短歌の後に散文、そして最後にまた短歌というスタイルの小編が84。
言葉の持つ意味だけでなくて、その語感、音、リズム、形までを繊細にすくい上げることができる人が詩人であり、歌人なのだろう。
25 枕
木琴は絵に描いた線路の枕木だんだん高音だんだん遠く
枕は、真っ暗に含まれる。
(略)
ある日、真っ暗は言った。
「別れよう」
「そんなことはできない。あなたのいない世界なんて」
枕は枕を濡らして泣いた。
「ごめん、ほかに、好きな人が出来たんだ。」
悪びれる様子もなく、真っ暗は、いつも通りに真っ暗だった。
枕は絶望して消えた。
真っ暗は、「っ」だけになって、半永久的に佇んだ。
枕には日々我の夢染み込んで枕が脳に取って変わる日
最後の「84 幸福」は、言葉を信じるという歌人としての決意表明かな。
ドゥマゴ文学賞受賞