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読書備忘録です。

わたしが行ったさびしい町/松浦寿輝

エッセイ集。滝を見なかったナイアガラフォールズ、車の故障でやむなく泊まったアリゾナの町タクナ、その他通り過ぎただけといったような町、有名な観光地の人々の生活の場所などの思い出。

ピトレスクないわゆる観光地が、「記憶の底にいつまでも沈澱して残っていくことが案外ないのは、…自分の魂と身体だけを透して体験したーすなわちわたし自身にしか可能でないようなやりかたで体験した出会いでないからだろう。」それは結局ガイドブックの記述を確認しただけの体験であり、わざわざその地に行く旅という行為の必要性、必然性も怪しくなる。変哲もない一日でさえ、実は奇跡のような何かではないか、変哲もない一日こそをいつくしむ、と。

 

わたしが行ったさびしい町

わたしが行ったさびしい町

  • 作者:松浦 寿輝
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

いつか来る死/糸井重里・小堀歐一郎

・食べたり飲んだりしないから死ぬのではなく、死ぬべき時が来ると食べたり飲んだりする必要がなくなる。

・自己犠牲の精神で患者に「寄り添う」のは非常に難しい。だからこそ簡単に「寄り添う」などと言ってはいけない

・人は生きてきたようにしか死ねない。

・その人らしい死に方、それぞれの最高点を反映した死に方がある。

死をタブー視せず、死と向き合いつつも過度に感情的にならない態度が好ましく感じる。

 

いつか来る死

いつか来る死

 

 

 

エデュケーション/タラ・ウェストーバー

偏執的なモルモン教徒かつ狂信的プレッパー(サバイバリスト)であり、双極性障害を持つ父は、暴力で家族を支配する。母はどちらかと言えば父親に加担し、兄弟の何人かは家を出るが、多くはその支配を脱することができず、頼りにならない。兄の一人は父に輪をかけた暴力で著者を苦しめる。

著者は、高校まで学校にも行けず、父の危険な廃品回収業を手伝うが、その後、モルモン教系の大学に入学、ケンブリッジ、ハーバードで学び博士号を取得するまでになる。

父親や兄から物凄い暴力を振われながら、それでも愛情があって離れられないという感覚は容易に理解し難いのだが、暴力を伴う精神的な呪縛がいかに強かったかということの表れであり、これが、本書の恐ろしいハイライトだ。その呪縛から逃れられたのは教育のためであり、「多くの知識、歴史、視点を評価する能力こそが自分を確立するための本質であると信じるようになった」というのだが、付け足しのようでもある。

 

エデュケーション 大学は私の人生を変えた

エデュケーション 大学は私の人生を変えた

 

 



 



竹中平蔵 市場と権力/佐々木実

竹中平蔵の人物ノンフィクション。一貫して規制改革、構造改革を主導した新自由主義経済学者。竹中は、日本のアメリカ化を目指し、結果、見事にアメリカのような金融資本主義、格差社会を実現して、自らは利権により潤った。

この人がいなければ違う日本があったと蛇蝎の如く嫌われてもいるようだが、この人を、小泉、安倍を皆が歓呼をもって迎えた結果でもある。麻生も騙されたように国民も騙された?IQの低いB層はすぐ騙される…?

そういえば、小泉には飯島勲のチーム小泉があったんだと思い出したが、竹中の革新官僚グループはこれとは別の動きだったようで、政治の世界は複雑なことだ。

宇沢弘文と合わないのは当たり前で、宇沢には嫌われていたよう。宇沢についての本もあるようなので、いずれ読む。

総選挙が近いけれど。

 



 



 

小倉昌男 祈りと経営/森健

<ネタバレ>

ヤマト運輸宅急便の産みの親小倉昌男の評伝。

経営者としての手腕はよく知られているが、相談役も引いてから莫大な私財を投じてヤマト福祉財団を設立して障害者福祉に取り組んだのは何故だったのか?表面的な説明の裏には家庭の問題、特に心の病を抱えた妻と娘の問題があった。家庭を省みることのできないような激務がその一因という引け目もあったのかどうかわからないが、小倉は妻にも娘にもとても優しい。穏やかな最期と娘さんの前向きで明るい前途が示唆されて、静かに心動かされる。

 

 

 

この1冊、ここまで読むか!/鹿島茂ほか

1冊の本を題材とした対談。鹿島茂が本と対談の相手を決めている。

ジーナ・キーティング「NETFLIX楠木建

更科功「絶滅の日本史」 成毛眞

論語出口治明

マルクス「ルイボナパルトブリュメール18日」 内田樹

速水融「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」 磯田道史

加藤典洋「9条入門」 高橋源一郎

内田樹との対談は、なんだか鹿島茂がやたらとしゃべっていて内田樹の影が薄い。というか、相手が誰でも鹿島茂がしゃべりたいだけしゃべることになる話題なのだろう。出口治明とは、それぞれ勝手に蘊蓄をこれでもかと披露している感じ。9条入門については、高橋源一郎がむしろリードしている感じ。

NHKの深読み読書会的なものかと思ったが、その本を深く読み込んでいくというより、むしろそれをきっかけにして話を広げていくような対談になっていて、それはそれで面白い。