HONMEMO

読書備忘録です。

台湾海峡一九四九/龍應台

 著者は、台湾の文学者、文化大臣。日本統治下での戦争、日本の敗戦から国共内戦、49年の蒋介石の台湾への敗走という大動乱の時代を、著者の両親、親族の世代の人々(外省人内省人など)はどう生きたか。ノンフィクションではあるが、イデオロギー的な考察を廃した、弱者に寄り添った文学的な文章が印象的。
 本書のエピグラフ
  時代に踏みつけにされ、汚され、
  傷つけられたすべての人に敬意をこめて

 私の両親と彼らの同世代人たちは、戦乱と漂泊のなか、まるで蟻んこのように時代に潰され、谷底にうち捨てられた。私は彼らの時代を、彼らの思いを、彼らの傷を理解しようとした。その苦しい過程で気づいた。”一九四九”を理解するには、”一九四五”を理解しなければならないのだ。そして日本は、まるでしっかり縫いこまれた糸のように、全体の像の凹凸のうちに存在している。
 本書は、文学であって、歴史書ではない。私は信じている。文学だけが、花や果物、線香やろうそくと同じように、痛みに苦しむ魂に触れることができるのだ、と。(日本語版への序文から)

 なお、10万から65万人が死亡したという長春包囲戦はなぜ南京大虐殺のように脚光を浴びないのかという指摘がある。

台湾海峡一九四九

台湾海峡一九四九