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読書備忘録です。

生きづらい明治社会/松沢裕作

・ 負債農民騒擾は、地租改正により「村請制」が廃止されたにもかかわらず、農民が江戸時代の慣習に基づいて、借金返済猶予、土地の買戻し権の容認などの配慮を求めたことにより生じた。

・ 現代の貧困層に対する冷たい視線は、明治期に遡る。貧民窟に暮らす都市下層民との間の格差は非常に大きく、生活保護法に当たる恤救規則、窮民救助法の適用範囲は極めて限定的だった。

これは、制限選挙のためということもあるが、根本には、江戸時代後半から広まり、現代にも通じる「通俗道徳」によると考えられる。

・通俗道徳=勤勉に働くこと、倹約をすること、親孝行をすることといったごく普通の行為がこれといった哲学的根拠もなく、良いこととされていること。すなわち、人が貧困に陥るのは、その人の努力が足りないからだとされることになる。これは、貧困を支配者のせいにせず、自己責任とする、支配層に都合の良い考え方。

・一方、日比谷焼き打ち事件から米騒動に至る都市民衆騒擾が頻発するのは、通俗道徳に従っても成功できる可能性を奪われた若い男たちが、これに敢えて逆らってみせる行為をかっこいいと捉えるカウンターカルチャーがあったから。これでは結局通俗道徳のわなから抜け出せない。

このような通俗道徳のわなを生み出す社会の仕組みそのものを変えていくことが必要。