HONMEMO

読書備忘録です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

今年の3冊

毎年恒例のまとめを。 今年読んだ本は、71作品(87冊)。ことしは結構良い本に多く出会えた年だったように思います。 恒例によって、今年の3冊と思いましたが、絞るのが難しいので、思い出すまま。 まずは何と言ってもこれ。加賀乙彦「永遠の都」 日本文学で…

これでよろしくて?/川上弘美

かみさんが図書館で借りてきているのを途中で拝借して読みました。婦人公論連載にふさわしい(?)夫婦仲、嫁姑ものですが、川上弘美らしい、ほんわかしながらあられもないというか、苦笑するやら痛いやらといった感じと言えばいいでしょうか。 これでよろし…

犬の力/ドン・ウィンズロウ

麻薬取締局捜査官の主人公、メキシコの麻薬カルテル、アメリカのマフィアらの血で血を洗う抗争を描くバイオレンス・アクションです。中米の不安定な政情を背景とした政治的謀略もからんで、スリリングなコン・ゲームものとなっています。ドン・ウィンズロウの…

帝国以後/エマニュエル・トッド

無意識のうちにアメリカの側に立って物事をみていることが多いのではないかということに改めて気付かされました。もっとはやく読んでおきたかったと思います。 人口学が国の盛衰、世界を読み解くパラメーターとなるというところも新鮮でした。 帝国以後 〔ア…

国家の命運/藪中三十二

タイトルがぶっ飛んでますね。まあそれはどうでもいいのですけれど。 まえがきに暴露的レポートを書くつもりはないとあるとおりで、スマートではありますが、表層的な記述しかありません。いかにも優秀な外務官僚の著書らしいという印象です。 オフェンスと…

流跡/朝吹真理子

大好きな堀江敏幸が選考したドゥマゴ文学賞受賞ということで、手に取りました。amazonの書評で小谷野センセイがこれは散文詩だと言っていますが、そういうことなのかもしれません。小説、エッセイ、散文詩といったもののあわいの文学というイメージのある堀…

なぜ私だけが苦しむのか/H.S.クシュナー

原題は、「なぜ善き人々に悪いことが起こるのか」というものです。ユダヤ教のラビである著者は、息子を「早老症」で若くして亡くすという辛い体験を通じて、「なぜ何も悪いことをしていない人に、神は酷い苦しみを与えるのか」あるいは「神はなぜホロコース…

シズコさん/佐野洋子

母と娘の関係というのは、子供が独立してからも比較的密接な関係を継続するちょっと特別な親子関係ではないかという気がします。母シズコさんをずっと嫌いだったという佐野洋子が、そんな母に対する感情、母娘の関係を赤裸々に綴っています。母を許せるよう…

幼年期の終わり/アーサー・C・クラーク

解説に「現代の黙示録的文学の古典として広く親しまれてきた」とあるとおり、そういう書としてSFのベスト10の常連となっているのもよくわかりますが、ワクワク感に乏しくて、私にはもう一つという感じでした。 幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)作者: ク…

悪人/吉田修一

映画を先に観ました。良い作品だと思いました。そんな場合、あとで小説を読むと、とりわけ原作に忠実に映画化している場合などは、イメージが限定されてしまって、小説を読む楽しみが半減してしまう…。先に小説を読みたかったという気がします。ブックオフで…

打ちのめされるようなすごい本/米原万里

米原万里の書評集です。 亡くなる直前、「癌治療本を我が身を以て検証」として数多の代替療法に関する本を読んで試しているのが(米原万里のような知性でも、そんな怪しげなものまで試そうとするようになるのかと)身につまされます。 面白そうだと思った本を…

世界を知る力/寺島実郎

本書あとがきは、普天間問題が喧しかった昨年11月に書かれているのですね。*1 世界の潮流なり、構造変化なりについての見方、中国と米国との関係などについての考え方なども含めて、今やそれほど目新しい見かたということではないかも知れませんが、自ら「世…

冷血/トルーマン・カポーティ

カンザス州で起きた一家4人の惨殺事件の犯人二人の生い立ちから絞首刑に至るまでを詳細に描いたノンフィクションです。 本書もそうですが、Dainさんの「スゴ本100」からいくつか読んでいこうと思っています。犯罪者を扱ったノンフィクションという意味では、…

西部戦線異状なし/レマルク

戦争の地獄と心理をリアルに描いた名作に、開高健「輝ける闇」や大岡昇平「俘虜記」などがありますが、本書は、二十歳にならない若者の一人称で語られているということもあって、ちょっとセンチメンタルだったり、微笑ましかったりするところもある一方で、…

怪談/ラフカディオ・ハーン

「奇怪な話の中に寂しい美しさを湛えた作品は単なる怪奇小説の域をこえて、人間性に対する深い洞察に満ちている。」とあるのですが、そんなかんじもあまりしないのですが。評価されるポイントがもう一つ分かりません。 怪談―不思議なことの物語と研究 (岩波…

これからの「正義」の話をしよう/マイケル・サンデル

難解と思われている政治哲学を興味深く読ませる良い本です。事例を引いて考えさせる工夫が素晴らしく*1、買って損をした気にさせない数少ない「ベストセラー」の一つでしょう。 著者の考え方は、コミュニタリアンというのだそうですね。知りませんでした。 …

街場のメディア論/内田樹

著者の著作権に対する考え方については、違和感があります。大きくメディア論と読書論に分かれますが、内田節に慣れてきたせいか、ふーんという感じでした。 街場のメディア論 (光文社新書)作者: 内田樹出版社/メーカー: 光文社発売日: 2010/08/17メディア: …

せきれい/庄野潤三

エッセイというよりは日記文学という感じです。以下、カバー裏から。 四季を彩る庭の花、賑やかな鳥たちの訪れ、食卓をにぎわす旬のもの、懐かしい歌とピアノの音色、善き人々の去来…。変わらぬものと変わるもの。静かだけれど本当に豊かな暮らしがここにあ…

レディ・ジョーカー/高村薫

タイトルのレデイ・ジョーカーというのは、競馬を通じる緩いつながりのビール会社社長誘拐犯グループの名前ですが、タイトルとしてもなかなか洒落ていますね。メンバーそれぞれを思い浮かべるとミスマッチではありますが。総会屋に対する利益供与なども絡ん…

浄土/町田康

「犬死」「どぶさらえ」「あぱぱ踊り」「本音街」「ギャオスの話」「一言主の神」「自分の群像」からなる短編集です。 パンク侍のテイスト。 浄土 (講談社文庫)作者: 町田康出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/06/13メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 27…

われはロボット/アイザック・アシモフ

ロボットは、ロボット工学の3原則なるものに縛られた行動しかできない(はずである)、という前提がユニークで、これによって引き起こされるアイロニカルなドラマがなかなか楽しい連作短編です。半世紀以上も前の作品です。 われはロボット 〔決定版〕 アシ…

若者のための仕事論/丹羽宇一郎

この手のビジネス本はほとんど読まないのですが、ひょんなことから、若者でもないのに読んでみました。やや古いフレーズですが「想定の範囲内」というか、まあ私くらいの年のものからみれば極めて陳腐な印象です*1。 負けてたまるか! 若者のための仕事論 (朝…

百年の誤読/岡野宏文・豊崎由美

1900年以降のベストセラー100冊以上を対象とした、対談形式での書評です。解説で呉智英も書いていますが、対談ものによくある手抜き企画という感じはありません。対象がベストセラー本ですから、ほとんどのもの(特に近年のもの)が色々な角度から叩かれ、ツ…

春宵十話/岡潔

手元にないので確認できませんが、藤原正彦「国家の品格」に影響を与えた書でしょう。はしがきの冒頭が、「人の中心は情緒である。」ですから。わたしは科学者の書くエッセイが好きですが、本書は思い込みが強すぎる感じに辟易してしまいました。以下若干引…

新・反グローバリズム/金子勝

グローバリズム、金融資本主義の弊害に対抗する戦略を説くもので、民主党の言っていることと重なる部分が多いですが、第三者評価機能を持つアソシエーションの形成*1とか、私にはよく分からないところの多い本でした。 新・反グローバリズム――金融資本主義を…

巡礼/橋本治

ゴミ屋敷の主として周囲から白い目で見られ、ワイドショーネタとなった男忠市は、どんなろくでもない異常性格なのかと思いきや、昭和一ケタ生まれのごく普通の小市民として生きてきた人なのです。その昭和の時代を生きたごく普通の男の日常が丁寧に描かれて…

東西/南北考/赤坂憲雄

柳田国男の民俗学は文化周圏論に代表される「一つの日本」の考え方に基づくものであるが、古代蝦夷、アイヌの存在などから考えれば「いくつもの日本」と考えるべきであるとするものです。 高橋克彦の蝦夷歴史物などに親しんでいたこともあってか、蝦夷、アイ…

茶の本/岡倉覚三(岡倉天心)

「武士の娘」からの英語で書かれた本つながりというわけでもないのですが。 おのれに存する偉大なるものの小を感ずることのできない人は、他人に存する小なるものの偉大を見のがしがちである。一般の西洋人は、茶の湯を見て、東洋の珍奇、稚気をなしている千…

武士の娘/杉本鉞子

明治初頭生まれの長岡藩の家老の娘のメモワールです。武士の娘として厳しく育てられますが、貿易商と結婚して渡米、二人の女の子を授かります。このころの異文化ショックと言うのは現代では考えられないほどであることは容易に理解できるのですが、現代人の…

迷走する帝国 ローマ人の物語32〜34/塩野七生

カラカラからディオクレティアヌスの前まで、ゲルマン民族の大移動=蛮族の侵入を背景に、73年間に22人の皇帝が立つという混迷の時代についてです。本筋とははずれますが、パルミラ王国とそのゼノビア女王というのは知りませんでしたが、気になります。 ロー…