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読書備忘録です。

ブラフマンの埋葬/小川洋子

奥泉光の解説以上に言うところなし。

ブラフマンは、子犬のようでありながら、水掻きを使って水へ深く潜水したりする生き物であり、全編に漂う不可思議な雰囲気の中核をなすのだけれど、それ以上に、名前のない人間たちこそ(…)謎めいている。誰より、主人公の青年がそうだ。…「僕」は、束の間この世界に現れ出た死者ではないかとすら思えてくる。
小説世界の住人たちは互いの領域に決して入り込まぬことを原則としているように見える。(…)文字通りの「侵犯者」である泉泥棒が登場し、(…)この不穏な出来事に導かれるように「僕」は雑貨屋の娘の秘密の領域に足を踏み入れるのである。だが、「僕」の侵犯行為がもたらしたものはブラフマンの死であり(…)。
次々と現れ配置される言葉のイメージが、互いに微妙なバランスを保ちながら、淡く、しかし確固たる世界が構築されていく様は、下書きもなしにいきなり絵筆を動かす、職人の熟練の手法を思わせるものがある。…

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)