ノンフィクション
内閣広報官、首相補佐官として見た安倍政権、内閣広報の実際。効果的な広報のあり方、マスメディアとの向き合い方にいろいろと腐心していたことがわかる。質問が尽きるまで会見に応じよというようなマスコミの傲慢なありようを辟易として見ている者としては…
ホムス(シリア)からストックホルムへの難民行取材をモチーフとした連作の合間に、満州からの引き揚げ、コソボ紛争、パスポートを持たないレバノンのスナイパーの日本での生活などの短編や詩が織り込まれる企みのある構造。 小説はさっぱり読まなくなったが、…
ナチス崩壊とともに破壊されたと考えられていたヒトラー総統官邸前の巨大な2体の彫像が売りに出されている?著者は美術商であり、警察に協力する美術探偵?でもある。その彫像は贋作か、本物なら誰がどのような経緯で所有しているのか?売り手は、どのような…
最近の中国の極めて攻撃的な主張や自国を過剰に賛美したり、ディスインフォメーションの流布を繰り返す「戦狼外交」や「海外派出所」を通じる対日工作は、したたかな中国の表れなのか。 戦狼外交を担う外交官の多くは田舎者気質の迎合的出世主義者であり、脇…
日中戦争時に東亜局長、ビルマ大使で終戦を迎えた外交官の自伝。陸奥、小村、幣原、重光ほど有名ではないけれど(寡聞にして知らなかった)、気骨ある外交官だったようだ。 国際協調主義、平和主義、対華善隣主義という当時の霞ヶ関の正統外交は時間をかけて形…
緒方貞子のオーラルヒストリー。初出は2015年。 国連難民高等弁務官、JICA理事長として活躍されたことは無論知っていたが、その具体的な人となりや事績を知ると、そのあまりの大きさに圧倒される思いがする。 本書と並行して読んだ「悩んでも迷っても道はひ…
マリ共和国で30年にわたり支援活動に従事した著者の活動の記録。 支援内容は、識字指導、裁縫や菜園作り、産院の設置、井戸設置、衛生指導、マラリア・寄生虫対策など広範にわたる。その支援活動の基本姿勢は「自立」。物を与え、お金を与えるのではなく、住…
家族経営の中小企業の後継者難が課題となる中で、いわばベンチャー型事業承継という形で会社を発展させていく経営者(アトツギ)がいる。このような事業承継においては、親などの旧経営陣との確執や資産というより負債を継承して出発しなければならない場合、…
ベトナム人不法滞在者ら(ボドイ)のコミュニティの迫真の密着ルポ。窃盗、殺人、売春などろくでもない犯罪行為がてんこ盛りだ。アンダーグラウンドの人間模様も読みどころ。 これら眼前の違法行為はキチンと正されるべきだが、これだけアングラコミュニティが…
精神医療、臨床心理学にかかわる多くの関係者を取材、自ら大学院に学び、中井久夫のクライエントとなって箱庭療法や風景構成法なども経験。河合隼雄、中井久夫という臨床心理学の泰斗の活動をはじめ、カウンセリングの歴史的な発展過程や臨床心理学、精神医…
宇沢弘文の思想の系譜に連なる財政社会学第一人者の自伝。大企業(日産自動車)の労務担当という経歴を持つ経済学者というのもなかなかいないだろう。 「分かち合い」「共生」を謳うグループの中心人物だと思うが、そのための負担(財政)のあり方についての国民…
一人につき5〜6ページとコンパクトにまとめられた近代の女性37人の評伝。短い文章だが、性的な虐待や女性であるというただそれだけで差別され、才能の発揮を妨げられる無念や哀しみ、逆境の中でもがき、自己の意思を貫こうとする姿に心打たれる。封建的な人…
2009年上梓の「朝日平吾の鬱屈」の改訂文庫版。安田財閥の創設者安田善次郎を暗殺した朝日平吾は、自尊心ばかり高く、何事にも他責的で、承認欲求が強い。北一輝の影響下に設計主義的な革新的日本主義を掲げ、「労働ホテル」構想の挫折等から富者に対する恨…
著者の曽祖父の代からの'ファミリーヒストリー'を、また大(greater)五反田の歴史を、祖父の手記や関係者への取材、文献調査などによって、丁寧に、きめ細かく描く。大五反田は、正田家のあった高台の御屋敷町と川沿い・低地の工場街が近接する地域であり、工…
世界各地の家庭に滞在して一緒に料理し、料理から見える社会や暮らしを伝える「世界の台所探検家」。 決めつけない、しなやかな考え方が、好ましい。 伝統食が政治や企業活動によって作られたイメージであることがよくある(ブルガリアヨーグルト) 安全性、文…
世界古代文明(シュメール)揺籃の地にほど近いチグリス川とユーフラテス川の合流する辺りは、アフワールと呼ばれる広大な湿地帯になっていて、騒乱のたびに人々が逃げ込むアジールでもある。今でも政府勢力の影響力が及びにくく、情報も少ない謎の地域で、安…
著者は北京に長く住むライター。 最近の若者の恋愛、結婚事情を中心とした中国社会事情ルポ。 中国では経済成長もそうだが、結婚平均年齢、離婚率の上昇、少子化など社会構造も超高速・圧縮型で変化した。 貧富の差の拡大、不動産価格の高騰などの経済成長に…
アルベルゴ・ディフーゾとは分散型の宿などと訳される、地域に点在する古民家などを拠点として、自然や農村の暮らしを楽しむようなシステム(レセプションはひとつ、食事は村の食堂)又はその宿。イタリアでサント・ステファノ・ディ・セッサニオという村など…
世界中の廃墟となった102の島の写真集。城砦、流刑地、検疫あるいはハンセン病隔離施設などの役割を終えて放置された島、災害や戦争、核実験などにより破壊された島、過疎化により見捨てられた島など。 具体的には、チフスのメアリーが23年隔離されたノース…
稲泉連は、「ぼくもいくさに征くのだけれど」、「アナザー1964」、「廃炉」と読んできた。 著者は就学前の1年ほど、母とサーカスに暮らした。それは夢と現のあわいの独特の時間として記憶される。本書は、その時に出会った人たちを中心とするサーカスの人々…
親の転勤に伴い、インドで暮らすことになった女子高校生が考えたこと。 思ったよりずっとしっかりした文章で感心させられる。 潜在的な差別意識や固定観念についての気づき、貧富の差に直面しての罪悪感、貧しい子供達の持つ上向きの力=希望についての気づき…
NIKE創業者の自伝。凄まじい負けず嫌いと情熱。リスクをものともしないというか、ハッタリを超えて詐欺とも言えそうな行動(実際詐欺罪でFBI沙汰になる)をとったりする。痛快な成功物語だが、一方で、日商岩井の人情が際立ち、こういうリスクの取り方、商売の…
東京帝国大学法学部長、文部大臣、参議院文教委員長、最高裁判所長官、国際司法裁判所判事を歴任した田中耕太郎の人物評伝。 田中は、論敵を強烈に批判し、明快に自らの価値に基づく意見を主張しつつ、状況に応じた対応をする。このことによって組織内で反対…
2008年、17人が死亡した漁船の海難事故の原因を追うノンフィクション。 現在原発処理水問題の渦中にある福島県漁連会長の会社の漁船が犬吠埼沖で沈没。その原因は波とされたが、油が大量に流失していたという生存者の証言は運輸安全委員会の報告書と大きく食…
1973年に新聞連載されたベトナム思索紀行。米軍撤退後サイゴン陥落前の南ベトナム(サイゴン〜メコン)で考えたことを徒然に記したもの(解説の桑原武夫は第一級の思想書と評する)。 親中、親ソ、新米3つの正義(共産主義と自由主義でもいい)の名の下に、機械運…
ガザの難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人の産婦人科医の自伝。 医学は人々の分断に橋をかけることができると信じて、ガザに住み、非人道的検問を通過してイスラエルの病院で診療を行うために往復する。(ガザに設備の整った病院はなく、パレスチナ人も…
第二次対戦中ソ連軍やパルチザンに参加した女性たちに対するインタビューをまとめたもの。当時100万人を超える女性が従軍したという。衛生兵、看護師、通信兵といった職種だけでなく、工兵や狙撃兵、戦車部隊まで、また兵だけでなく士官もいるなど、ありとあ…
「散るぞ悲しき」は積んであったような気がしたが、この作者結局一冊も読んでいない。 サガレンとは、樺太/サハリンの旧名で宮沢賢治がそう呼んだことにちなむ。日露混住の地から樺太千島交換条約によりロシア領に。その頃、チェーホフが詳細な旅行記をまと…
平岡養一は、明治40年、実業家の長男として生まれ、音大でなく、慶應で学び、木琴の黄金時代を迎えつつあった米国で活躍、日米交換船で帰国後、日本における木琴時代(デイズ)を牽引、国民的音楽家となった。戦後再び米国へ渡るも、その頃からマリンバの人気…
過去にニュースで取り上げられた22人のその後の人生をたどるノンフィクション。 のぞき見的悪趣味かと躊躇うところもあったが、そうでもなく。 2012年9月から原子力規制委員会委員長も務めた田中俊一さんは、立場故に批判に晒されることも多かったように思う…