないだろう。昨今はお二方の対決は見られないのかな?