幻想のイメージについていけず、置いてけぼり
小野正嗣の書評→https://allreviews.jp/review/4237
偏執的なモルモン教徒かつ狂信的プレッパー(サバイバリスト)であり、双極性障害を持つ父は、暴力で家族を支配する。母はどちらかと言えば父親に加担し、兄弟の何人かは家を出るが、多くはその支配を脱することができず、頼りにならない。兄の一人は父に輪をかけた暴力で著者を苦しめる。
著者は、高校まで学校にも行けず、父の危険な廃品回収業を手伝うが、その後、モルモン教系の大学に入学、ケンブリッジ、ハーバードで学び博士号を取得するまでになる。
父親や兄から物凄い暴力を振われながら、それでも愛情があって離れられないという感覚は容易に理解し難いのだが、暴力を伴う精神的な呪縛がいかに強かったかということの表れであり、これが、本書の恐ろしいハイライトだ。その呪縛から逃れられたのは教育のためであり、「多くの知識、歴史、視点を評価する能力こそが自分を確立するための本質であると信じるようになった」というのだが、付け足しのようでもある。
竹中平蔵の人物ノンフィクション。一貫して規制改革、構造改革を主導した新自由主義経済学者。竹中は、日本のアメリカ化を目指し、結果、見事にアメリカのような金融資本主義、格差社会を実現して、自らは利権により潤った。
この人がいなければ違う日本があったと蛇蝎の如く嫌われてもいるようだが、この人を、小泉、安倍を皆が歓呼をもって迎えた結果でもある。麻生も騙されたように国民も騙された?IQの低いB層はすぐ騙される…?
そういえば、小泉には飯島勲のチーム小泉があったんだと思い出したが、竹中の革新官僚グループはこれとは別の動きだったようで、政治の世界は複雑なことだ。
宇沢弘文と合わないのは当たり前で、宇沢には嫌われていたよう。宇沢についての本もあるようなので、いずれ読む。
総選挙が近いけれど。
<ネタバレ>
経営者としての手腕はよく知られているが、相談役も引いてから莫大な私財を投じてヤマト福祉財団を設立して障害者福祉に取り組んだのは何故だったのか?表面的な説明の裏には家庭の問題、特に心の病を抱えた妻と娘の問題があった。家庭を省みることのできないような激務がその一因という引け目もあったのかどうかわからないが、小倉は妻にも娘にもとても優しい。穏やかな最期と娘さんの前向きで明るい前途が示唆されて、静かに心動かされる。