有沢広巳らの参加した陸軍省戦争経済研究班(通称秋丸機関)の報告書は、
①国策に反するため焼却しなければならないような不都合な内容のもの
②太平洋戦争の戦略立案に大いに役立つ機密情報
のいずれでもなく、ごく常識的な内容のものであり、日米開戦の回避に役立ったものではなかった(北進を抑えソ連と同時に戦うこと(対米英ソ戦)を回避することには役立った可能性はある。)
日米開戦は、
①戦争回避の結果としての経済封鎖による確実な屈服(ジリ貧)
②開戦による極めて高い確率での致命的敗北(ドカ貧)、ただし万一の僥倖がありうる。
という選択において、②を選んだということだが、これは、合理的選択(期待値)としては①であっても、②を選びがちであるという行動経済学的観点に沿う。
経済学者たちが日米開戦回避に貢献できたとすれば、ネガティブな現実を指摘することではなく、いわば①においても臥薪嘗胆ののちに僥倖があり得ることをエビデンスを持って示すことであったのではないかと。
おまけのように書かれている有沢広巳の傾斜生産方式が何か新しいことをやったということではなく、重油導入のレトリックに過ぎなかったというのも面白い。
経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く (新潮選書)
- 作者: 牧野邦昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
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