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読書備忘録です。

色好みの構造/中村真一郎

 「色好み」の理念とその変遷を平安朝文学を通じて探る。

  • 光源氏の色好みは、現代人からみれば色情狂だが、源氏物語は、当時、空想の物語ではなく、風俗小説すなわち実生活の反映としてよまれた。むしろ、一人の女に一途に忠実な恋心を抱く男は、一種の病人、モノマニア、感情的に未熟な人間として扱われた。近代的感覚によって、光源氏の色好みの生活を、現代の倫理観に調和させることはできない。
  • 色好みの理念、風習は、平安朝の貴族だけのものだったのではない。放縦な性的現象は思想的にも科学的にも支持されていた。
    • 真言密教、特に理趣経は、性欲は本来清浄なものであり、性交による恍惚は、菩薩の境地、解脱の境地に至るものとしている。
    • 当時の医学書「医心方」は、男は、一日に10回以上相手を変えて性交し、射精しないという健康法を掲げている。

 理屈っぽいところをメモしたが、本書の面目は、紫式部、清少納言和泉式部らの文学の実際にあたって色好みの諸相をみるところにある。

色好みの構造――王朝文化の深層 (岩波新書)

色好みの構造――王朝文化の深層 (岩波新書)