HONMEMO

読書備忘録です。

2025-01-01から1年間の記事一覧

なぜ社会は変わるのか/富永京子

社会運動論を概説するものだが、その外延があまりに広いからか、理解力不足を棚にあげて恐縮ながら、この一冊をさらっと読んだだけでは何だかよくわからない。 社会運動理論に様々あり、それぞれ歴史的過程を経て形成されたこと自体はよくわかる。 ただ目的…

持続不可能な財政/河村小百合・藤井亮二

我が国には客観的、中立的な財政見通しが存在せず、内閣府の見通しは甘い。実際、我が国の財政状況は極めて深刻であり、財政破綻のリスクが高まっている。 日本でデフォルトが起きると、IMFによる救済は期待できず、戦後日本の預金封鎖と政府による踏み倒し(…

観光"未"立国/永谷亜矢子

主に観光でいかにして儲けるか(マネタイズするか)の実践的指南を語るもの ビジネス本 観光"未"立国~ニッポンの現状~ 作者:永谷 亜矢子 扶桑社 Amazon

米原昶の革命/松永智子

「近代日本メディア議員列伝」という政治のメディア化を体現した議員の評伝集の中の一冊という位置付けなのだが、本書を手に取るのは、米原昶の共産党所属議員(赤旗編集局長)としての活躍を知るというより、万里の父としての昶についての関心による人が多い…

和の思想/長谷川櫂

俳人長谷川櫂による日本文化論。 和とは、外来の文化をまず全面的に受け入れ、次に取捨選択した上で、日本の生活や文化にふさわしい形に作り変える(需要、選択、変容)という創造力である。戦後の日本人はそのような和の創造力を見失い自信を失っているのでは…

バブル兄弟/西崎伸彦

高橋治之が逮捕された時にバブルの申し子のようなイ・アイ・イ治則の兄なのかと知ったのだが、今回、大宅賞の本ということで手に取った。 不動産開発、金融、マーケティングなどのような事業の性質によるところもあるのかもしれないが、大きなビジネスでは、…

人生の教養が身につく名言集/出口治明

いい言葉ではないが、いわばよくある処世術指南の書で、出口治明によるものでなければまずこのようなタイトルの本は手に取らない。 著者の本は何冊か読んでいるのでなじみのあるものが多く、ひょっとすると以前に読んでいたか? 真っ当な人と思うから、その…

バルセロナで豆腐屋になった/清水建宇

定年後、バルセロナで豆腐屋を開業した元朝日新聞記者の奮闘記。 サラリーマンの第二の人生でよく聞くのは、蕎麦屋やカフェなど半分道楽みたいなものが多いが、豆腐屋をやるというのはすごい。朝は早いし、技術も要りそうだし、豆腐が好きだからって自ら作っ…

欲望の経済を終わらせる/井手英策

井手英策の著作は、共著1冊を含めて4冊目。本書は2020年の上梓で、主張自体に新しいものはないが、前半で、我が国の戦後財政政策が国際的な環境の中で、特に米国との関係の中でどのように決定、変化してきたかが、非常にわかりやすく整理されている。財投が…

銀河鉄道の夜/宮沢賢治

数十年ぶりの再読。 銀河鉄道に乗ってということしか覚えていなかった。宮沢賢治は法華宗だと思うがキリスト教にも関心を持っていたのか? 小説は過去の名作を再読しようかと思う。 銀河鉄道の夜 宮沢賢治集 (古典名作文庫) 作者:宮沢賢治 千歳出版 Amazon

記憶の盆踊り/町田康

kindle向けに書かれたものだろうか。これを表題作とする短編集もあるようだが、この掌編1本だけ、kindleで無料で読む。 記憶が飛び、曖昧になって、外界がダリやムンクのようにグニャグニャとゆがむ。私は生きているのか? 記憶の盆おどり (Kindle Single) …

対馬の海に沈む/窪田新之助

対馬農協での共済に係る巨額横領事件についてのルポ。刑事は被疑者死亡不起訴とかになってるのだろうか。西山軍団は、主犯ヤンキー西山の共犯と言っていいのだろう(立証できるかは別として)と思うが、契約者まで「共犯」と呼ぶのは、広い意味でそういう言い…

この国の戦争/加藤陽子・奥泉光

近代国家の国民統合の装置として帝国議会と軍の2系統があると。軍部が国民統合装置だったという指摘はなるほどと思う。30年代以降、政治化、先鋭化する軍部の戦争観、歴史観(物語)を積極的に受容し、その反響板となったのは中間層であり、戦争への道を牽引し…

日本の分断はどこにあるのか/池田謙一・前田幸男・山脇岳志

アンケート調査をもとにした統計分析をもとに、日本における政治的分断やそのメディア接触との関係、日本人の政治意識と行動などを分析・評価するもの。 論点はさまざま興味深いが、ちょっとだけメモ。 私生活志向の下位概念としての非政治志向の高い人は、…

ある行旅死亡人の物語/武田惇志・伊藤亜衣

冒頭に提示される行旅死亡人の謎が推理小説を地でいくような謎なので、どんなナゾの人生(物語)なのだろうとワクワクして読むのだが、結局孤独死をした人の人物同定ができて、その人の暮らしの一部が明らかになりはしたものの、謎との関係はさっぱり解明され…

あの国の本当の思惑を見抜く地政学/社会部部長

どのようなバックグラウンドもつ人なのかわからないが、おどろおどろしいイメージの地政学を変に煽るようなことなく、わかりやすく説明している。 地政学は現実を理解することを強調するが、決して宿命論ではなく、地政学を否定すること、即ち「理想を捨てず…

失敗の科学/マシュー・サイド

「失敗から学べ」よく言われることだが、これを印象的な事例をもとに多角的に説明する10年前のベストセラー 失敗を検証することの重要性(航空機事故と医療過誤の対比) 検証のために失敗を認めることの困難(認知的不協和の問題) 検証自体の困難(ランダム化比…

幽囚回顧録/今村均

蘭印方面軍司令官大将今村均の回顧録(今村均回顧録からの抜粋か)。 今村のジャワでの軍政が寛大すぎると軍中央の局長(武藤章らということ)が派遣されてきて大喧嘩したが信念を曲げなかったとか、巣鴨から希望して部下のいるマヌス島の刑務所へ行って服役した…

潤日/桝友雄大

潤(run)とは儲けるの意でrunとダブルミーニングになっていて、様々な理由から良い暮らしを求めて中国から脱出する人々のことだと。 富裕層が資産保全の観点からタワマンなど不動産を購入するため、過激な受験競争を逃れて大学(院)やインターナショナルスクー…

折々のうた 三百六十五日/大岡信

6,000を超える「折々のうた」からの一日一作の体裁による詞華集。 毎朝、新聞を開いて、このうたを味わうという余裕というか素養のある人の日常の豊かさを思う。 堀江敏幸の解説も贅沢だ。 折々のうた 三六五日──日本短詩型詞華集 (岩波文庫 緑202-5) 作者:…

ボーダー/佐々涼子

我が国の移民、難民の現場ルポ。 引用される英紙ガーディアンの記事が「日本人は"純粋な"もしくは無意識の人種差別主義者である」と指摘するように、多くの民族との共生が日常となっている欧米人等と異なり、(次第に外国人との接触は増えているとはいうもの…

人類が知っていることすべての短い歴史/ビル・ブライソン

タイトル(原文は「ほとんど全ての短い歴史」となっていてより正確)に偽りなし。宇宙、地球、生命、人類の誕生などについての真理探究の歴史を、著者ならではのユーモアあふれる筆致でわかりやすく描いている。 森羅万象を面白く知ることができるということも…

能十番/いとうせいこう、ジェイ・ルービン

いとうせいこうが能を現代語訳し、それを村上春樹の翻訳などで知られるジェイ・ルービンが英訳するもの。 白洲正子「能の物語」がいわば意訳であるのに対して、こちらは逐語訳に近く、掛詞なども韻を考慮しながらリズムよく翻訳していく。 シテやワキのセリ…

詭弁と論破/戸谷洋志

論破芸は、自身の信条と関係なく相手を論破する技術であり、客観的エビデンスを要求する。しかし、客観的エビデンスの存在自体疑わしく、それを提示することは不可能であるから、どんな主張も妥当でないと結論づけることが可能になる。 昨今は、何が嘘で何が…

月とコーヒー/吉田篤弘

掌編集。大人の童話。 Kindleで 月とコーヒー 作者:吉田篤弘 徳間書店 Amazon

都会の鳥の生態学/唐沢孝一

スズメ、ツバメ、シジュウカラ、カラス、水鳥、猛禽類など都市に生息する鳥の生態は、都市の環境の変化によって大きく変化する。フィールドワークを通じて明らかにされるその生態はとても興味深い。 最寄りの駅にあったツバメの巣、2-3年前に落下して(たぶん…

極地探検家シャクルトンの生涯/ラヌルフ・ファインズ

「エンデュアランス号漂流」(改版でタイトルが変わっているらしい)を読んだのは20年も前だろうか。極限における人間ドラマとしてこれ以上のものを知らない。といって細部はすっかり忘れているので、その振り返りも兼ねて読む。 シャクルトンは、極限状況にお…

揺らぐ日本のクラシック/渋谷ゆう子

各国オーケストラの歴史的成り立ちと財政基盤を見た上で、日本のオーケストラの持続可能性を問うもの。 クラシック音楽を楽しむには、ある種の教養と社会経験が必要であり、それ故にビジネスの視点だけでなく、教育へのアウトリーチや市民活動との連携が可能…

ことばの番人/高橋秀実

校正とは何かについて、著者は、いつものとおり、そこまで考えるか?というほど突き詰めて、そこまで風呂敷広げなくても良いのでは?と思うほど広い視点から考えていく。向き合う事象に対する真剣だけれど暖かい眼差しとユーモラスな筆致が好きでした。 中身…

10の国旗の下で/エドガルス・カッタイス

満洲で生まれ、育ったラトヴィア人の、中ソ対立激化前に帰国するまでの半生の回想録。著者は日本語、中国語、ロシア語の語学教師、翻訳、通訳家となり、ロシアが建設した国際都市ハルビンなどで暮らした日常の細部を、抜群の記憶力で人びとの民族的な特徴や…