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読書備忘録です。

世界は五反田からはじまった/星野博美

著者の曽祖父の代からの'ファミリーヒストリー'を、また大(greater)五反田の歴史を、祖父の手記や関係者への取材、文献調査などによって、丁寧に、きめ細かく描く。大五反田は、正田家のあった高台の御屋敷町と川沿い・低地の工場街が近接する地域であり、工場街は小林多喜二宮本百合子の活動の場だった。また、第2次大戦では最初に空襲を受け、また後に焼け野原となる。中小工場は軍需物資製造に活路を見出す一方、小売商は配給統制で先行きが見えなくなり、武蔵小山商店街は満洲開拓団として海を渡るが、残留孤児となった者も多く、帰国できたのはわずかだった。

そういう大きな話ももちろん興味深いのだが、町工場の大家族のこまごましたエピソードが本書の魅力なのだと思う。