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読書備忘録です。

戦争の条件/藤原帰一

 本書の結びにあるように、国際問題は、教育問題と同様、素人がテキトーに(知識、分析、経験に基づかずに)発言できる領域であるが、すっきりした意見や議論で理解できるものではない*1。本書は、そんな難しい(答えのない)国際問題、国際政治を考える際の考え方の基礎を、極めてコンパクトに、わかりやすく提供してくれる*2

 私は、リアリズムも、平和主義も、現代の国際政治における平和の条件を提示しているとは考えない。だが、国際法に基づいた武力行使が平和の条件を与えるとも考えない。求められているのは、そのような観念のどれに頼ることもできない霧のなかで、できる限り戦争に頼ることなく、暴力と不正を回避することである。それはいったい可能なのか。その可能性を探ることが、平和の条件を考えることにほかならない。

 歴史問題に関する部分を、以下ちょっとメモ。

  • 戦争の「記憶」は、公的な物語として、多くの経験の中の一部を取り出し他の部分を切り捨てるという選別が避けられない(広島・南京の語りは、それぞれ自国の一般国民の犠牲者に目を向け、加害者がその犠牲を正視することを求める。靖国の語りは、兵士を含めた日本国民の物語として広島の語りに修正を加えるもの)。公的な記憶は、それぞれの国民の希望、偏見と結びついているので国民によって相違が大きいが、当事者はその記憶の普遍性を疑わない。ここに歴史認識問題が発生する。
  • 日中の歴史問題についてみると、双方とも、政府による決定が反主流派の政治家や国民世論によって左右され、拘束される過程が存在する。
  • ドイツは、ナチス・ドイツを他者として指弾することで歴史和解を達成するが、日本の場合、戦後、占領によって押しつけられた非軍国主義化を押し戻そうとする運動にあって、指弾される他者は、憲法擁護や戦争責任を訴えるメディア、知識人の側であった。
  • 欧米諸国の歴史問題に関する反応は、ナチズムへの対抗に類する普遍主義的な人権思想や自由主義が中心となっているが、日本をめぐる歴史問題は、ナショナリズムと結びついている。

戦争の条件 (集英社新書)

戦争の条件 (集英社新書)

*1:だから、解は必ずしも提示されない。

*2:領土問題、歴史認識問題なども含めて。