中国残留孤児という言葉さえまだない頃に、苦労して帰国した父の苦難を中心に描く第1部、中国での父の(義理の)縁戚や友人たちとの暖かい交流、激しい反日感情に対するとまどい、残留孤児の国賠訴訟などを通して娘である私を中心に描く第2部。構成もすばらしい。大宅賞、講談社ノンフィクション賞受賞。単行本が出たとき(2007)からチェックしていたのをやっと読む。
「日本人」という言葉を聞くとまるで条件反射のように攻撃的になる中国人たちの頭のなかには、常に前提として「侵略者」「憎むべき対象」「歴史を知らない」という抽象的な顔のない「日本人」像があるようだった。彼らの怒りは決して個人に向けられているわけではなく、いわば彼らの頭のなかの想像の「日本人」・・・に対して向けられているのだ。彼らは自分の出会った目の前の日本人がその想像の「日本人」と同じなのかどうかを執拗に確かめようとする。まるでそうすることが中国人としての正しい態度なのだというでも言うように。ところが、そんな彼らでも、いったんその「日本人」と個人としてリアルな人間同士の付き合いがはじまると、こんどは抽象的な「日本人」としてではなく、具体的な一人の人間として深い情愛で接してくるようになるのではないだろうか(・・・)。私たち日本人はその二種類の感情のギャップに戸惑い立ちすくむことになる。
あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅 (文春文庫)
- 作者: 城戸久枝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/04
- メディア: 文庫
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