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読書備忘録です。

暴君/牧久

国鉄・JRの労働組合のドン松崎明の評伝。

国鉄労組といえば、経営に介入、生産性の向上、合理化に反対し、順法闘争とかスト権ストとか、なかなか理解しがたい戦術で混乱をもたらし、莫大な累積赤字の主たる原因を作ったというイメージ。そのドンともいう人物が松崎明

松崎は、革マルの幹部でもあり、その組織理論は、味方の力量が小さいときは敵の組織に「潜り込み」、内部から「食い破る」というもの。加えて、「統一と団結論」を否定し、内部の敵対者は積極的に排除し、闘う組織を防衛するという「積極攻撃型組織防衛論」をとる。

国鉄分割民営化に際しては、先鋭な活動で知られる鬼の動労を率いた松崎がコペ転(コペルニクス的転換)と言われる「変心」を見せて、労使協調路線に転換、組織を守る(一方、国労は分裂、脱退が相次ぐこととなる。)。しかし、これはまさに潜り込み戦略というべきもので、松崎は、JR発足後はJR東日本労働組合委員長として、住田社長、松田常務との間に労使協議による労使対等の協力体制を作り、人事など経営に介入し、また、中核派等と内ゲバを繰り返す革マルを支援してゆく。JR西、東海が松崎と対立していく一方で、JR東の経営幹部は、松崎の力を経営改革に活用しようとする。それが労使関係の安定につながったという一面はあるが、時間をかけて革マルの牙を抜くという方針で直接の対決を避けてきたことによって、松崎の影響力を長く残すこととなった。

松崎は、上部組織JR総連にも大きな影響力を持ち、次第に神格化、組織を私物化していくようになり(ハワイなどに別荘を持つなど業務上横領の容疑で書類送検、不起訴処分といった事件も)、JR東海、西などの労組は、分裂、脱退、JR連合を結成する。

松崎の死後、JR東経営側が方針転換を行う中で、ストライキ戦略を巡って東日本労組にも大規模な脱退が起こり、今なお松崎の影響力が残るのは、社長、相談役が相次いで自殺したJR北海道であるという。

暴君というよりは、妖怪。松崎は黒田の死後事実上革マルのトップであったりもしたわけだが、究極的には暴力革命を夢見ていたのだろうか?

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

  • 作者:牧 久
  • 発売日: 2019/04/23
  • メディア: 単行本