アメリカで理解しにくいものは、テレビ伝道師の絶大な人気と医療保険や銃規制にすら反対する政府不信だ。これらはアメリカという国の成り立ちと深い関係がありそうだということがわかる。
本書の主題は、アメリカのキリスト教を背景として生まれた反知性主義の歴史。
反知性主義の出発点である信仰復興運動(リバイバリズム)は、ピューリタンが入植して建国したアメリカが高度な知識偏重社会であったことの反動として生まれた。リバイバルは、出身国や教派の違いを乗り越えて、回心と新生を中心とした実践的な性格を持つ福音主義(エバンジェリカル)によって、「アメリカ」という一体性をもたらした。
また、公定教会(チャーチ)を中心とする既成教派に対抗するセクト(福音主義的キリスト教特にバプテスト、クエーカーなど)の思惑は、平等主義を背景に公定教会廃止=政教分離を求めるマディソンらの世俗政治家と一致し、(公定教会を持たない)史上初の政教分離国家アメリカが誕生する。
セクト型の精神は、権力を仕方なく存在する必要悪と考え、警戒する。アメリカの大きな政府に対する警戒心はここに由来する。
反知性主義は、単なる知性への軽蔑と同義ではなく、知性が権威と結びつくことに対する反発であり、何事も自分自身で判断し直すことを求める態度である。
リバイバリズムの伝道師たちは、人を回心へ導くのであれば、方法を問わないというアメリカの哲学たるプラグマティズムを体現し、現世利益の追求や商業主義とも結びついていった。