巡礼、橋もそうですが、最近の橋本治の小説は、昭和の一時代そのものを描き出しているという印象です。本書は、戦中に文部省の初等教育局長を務めてパージされ、その後冴えないポストに復職する父(=リア王)と3人の娘を中心とする物語ですが、リア王を換骨奪胎した物語という感じはあまりしません。「リア家」というタイトルがついているからああそうかと思うので、まあそれがいいのかもしれません。
橋本治のインタビュー
この「リア家」の真の主人公は「昭和」だ。いや、「時代」もしくは「歴史」なのかもしれない。個性を持っているのは「時代」の方で、ここに登場してくる人々は、例外なく、ただの「典型」にすぎない。我々が想像している「個性豊かな」自己などというものなど存在しないのである。
そこまで読んで、読者である我々は、戦慄を感じるだろう。この小説には、ほとんどの小説に存在している「自己表現」への切迫がないことに。
(高橋源一郎の書評から。)
- 作者: 橋本治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/07
- メディア: 単行本
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