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読書備忘録です。

人新生の資本論/斎藤幸平

人間の活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くす地質年代「人新生」は、気候危機の時代。

資本主義の進展は、グローバルノースにおける大量生産、大量消費による豊かな生活(帝国的生活様式)と、グローバルサウスにおける搾取、環境負荷の外部化を生む。人新生は、そのような収奪、転嫁を行うための外部を失い、気候変動などの危機に直面する時代になっている。

この危機に対応するために、グリーンニューディール(緑の経済成長)が唱えられるが、経済成長と環境負荷の増大のデカップリングは不可能であり、脱成長を目指すしかない。

脱成長は、資本主義を維持したまま可能なのか?広井良典の定常化社会や佐伯啓思の思想も資本主義的市場経済を維持したまま脱成長は可能とするが、資本主義を維持したまま、利潤追求等にブレーキをかけ、その矛盾の外部化、転嫁をなくすということは、その矛盾自体も資本主義の本質であるから不可能である。これは、資本主義をやめろと言っているのと同旨であり、脱成長資本主義は存在し得ない。

そこで目指すべきは、脱成長コミュニズムである。

資本主義がコモン(社会的共通資本)の潤沢さを解体し、希少性、欠乏を生むシステムであるのに対し、コモンを取り戻しラディカルな潤沢さを市民の手に取り戻すのがコミュニズムである。エネルギーの「市民営化」、生産手段のコモン化(労働者協同組合)などにより、GDPの増大でなくラディカルな潤沢さ(豊かさ)を再建する。

脱成長コミュニズムの柱は、

①使用価値に重きを置いた経済に転換して、大量生産、大量消費から脱却する。

②労働時間を短縮して生活の質を向上させる

③画一的分業の廃止、労働の創造性の回復

④生産過程の民主化

⑤エッセンシャルワークの重視

議会政治だけでは民主主義の領域を拡張して社会全体を改革することはできない。資本と対峙する社会運動を通じて、政治的領域を拡張していく必要がある。その例がフランスの気候市民議会。

21世紀の環境革命として花開く可能性を秘めるコミュニズムの萌芽が既にみられる。気候非常事態宣言に伴うバルセロナの気候正義の動きは国境を超えて革新自治体のネットワークとして広がる(ミュニシパリズム)。南ア食糧主権運動もその萌芽。

政治の選択肢の可能性は狭まっており、気候危機に立ち向かうための民主主義の刷新が必要。生産のコモン化、ミュニシパリズム、市民議会と、市民が主体的に参画する民主主義が開始されることが必要。3.5%の人が本気で立ち上がると社会が大きく変わるといわれる。一人一人の参加が3.5%にとって重要。

 

温暖化の危機感がさっぱり共有されない一方で、格差の拡大の問題は比較的共有されるようになっていると思うけれど、脱成長コミュニズムは3.5%を超える運動になるか。気付いた時には地球滅亡は避けられないという事態になっていることの方があり得る未来に思えるのが恐ろしい。

斜に構えてはいけないのだが。

 

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)

  • 作者:斎藤 幸平
  • 発売日: 2020/09/17
  • メディア: 新書