HONMEMO

読書備忘録です。

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

北の無人駅から/渡辺一史

「こんな夜更けにバナナかよ」から8年半になるそうだ。著者自身、本書を第2の処女作と位置づける力作。 北海道の無人駅をきっかけとして、その周辺の地域の実際とそこに暮らす「人」を描く。綿密な取材と著者の人柄がにじみ出る文章で、説得力がある。 「駅…

日本ぶらりぶらり/山下清

放浪の画家とか、裸の大将とか呼ばれた山下清の放浪記。といっても、有名になってから後見人とも言うべき式場某氏らと行った取材旅行の際のものが多いので、放浪記というよりは旅行記。式場氏によるあとがきによると、文章も式場氏による手が入っているもの…

キリストの勝利 ローマ人の物語38〜40/塩野七生

キリスト教を公認したコンスタンティヌスの後、コンスタンティウス、背教者ユリアヌス、テオドシウスの治世。ユリアヌスがその生い立ちもあって、反キリスト教的政策をとるが、テオドシウスは、司教アンブロシウスに屈し*1、キリスト教を国教化。 塩野節には…

許されざる者/辻原登

毎日新聞に連載されたものということもあって、著者の短編小説にあるような難解ともいえる企みのない、読みやすい長編の物語。小説の楽しみが満載*1。アンナ・カレーニナのような姦通小説であり、(日露戦争を背景とした)「戦争と平和」(読んでいないけど…

時が滲む朝/楊逸

天安門事件の民主化運動に挫折、日本で家族を作り、生活する中国人主人公の想い。芥川賞受賞。 時が滲む朝 (文春文庫)作者: 楊逸出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2011/02/10メディア: ペーパーバック購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログ (7件) を…

眠りにつく太陽/桜井邦朋

ちょっと前に太陽活動が低下していて、地球が寒冷化するかもしれないという報道があって、へえそんなものかと思ったのだが、本書は、太陽物理学の第一人者が2年程前に書いた同様の趣旨を述べるもので、極東ブログにも書評があった。 第1章「歴史に見る地球の…

アサッテの人/諏訪哲史

その企みが様々にあるにせよ、ちと、ついていけません。ポンパ。 本書で芥川賞受賞。 アサッテの人 (講談社文庫)作者: 諏訪哲史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/07/15メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 16回この商品を含むブログ (12件) を見る

社会を変えるには/小熊英二

反原発官邸前デモなどにも参加している著者。デモに何の意味があるのか?デモより投票に行くべきではないか?と問われるという。私もデモに対しては懐疑的だ(だった)。本書は、デモだけでなく、ロビー活動や国民投票なども含めて、直接民主制的な参加の要…

その未来はどうなの?/橋本治

「分からないという方法」という著作のある著者が、「分からない」ことについて、「そのように分からなかったのか」に辿りつこうとする本であると。 取り上げられるのは、 テレビの未来 ドラマの未来 出版の未来 シャッター商店街と結婚の未来 男の未来と女の…

反ポピュリズム論/渡邉恒雄

反ポピュリズムというのは、エリート主義、官僚主義というに近いということでもある。 橋下徹大阪市長が掲げる「維新」は、スローガンが先行して政策の具体的な中身があやふやなところなど、パパンドレウの「変革」に似てはいないか。戦後日本の復興を牽引し…

清沢洌評論集/山本義彦編

清沢洌は、大正期から終戦前までのリベラル派のジャーナリスト・評論家。何でその名を知ったのだったか…。 外交目的は強硬にさえ出れば達せられる、外交の実があがらないのは強硬に出ないからだというのが、幕末からの一貫した民間常識であった。 (中略) こ…

草の上の朝食/保坂和志

プレーンソングの続編。このタイトルが、マネの「草上の昼食」の何やら不穏な雰囲気を想起させるように思うのは、私だけだろうか。 本書の創作ノート 草の上の朝食 (中公文庫)作者: 保坂和志出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2000/11メディア: 文庫 ク…

なずな/堀江敏幸

ひょんなことから弟夫妻の赤ん坊なずなを預かることになったコミュニティ紙の記者。赤ん坊は世界の中心で、人々をその引力で引き寄せてくる。これは赤ん坊を育てたことのある人(男でも女でも)にはたぶん馴染みのある感覚だろう。育児、赤ん坊のディテール…

うらなり/小林信彦

「坊っちゃん」という小説は、いわば、坊っちゃんが狂言回しとなったうらなり君と山嵐の悲劇という構造をもつと。なるほど。では、うらなり君の目から見ると「坊っちゃん」の物語はどのようになるか、延岡に飛ばされたうらなり君のその後の人生は…昭和9年に…

オートバイ/A.ピエール・ド・マンディアルグ

レベッカは結婚したばかりの19歳。夫が寝ているうちに素肌に黒革のレーサー服をまとい、恋人の元へとハーレー・ダビッドソンで驀走する。驀走するオートバイのリアル、かつての恋人との逢瀬(バラの花束で鞭打たれるなんてシーンもある)の回想のエロティシ…