HONMEMO

読書備忘録です。

おどろきの中国/橋爪大三郎、大澤真幸、宮台真司

 これからの日中関係(日韓もそうだが)を考える上で、宮台真司の言う「溜飲厨」「承認厨」の弊に陥ることのないよう改めて自らを戒めたい。
 いくつか気づきの点をメモ。

  • 中国の社会組織の原則 1.自分は正しくて立派(自己主張が強い) 2.他者も自己主張している。 これではホッブズ自然状態になる。このため、3.自己と他者が共存するための枠組みが必要。すなわち、官僚制(科挙)による秩序化(序列化)など。ランキングに対する異常なまでのこだわりは、中国の特徴。
  • 日本の場合、一番の人は実力がなく、二番から十番くらいまでの人が合議で決めて責任がはっきりしないというのが多くの組織の実態だが、中国では、一番の人が必ず意思決定をしなければならない。トップの個人的バイアス、誤りも承認する(そうしないと順番システムが崩れてしまう)。
  • 文革が伝統を無化したことが改革開放を可能にした。文革こそ最大の走資派だったというアイロニー。
  • 日本は悪意の中国侵略者だったのか、それとも善意の欧米支配からの解放者だったのか、日本人自身が良く分からない、そういう中途半端な意識で中国に大きな損害を与えたといういい加減な態度が、中国からするとまず許せない。
  • 中国からすると、歴史的に中国が上であるのが当たり前なのに、明治維新後、アジアの盟主みたいな態度をとるようになった日本が許せない。現在の日本人には、「もとをただせば中国の方が圧倒的に先進国でプライドが高い国だ」と納得するのは難しいという面がある。
  • 日中戦争は、壮大な意図せざる結果。日本軍に、戦争の意味に関する自覚が乏しかった。謝罪をしたり、責任を取ったりするには、その行為の意図の自覚が不可欠だが、それがあやふやなために、どのように責任を取っていいかはっきりしない。中国側は、これだけの被害を被ったのだから、日本にそれだけの意図があったとみなすのだが、 日本はその肝心な部分が空虚であるために応答できない。このため、歴史問題に決着がつかない。
  • 日本は、歴史教育に失敗している。これは歴史を知ることでプライドが傷つけられるから。このため、日本は、戦前の中国を侵略した世代と、現世代の間の連続性を形成することに失敗している。
  • 周辺国の感情に対する適応を、余儀なくされたものではなく、主体的選択と再定義する工夫が必要。
  • 日本には、ナチスに当たるものがないから、誰がどの程度まで責任を負うべきかを差別化できない。そうすると、歴史に対する態度は、過去の過ちを犯した人とのつながりを否定するか、これを肯定する代わりに、過去の過ちを割り引く(良い面もあった)とする立場の2とおりになり、いずれにしても謝罪ができなくなる。
  • 戦争世代から遠く離れた世代が心からの謝罪の気持ちを継続できないことが自明である以上、後続世代は、東京裁判図式がもつ意味をよく理解し、かつ未来志向的な信頼醸成が最終的には得になることをわきまえたうえで、やっぱり東京裁判図式は嫌だなどと蒸し返さないことが大切。
  • 覇権国は説明責任をきちんと果たすことが重要だが、中国が覇権国となるのは、この点でハードルが高い。
  • 日本が米中関係における中国のインターフェイスになることを考えるべき。

おどろきの中国 (講談社現代新書)

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