HONMEMO

読書備忘録です。

2019-01-01から1年間の記事一覧

反知性主義/森本あんり

アメリカで理解しにくいものは、テレビ伝道師の絶大な人気と医療保険や銃規制にすら反対する政府不信だ。これらはアメリカという国の成り立ちと深い関係がありそうだということがわかる。 本書の主題は、アメリカのキリスト教を背景として生まれた反知性主義…

美学校1969-2019/美学校編

この学校のことは全く知らなかった。初年度の講師陣に赤瀬川原平、澁澤龍彦、巌谷國士、唐十郎、種村季弘、埴谷雄高らがいたというのはおどろくばかり。会田誠、Chim↑Pomらも講師を務めている。他にも恐らくはわたしが知らないだけであろうこの方面で有名な…

人外/松岡寿輝

「川の光」(未読)は、ネズミが旅するアニメにもなった恐らくは分かりやすいお話なのだろうが、こちらは、猫だかアナグマだかカワウソだかという形をもつ人でなし、人外が、わたしたちのひとりであるかれを探して旅をする、幻想的物語。「名誉と恍惚」とは異…

春夏 掌篇歳時記

二十四節気ごとに、七十二候の一つをタイトルとして、著名作家が掌篇を書き下ろしたアンソロジーの春夏編 著者は、瀬戸内寂聴、絲山秋子、伊坂幸太郎、花村萬月、村田沙耶香、津村節子、村田喜代子、滝口悠生、橋本治、長嶋有、高樹のぶ子、保坂和志 この面…

「家族の幸せ」の経済学/山口慎太郎

経済学とは、「人々がなぜ・どのように意思決定し、行動に移すのかについて考える学問」であるので、結婚、出産、子育て、家族の幸せも対象となる。カネに関係なくとも。そうなんだ。 結構当たり前じゃないかということが多いのだが(もちろん、へえ〜と思う…

横浜の時を旅する/山崎洋子

横浜の老舗ホテルニューグランドを通して見る人々と横浜の歴史。老舗ホテルといえば、帝国ホテル、ホテルオークラなどもあるが、ニューグランドの佇まい、その纏う雰囲気が一味違うように思えるのは、まさに横浜という町の歴史を背負っているからだ。 ドアマ…

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ

日本で暮らしていると分からない"ダイバーシティ"の実際。 母子の会話: 「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」 「楽じゃないものが、どうしていいの?」 「楽ばっかりしてると、無知になるから」 これ…

暴走する日本軍兵士/ダニ・オルバフ

著者はイスラエルの若手研究者。明治以来(維新、佐賀の乱からニニ六事件まで)の日本軍軍人の不服従の歴史を英語で書いたものは、本書が初めての試みであるという。ただ、日本人にとっては、大枠で常識的な内容なのではないかな。 暴走する日本軍兵士 帝国を…

黄金夜界/橋本治

金色夜叉の本歌取り。 金色夜叉がそうであるように(粗筋しか知らないけど)、ストーリー自体は極めて通俗的なのだが、平成の時代を切り取って見事(橋本治晩年の小説は皆そうだ。)。 怒りさえもねじ伏せてしまう強い絶望のうちにある貫一には、愛すらも欠落し…

作家と楽しむ古典(5)/松浦寿輝ほか

松尾芭蕉ー松浦寿輝 与謝蕪村ー辻原登 小林一茶ー長谷川櫂 近現代俳句ー小澤實 近現代詩ー池澤夏樹 作家と楽しむ古典シリーズの第5巻 奥の細道は、歌枕を訪ねる旅。古今和歌集や新古今和歌集が芭蕉に旅され、詠まれることで、その土地には文学的な記憶が再充…

パンと野いちご/山崎佳代子

第2次大戦、ユーゴスラビア紛争下での旧ユーゴスラビアの人々の食を中心とする?記憶の聞き書き。6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教などと言われる極めて複雑な地域であることなどにもよるのだが、もう少し整理してもらわないと、読むのが辛い。…

神様の住所/九螺ささら

短歌の後に散文、そして最後にまた短歌というスタイルの小編が84。 言葉の持つ意味だけでなくて、その語感、音、リズム、形までを繊細にすくい上げることができる人が詩人であり、歌人なのだろう。 25 枕 木琴は絵に描いた線路の枕木だんだん高音だんだん遠…

作家と楽しむ古典(2)/堀江敏幸ほか

土左日記ー堀江敏幸 堤中納言物語ー中島京子 枕草子ー酒井順子 方丈記ー高橋源一郎 徒然草ー内田樹 池澤夏樹監修の日本文学全集で古典の現代語訳を担当した人が行った「連続古典講義」をまとめたものの第2巻。 翻訳というのは、単に言葉を置き換えることでは…

ウィスコンシン渾身日記/白井青子

アメリカの田舎はなかなかいい。マディソンは州都だけど、アメリカの州都はだいたいこじんまりした田舎なんだよな。 ウィスコンシン渾身日記 作者: 白井青子 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2018/06/21 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る

日本で1日に起きていることを調べてみた/宇田川勝司

「1日という時間を尺度にした数字に表してみることで、現代日本の意外な側面や驚きの事実が浮かび上がってくる!」とのこと。意外と思ったり、驚いたりというのは人それぞれであろうとは思うけれど、数字の根拠が明示されておらず、びっくりしていいのかどう…

古典を読んでみましょう/橋本治

この辺は、橋本治の独擅場。 古典はなぜ読めないのか。 理由は、①意味がわからない言葉が多い②旧仮名遣い③文語体 古典には、公文としての漢文(あるいはその流れをくむ漢文脈の文章)と、物語に代表される和文脈の文章が並存する。特に和文脈の文章は、論理的…

八九六四/安田峰俊

天安門事件はその後どのような影響を人々にもたらしたか。王丹、ウーアルカイシのようなリーダーから非知識人の参加者、当時は生まれていない香港民主化活動家まで、多様な人々に対するインタビュー。転向して中国の現状をやむを得ないと考える者、引き続き…

生きづらい明治社会/松沢裕作

・ 負債農民騒擾は、地租改正により「村請制」が廃止されたにもかかわらず、農民が江戸時代の慣習に基づいて、借金返済猶予、土地の買戻し権の容認などの配慮を求めたことにより生じた。 ・ 現代の貧困層に対する冷たい視線は、明治期に遡る。貧民窟に暮らす…

春にして君を離れ/アガサ・クリスティ

砂漠の駅に3日ほどたった一人で足止めをされて、主人公ジョーンは自らを見つめることになる。そして、自分は、実は、自ら信じて疑わなかった、夫からも子供たちからも、そして誰からも愛され、信頼されているような人間ではないのではないかと気づく。そして…

日本進化論/落合陽一

キーワードは、ポリテック。テクノロジーに対するオプティミスティックな態度を若者の特権などと言わず、頭の固い政治の世界が認めていく必要。この本の軽やかな作り(なんとはなしにチャラチャラした感じの作り)自体が明るい未来を垣間見せるようにさえ思う…

独ソ戦/大木毅

ドイツの対ソ戦は、戦争目的を達成したのちに講和で集結するようなものでなく、人種主義に基づく社会秩序の改変と収奪による植民地帝国の建設を目指す「世界観戦争」であり、かつ(それ故に)敵の生命を組織的に奪っていく「絶滅戦争」であった。また、ドイツ…

傍らにいた人/堀江敏幸

「ひとつの文芸作品を読んで記憶の奥底に刻まれるのは、物語の筋とは一見関わりのなさそうな細部である」と。60を超える作品を連想ゲームのようにして取り上げて、その細部を愛おしむ。そのようにして指摘されないと意識することなく読み飛ばす凡人は、堀江…

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください/井上達夫

-リベラリズムは、寛容と啓蒙の2つの流れから生まれたが、そのそれぞれのポジを統合させる規範的理念が正義。正義がリベラリズムの核心。 -どの正義構想も持つべき正義概念の規範的実質は、「普遍化不可能な差別の排除」にある。これは、反転可能性テストに…

ヘンな日本美術史/山口晃

-鳥獣戯画 4巻の構成の妙で見ると味わい深い。わざとふにゃっとちょろまかすように書くのが日本の絵の特徴。筆致に宿るものに重きがある。 -白描画 字が擬人化され、人が擬デザイン化される。紙の白がそのまま絵画の中の空間になる。白を残して描く印象派に…

最後の秘境 東京藝大/二宮敦人

東京藝大の学生たちへのインタビュールポ。 藝大は音楽と美術の両方をもつ点に特徴がある(言われてみればそうだ)。音楽は一過性の芸術であるのに対し、美術は作品が残るといったことなどを反映してか、音校と美校の学生にはそれぞれカラーみたいなものがあり…

人口減少時代の土地問題/吉原祥子

土地は公共性の高いものでありながら、強い所有権、対抗要件としての登記制度、進まない地籍調査などで、所有者不明の土地が増加している。 最近、法律ができたはずと思って調べたら、本書が出た直後から著者も委員になって審議会での検討が始まり、昨年、所…

名作うしろ読み/斎藤美奈子

毒舌、イヤミに安定感 名作うしろ読み (中公文庫) 作者: 斎藤美奈子 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2016/01/21 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る

食の実験場アメリカ/鈴木透

新書なので総花的な上滑りなものになってしまってるのかもしれないが、分析、評価が雑な気がする。 消化不良。 食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書) 作者: 鈴木透 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2019/04/19 メディア: 新書…

子どもたちの階級闘争/ブレイディみかこ

英国は階級社会というのは知られるが、その格差は拡大、固定化し、ソーシャル・アパルトヘイト、ソーシャル・レイシズム、ソーシャル・クレンジングといった言葉が階級差別に関して使われるという。 労働党政権下の手厚い福祉政策によって、労働者階級の更に…

経済学者たちの日米開戦/牧野邦昭

有沢広巳らの参加した陸軍省戦争経済研究班(通称秋丸機関)の報告書は、 ①国策に反するため焼却しなければならないような不都合な内容のもの ②太平洋戦争の戦略立案に大いに役立つ機密情報 のいずれでもなく、ごく常識的な内容のものであり、日米開戦の回避に…