HONMEMO

読書備忘録です。

ノマド/ジェシカ・ブルーダー

著者自身、RV(日本でイメージするRVというよりは、大型のバンやキャンピングカー)を買って3年間にわたりアメリカの車上生活者(ワーキャンパーwork+camp)を取材したルポ。短期の雇用を求めて全米を移動するワーキャンパーは、高齢、シングルの白人が多いようだ。

仕事としてはキャンプ場の雑用などがあるが、最大のものはAmazonのキャンパーフォース(倉庫労働)であり、ワーキャンパーの1/4は経験者になるだろうという。

Amazonでの労働を含め、労働はとてもきついものだが、彼らには、誤解を恐れずに言えば、いわゆるホームレスなどの持つ暗いイメージはなく、さばけた明るさがあるようにみえる。「ヒルビリーエレジー」に描かれたような暴力やドラッグ中毒などにはあまり縁がないようで(少なくとも描かれていない)、独り身の気楽さも感じられる。もちろん、孤独ではあるものの、同じワーキャンパーのネットワークやお祭りのような集会が支えになっている。

彼らが貧困に陥り、家を失った事情は様々だが、運が悪ければ誰でもが陥りそうなもので、このような生き方を自ら好んで選択している訳ではない。一方、彼らは、いつか全てが元どおりになり、普通の家に住めるようになるとは考えず、壊れつつある社会秩序の外で生きられる車輪の上のパラレルワールドを作ることを考えている、という。(彼らは福利厚生や社会保険をほとんど要求しないという。)

そんな現状肯定的な感覚が、なんとはなしの明るさを感じさせるのかもしれない。移動自体の持つ自由さ、アメリカという国の広大さやカラッとした気候なども関係しているかもしれない。本邦ではなかなかイメージできない生き方だ。

「人間というものは人生最大の試練の時でさえ、もがき苦しみながらも同時に陽気でいることができる。」と著者はいう。

ワーキャンパーとなる人はまだマシで、ヒルビリーエレジーどん底、黒人なども含めたスラムのホームレスなど、アメリカにはもっと深い闇があるのだろうが。

映画はタダで見られるようになったら見る。