HONMEMO

読書備忘録です。

隆明だもの/ハルノ宵子

吉本隆明は、「共同幻想論」も読んでおらず、読んだことのあるのは糸井重里との共著「悪人正機」だけ。同時代の思想家と比べてもなんとなく一種特殊な雰囲気をまとっているような気がしていたのだが、西伊豆での事故や死に際しての狂躁などを読むと、熱に浮…

行人/夏目漱石

理智の人の苦悩なんだが、特に「共感」がキーワードになりがちな現代では受けないだろうな。 関係を疑っているかのような兄に言われて嫂と出かけた先で嵐に降り込められて同宿することとなるのだが、もちろん陳腐で下司なドラマにはならない。しかし兄めんど…

彼岸過迄/夏目漱石

最近は小説をほとんど読まなくなったのだが、本書のような日常の(と言っていいのかどうかわからないが)人間関係のあやというのか、あるいは内面の動きを淡々と追っていく最近の小説にはどんなものがあるのだろう?女性作家にはまだありそうな気もするのだが…

テレビ局再編/根岸豊明

ネットとの競争や地方の人口減少などによる疲弊で、民放ネットワークは維持できなくなり、地方局再編が進むのではないかというのだが。 私が重要と考えるのは、ネットの持っていない、地方における新聞を含めての取材能力(体制)が維持されること。統合で報道…

目的への抵抗/國分功一郎

自由は目的に抵抗する。人間が自由であるための重要な要素の一つは目的に縛られないことであり、目的に抗するところにこそ人間の自由がある。 メルケルはその経験に基づき「移動の自由」の重要性を強調した上で政治家として命を守るという目的のためにその制…

東京の地霊/鈴木博之

地霊とは、土地にまつわる歴史や記憶の集積のもたらす連想性、可能性といったもの。中澤新一のアースダイバーも時間軸やスケールが異なるが同様の視点に立つものと言っていいかもしれない。 和宮(家茂没後静寛院宮)の邸地は、東久邇宮稔彦の邸地となり、戦後…

八ヶ岳南麓から/上野千鶴子

はじめて読む上野千鶴子が本書というのもなんだかなではあるが。夏が暑くなりすぎて、夏の間だけでも高原で過ごすことができたらどれほどよいか、虫やらゴミやらあっても羨ましくはある。色々ハードルはあるけれど。 時にエッジの効いた?フレーズもあるが、…

財政と民主主義/神野直彦

民主主義は選挙権の行使だけでも、デモに参加することだけでもない、何より公共の問題を解決するために自発的に組織された団体(アソシエーション)に参加することが重要。 北欧などの「参加型社会」では、投票率も高く、財政(支出と負担)に対して納得感のある…

聞き書緒方貞子回顧録/緒方貞子 野林健・納家正嗣編

緒方貞子のオーラルヒストリー。初出は2015年。 国連難民高等弁務官、JICA理事長として活躍されたことは無論知っていたが、その具体的な人となりや事績を知ると、そのあまりの大きさに圧倒される思いがする。 本書と並行して読んだ「悩んでも迷っても道はひ…

悩んでも迷っても道はひとつ/村上一枝

マリ共和国で30年にわたり支援活動に従事した著者の活動の記録。 支援内容は、識字指導、裁縫や菜園作り、産院の設置、井戸設置、衛生指導、マラリア・寄生虫対策など広範にわたる。その支援活動の基本姿勢は「自立」。物を与え、お金を与えるのではなく、住…

中国農村の現在/田原史起

農村社会学研究者によるフィールドワークによる現代中国農村についての考察。 中国は非常に古くから封建制、身分制を脱し、中央集権制の下にあったことに一つの特徴があり、自己責任意識と社会的上昇意欲が顕著。血の流れを継ぐとともに栄達を希求する「家族…

資本主義の次に来る世界/ジェイソン・ヒッケル

資本主義は、自然を、外部(グローバルサウス)を収奪し、成長を続けることを本質とする。そのため、必然的に生態系・地球環境を破壊し、既に危機的状況。解決には、成長を止めるしかないが(グリーン成長は根本解決にならない)、北の高所得国は人々の生活を向…

劇的再建/山野千枝

家族経営の中小企業の後継者難が課題となる中で、いわばベンチャー型事業承継という形で会社を発展させていく経営者(アトツギ)がいる。このような事業承継においては、親などの旧経営陣との確執や資産というより負債を継承して出発しなければならない場合、…

商店街の復権/広井良典

レーガン政権登場後、新自由主義的経済政策がグローバリズムとして世界を席巻する中で、日米構造協議などにより日本は大店法改正や農業の自由化などを推し進め、結果として、シャッター商店街や耕作放棄地を生むことになった。 日本の地方都市の現状は政策の…

漱石文明論集/三好行雄編

日本は維新後、文明開化として西欧近代文明を受容していくが、漱石は、日本の開化(近代化)の進展は内発的でなく、外発的で皮相的(取ってつけたように西洋のものまねをしようとしているだけ)だと批判する。 また、漱石は、英国留学中、英文学研究の意義を突き…

若者のためのまちづくり/服部圭郎

高校生をターゲットとして、まちづくり、まちの楽しみ方や改善の視点などを説く。10年以上前のものだが、今も古びず、おじさんも楽しく読める。歩いて楽しめる、自転車で自由自在に移動できる、ライトレールなど公共交通の復権、空地などのレジャー空間、サ…

犬と鬼/アレックス・カー

「美しき日本の残像」「ニッポン景観論」「観光亡国論」は、主として日本の国土や文化の美が失われてきたことについて述べるが、本書はより広く、金融や教育なども含め、その要因についても詳しく指摘している(先の3冊はもう詳しくは覚えていないが)。初出は…

近代日本の「知」を考える。/宇野重規

名前を知らないという人はいない、広い意味で関西に関係のあった近代の著名な知識人ら全29人、それぞれ一書一文を象徴的なものとして取り上げつつ、その歴史上の位置付けや現代における意義などについて、ごく短い文章で紹介するエッセイ的な肩の凝らない読…

国を作るという仕事/西水美恵子

20年余りにわたり南アジアを中心として世銀の開発プロジェクトに携わり、副総裁まで務めた著者による各国リーダー評を中心とするエッセイ、リーダーシップ論。 開発途上国の貧困の原因の多くは、腐敗構造などを含めた「悪統治」であり、最終的にはリーダーシ…

幕末維新の漢詩/林田愼之助

江戸時代、漢詩は武士の一般教養だった。維新の志士らの漢詩はあまり知られていないが、この漢詩を通じてその考え方の真実や内面を深く知ることができると。読み下し文、現代語訳もついていて理解するのには十分すぎるほど丁寧なのだが、原文を見て読み下せ…

銀河ヒッチハイク・ガイド/ダグラス・アダムス

SFコメディ(バカSF)として名高い。昔々、大森望が激賞していた記憶がある。この手のは合わないと思いつつ、イーロン・マスクの愛読書ということもあって、読んでみた。 世に絶賛されているのに、どこが良い(面白い)のかさっぱりわからなかったのはやはりちと…

一億三千万人のための「歎異抄」/高橋源一郎

高橋源一郎による超訳「歎異抄」。 ただ単に念仏を唱えれば往生できる(しかも、いわんや悪人をや)という専修念仏は、常識的にはすごく分かりにくく、貞慶の批判(念ずる心、菩提心を持たず、ただ口先だけで名号を唱えればいいと言うのは堕落でしかない)が真っ…

ダーウィンの呪い/千葉聡

本来のダーウィンの進化論は、進歩(主義)とは無関係、また自然選択は適者生存とは異なるものだが、社会に受け入れられやすい形に都合よく規範化、改変されて、功利主義的経済政策や階級闘争、帝国主義(植民地)政策などの「科学的」根拠とされた(ダーウィンの…

私の体がなくなっても私の作品は生き続ける/篠田桃紅

107歳で亡くなった篠田桃紅の弟子(?)松木志遊宇所蔵のコレクションと桃紅が仕事場で語った言葉による画文集。 篠田の「書は創るものじゃないです。できるものです。」という言葉は、漱石「夢十夜」で、運慶が無造作に仁王像を彫るのは、木の中に埋まっている…

「協力」の生命全史/ニコラ・ライハニ

細胞レベルから個体、家族、大規模集団まで、生物が協力により環境に適応してきた事例などを幅広く紹介。小さな集団(近い関係)では協力が行われやすいが、大きな集団(遠い関係)では難しく、大規模な協力が必須の地球環境問題などは困難な課題。 ヒトの繁栄は…

ウィーン愛憎/中島義道

1980年代前半、ジャパンアズナンバーワンなどと言われた頃、4年半にわたる著者のウィーン留学記。 「うるさい日本の私」の闘う中島義道はこの頃から変わらない。というか、氏を形作った(あるいはその闘う姿勢を強化した)のは、ウィーン留学経験であったのか…

居るのはつらいよ/東畑開人

ケアとセラピーは似て非なるもの。ケアは「傷つけない。ニーズを満たし、支え、依存を引き受ける。そうすることで…平衡を取り戻し、日常を支える」。ケアの必要な人は社会に「いる」のが難しい人たち、従って、ケアラーは「いる」のが難しい人と一緒に「いる…

北関東「移民」アンダーグラウンド/安田峰俊

ベトナム人不法滞在者ら(ボドイ)のコミュニティの迫真の密着ルポ。窃盗、殺人、売春などろくでもない犯罪行為がてんこ盛りだ。アンダーグラウンドの人間模様も読みどころ。 これら眼前の違法行為はキチンと正されるべきだが、これだけアングラコミュニティが…

セラピスト/最相葉月

精神医療、臨床心理学にかかわる多くの関係者を取材、自ら大学院に学び、中井久夫のクライエントとなって箱庭療法や風景構成法なども経験。河合隼雄、中井久夫という臨床心理学の泰斗の活動をはじめ、カウンセリングの歴史的な発展過程や臨床心理学、精神医…

経済学は悲しみを分かち合うために/神野直彦

宇沢弘文の思想の系譜に連なる財政社会学第一人者の自伝。大企業(日産自動車)の労務担当という経歴を持つ経済学者というのもなかなかいないだろう。 「分かち合い」「共生」を謳うグループの中心人物だと思うが、そのための負担(財政)のあり方についての国民…