東大教授だからかって言うとまあ嫌味っぽくはあるが、最近好きで読んでいる同じ仏文学者で芥川賞作家の堀江敏幸と比べると、小難しいところがあるとも言えるけれど、この人の作品もとてもいい。以下、あとがきの一部を引用。
男が迷い、惑い続けているうちに、現実と非現実とのあわいでさまざまな出来事が起こり、さまざまな人物との出会いと別れがあり、そしてその迷いも惑いも何一つ解決されぬまま、物語のテンポはしだいにアレグロになってコーダに突入し、男が思いがけない場所で立ち竦むところで、いきなり中絶するようにして終わる。
…わたしはこれを、自分の人生のある危機―複数の危機―を乗り越えるために書いたのだと思う。
とはいえ、何とも苦しい思いで書き継いだ前作『あやめ 鰈 ひかがみ』(講談社)などとはまったく違って、『半島』を少しずつ書き進めてゆくのはわたしにとって愉悦に満ちた時間だった。
- 作者: 松浦寿輝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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