HONMEMO

読書備忘録です。

永遠の都/加賀乙彦

文庫版で全7冊の長編大河小説です。時代は昭和10年から22年まで(時田利平の回想なども含めれば日露戦争の頃から)。
登場人物は、漁師から身を起こし、苦学して海軍軍医となり、日露戦争に従軍、その後三田で開業して一大病院を経営する、まさに立志伝中の人物時田利平の一族と縁戚で、主要な人物だけで20人くらいにはなるでしょう。
加賀乙彦がモデルとなっているのは、利平の孫小暮悠太で、西大久保で比較的裕福なサラリーマンの家庭に育ちます。縁戚には、満州事変の黒幕となった政治家の家系の脇一族、石炭関係の実業家風間一族があり、さらに利平の病院の従業員たち(利平は、病院勤めの女に次々を手を出しますが、そうして生まれたと思しき子供せむしの間島五郎ほか)も重要な登場人物となっています。
昭和初期から戦争へという暗い時代を背景に、利平のエネルギッシュな病院経営や発明活動、悠太の多感な少年時代、大本営参謀から敗戦後は保守政治家となる脇敬助の現実主義的行動、兄とは逆の反戦的文学青年で、戦地で発狂、復員後死亡する晋助やキリスト者菊池の苦悩、初江、夏江の姦通*1などなど、登場人物の生き方をビビッドに描くとともに、同じ事象を手記などを通じて一人称で語るなど、読むものを飽きさせない構成になっています。
北杜夫の楡家の人々を彷彿とさせる大河小説の魅力を満喫できる小説です。続編もあるようなのですが、時代背景とかから考えると、私にとっては、ここまでで十分かな、お腹一杯という感じです。
このような大河小説は、核家族化が進んだ中で、もはやこれから書かれることはないのではないかという気がしますが、私はこのような小説が大好きです。ブッデンブローク家の人々*2、チボー家の人々なども読みたいのですが、これも長い長い物語なので、またいずれ、1年先か10年先かに読みたいと思います。

永遠の都〈1〉夏の海辺 (新潮文庫)

永遠の都〈1〉夏の海辺 (新潮文庫)

*1:姉妹そろって父親が誰だかはっきりとは分からない子を産むってのもすごいのですが、五郎もその父親は誰だという点が問題だったりするので、ちょっとそれはないんじゃないのという感じはするのですが。

*2:絶版なのですね。