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読書備忘録です。

「歴史の終わり」の後で/フランシス・フクヤマ、マチルデ・ファスティング編

フクヤマの業績を網羅的に取り上げ、対話形式で平易に提示する書。「歴史の終わり」は趣旨は知っていたが未読だったので読むかどうか迷ったが、同書を読まずとも私には本書で十分かな。

権威主義的政府を倒すことができても、民主主義的制度を実際に立ち上げる段階へ移行するのが非常に難しい。

・政治がイデオロギー、経済の軸からアイデンティティの軸へとシフト(トランプ、ブレグジット国民投票) その立場は、経済より文化によって決まる。この変化は自由民主主義を健全に機能させるのに望ましいとはいえない。

・ポピュリスト指導者が法の支配、憲法を破壊する。法の支配は何より重要であり、これを土台とし、腐敗していない独立した諸制度をもつ自由民主主義国は、様々な利益集団からの圧力に抵抗しやすく、権威主義への傾向を回避しやすい。

・米国共和党民主党は以前よりイデオロギー的に近いところにいて、共和党は白人高齢者の政党になり、民主党は多様なマイノリティの連合体となっているが、これは政治が二つに分かれるあり方としては健全とは言えない。

制度、ルールが必要なのは、対立を解消して暴力に陥らないようにする手段になるから。国家は暴力を抑える道具。その方法の一つが、対立の場を街頭から議会に移し、喧嘩で解決するのではなく討論と熟議を可能とすること。

デンマーク化とは、腐敗のない近代国家をもつこと。社会民主主義大きな政府とは関係ない。

・近代化と発展に最も役立つのは近代国家を持つことだが、これを作り上げるのが極めて難しい。

アメリカの国家不信は病的。

自由民主主義を含む全ての政治体制にはナショナルアイデンティティの感覚が必要。そのアイデンティティは、包摂的で民主主義の原理に基づいたものでなければならない。民主主義国が機能するには、国民は互いの権利を認め合い、自分の権利を尊重される必要がある。

・二極化の問題を緩和する方策として、優先順位付き投票がある。

・国家がよく機能することと国家に対する信頼の因果関係は双方向。

・資本主義が全ての人の利益になるように機能させるには、企業が株主だけでなくより広い社会のメンバーに義務を負うという昔の感覚に立ち戻ることがプラスになる。

・人権は普遍的に適用されるが、実際に権利を守らせるのは国であり、人権の威信は国の力の及ぶ範囲に限定される。ある国が他国の領土で人権を「強制」できる世界が良い世界かは疑問。

・中国モデルは、中国がこれから30年引き続き力をつけていけば、自由民主主義に代わるかなり効果的と思われるモデルになりうる。しかし、すぐにそのモデルが輸出できるものではない。

・民主主義と個人の権利の価値は、単なるグッドガバナンスと経済成長の手段としてのものでなく、それ自体が価値。

・移民に自由民主主義的価値を受け入れるよう求めるのは完全に正当。国は、抑圧されたり困難に直面している世界の人々を支援する無限の義務を負うものではない。まず自国民の問題を扱い、余裕があればそのほかの人を支援すればたりる。

イスラムマイノリティへの対応は最大の問題。最終的に大きなナショナルアイデンティティに統合されるか、それともある種の並立した社会を形成するのか。後者は望ましくない。宗教的・民族的マイノリティをより大きな自由主義的・民主的文化に同化させるチャンスがあるなら、そうすべき。

アイデンティティは、人種や宗教や民族ではなく政治理念を中心に成立していかなくてはならない。