10年も前に新人賞をとったものの、その後なかなか良いものが書けないでいる主人公孝夫は、パニック障害を患うこととなったエリート女医の妻を連れて故郷の山で暮らし始めます。そこでの生活が、阿弥陀堂を守るおうめ婆さん、難病と闘う小百合ちゃんとの交流を軸に描かれ、最後は「たしかな春の訪れを告げていた。」で終わる、温かいお話です。
「わしゃあこの歳まで生きて来ると、いい話だけを聞きてえであります。たいていのせつねえ話は聞き飽きたもんでありますからなあ」と、おうめ婆さんがいい、これに「世の中にいい話っていうのは少ないから、ほんとらしく創るのって大変なんですよ。だから、小説には悲しい、やるせない話が多くなってしまうんですよ。」と孝夫がこたえるというシーンがあるのですが、本書は、そんふうな作るのが大変な「いい話」だなと思います。
- 作者: 南木佳士
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/08
- メディア: 文庫
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105円@BO