HONMEMO

読書備忘録です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

回送電車/堀江敏幸

様々な媒体に発表された小文を集めた散文集です。回送電車は、堀江敏幸の文学の理想であると。 特急でも準急でも各駅でもない幻の電車。そんな回送電車の位置取りは、じつは私が漠然と夢見ている文学の理想としての《居候》的な身分にほど近い。評論や小説や…

滝山コミューン一九七四/原武史

日教組系の全国生活指導研究協議会の唱える「学級集団づくり」によって、著者の通う七小は、民主集中制の「滝山コミューン」となった。相当におどろおどろしいもので、「追求」といった自己批判の強要のようなところまでいくと背筋が寒くなりますが、当時、…

社会的共通資本/宇沢弘文

経済学の系譜は良く知りませんが、新古典派、サプライサイド、マネタリズム、合理的期待形成といったような主流を形成し、経済運営のバックボーンとなった考え方とは異なる、制度主義とか社会的共通資本といった概念で社会のあり方を問うています。 今の経済…

太陽がイッパイいっぱい/三羽省吾

ガテン系青春小説です。これも酒飲み書店員大賞ということで読んでみました。 大学の連中と肉体労働者の面々に違いがあるとすればそこの所、リアルな現実があるかないか。すなわち同じことを考えているにしてもそれに対する代償を支払っているか否かにある。…

嵐が丘/エミリー・ブロンテ

甘やかされた(上流階級の)子供というのが何人かバリエーションを変えて出て来るのですが、なんというのか、わたしとしてはイライラするばかりなので、楽しくない小説でした。古書で読みましたが、翻訳が村上春樹の言うところの(?)賞味期限切れという印…

新編平和のリアリズム/藤原帰一

冷戦終了後の国際政治の構造変化に日本の外交は対応できていないということはよく聞くことですけれども、その意味が良く分かったように思います。線を引きながら本を読んだのは久しぶりです。 菅直人氏が希望の星に見え、著者の師である坂本義和氏の著作をあ…

我輩はカモである/ドナルド・E・ウェストレイク

ずいぶん昔に何かで絶賛の書評をみていずれはと思っていた作品で、まあ楽しく読みましたが期待していたレベルのものではなかったかなという感じではあります。カモっぷりがぶっ飛んでます。 1967年上梓なので50年近く前の作品です。 原題God Save The Markの…

政治の精神/佐々木毅

政治学というのは、丸山真男「日本の思想」などもそうなのでしょうけれど、人間の考え方や行動をつきつめていく側面をもつ学問なのでしょう。ただ、それを具体的(政治)状況にあてはめていく場合に、それは学問なのだか何だかわかりにくくなっていくのかもし…

阿Q正伝・狂人日記他12編/魯迅

文学史上重要な作品なのでしょうが、面白くは読めませんでした。1923年に上梓されたものとのことで、本書の初版は1955年です。翻訳*1のせいということもないのでしょうが、読みにくい感じもします。 この作品集には「吶喊」という名前があるらしいのですが、…

メディア・バイアス/松永和紀

食品、健康などをめぐるメディアの酷さはまあうんざりするほど承知していますが、科学者にも相当いい加減なのがいるようであきれます。こういうのが受け入れられる素地としての衆愚の問題かもしれませんが…。 有機食品が安全とは無縁の概念であることはもっ…

聖域/篠田節子

生と死の境を知るイタコをめぐるサスペンスホラーです。比較的初期の作品ですけれど、ぐいぐい読ませる力は既に。 聖域 (講談社文庫)作者: 篠田節子出版社/メーカー: 講談社発売日: 1997/08メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 60回この商品を含むブログ (16…

衆愚の時代/楡周平

近所の本屋さんにて立ち読みで読み切りました。失礼。 今のメディアなり政治家の振る舞いをみれば、何のためらいもなく「衆愚の時代」とレッテルを貼ることができるでしょう。愚痴ってどうなるものでもないですけれど、どうすればよいのかもよくわからないで…

円朝芝居噺 夫婦幽霊/辻原登

今は使われない方式の速記で残された古文書は、何と円朝の人情噺だった。本書の中心となるその幽霊噺が終わった後で、実はその噺を書いたのは…という結末に至るまでの、凝りに凝った構成がすばらしい。ミステリーも落語の人情噺も1冊で楽しめる贅沢な本です…

全ての装備を知恵に置き換えること/石川直樹

冒険家のフォト・エッセイです。星野道夫的なものを勝手に期待していましたが…。写真は素敵ですけれども。 全ての装備を知恵に置き換えること (集英社文庫)作者: 石川直樹出版社/メーカー: 集英社発売日: 2009/11/20メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 27回…

政策論争のデタラメ/市川眞一

環境・エネルギー、医療、教育、郵政、官僚システムに関する政策に関する問題点を指摘するとともに、提言を行っているものですが、次のような点などに共感するところが多くありました。 日本の温暖化対策は、効果の薄い道徳的努力を国民に求めている点で問題…

盗まれた街/ジャック・フィニイ

筒井康隆による朝日のコラム漂流 本から本へで紹介されていた侵略ものSFの古典ということで読んでみました。何回か映画化もされているそうです。 解説によると、スティーヴン・キングが高く評価しており、「呪われた町」に影響を与えたとしているそうです。…

告白/町田康

(主人公熊太郎は父母の寵愛を一心に*1享けて育ちながら無頼者となり果てて)『あかんではないか』ではじまり、(神さんに向かって本当のことを言って死にたい、と思って自分の本当の思いを心の奥底に探ったのに、何らの言葉も、思いもなくて、涙あふれて)…

プリズン・ストーリーズ/ジェフリー・アーチャー

著者が服役中に知ったエピソードをもとにしたものを中心とした短編12編。水準は超えているのですけれど、やはり物足りない感が否めないです。 プリズン・ストーリーズ (新潮文庫)作者: ジェフリーアーチャー,永井淳出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/05/2…

思索紀行/立花隆

2004年に上梓された旅にまつわる文章、あるいは海外ルポといったものを集めたものです。もっとも古い文章は、1972年に書かれた拘留中の岡本公三との一問一答*1を文春に載せたものですが、もっとも古い旅は、1960年の立花隆が学生の頃の反核映画・写真を携え…

恥辱/J・M・クッツェー

主人公デヴィッドは、2度の離婚経験のある大学准教授で、教え子に手を出してケープタウンの大学を追われ、農園に一人住むレズビアンと思しき娘ルーシーのところに転がりこみ、近くの動物病院で犬の安楽死、死体の焼却などを手伝いはじめますが、ある日、3人…

アホの壁/筒井康隆

筒井版精神分析入門という感じの本です。筒井康隆らしいアホなタイトルのアホな本です。 朝日新聞のサイトで連載されている筒井康隆の「漂流 本から本へ」は、お気に入りのコラムですが、そこで、フロイトの精神分析入門にのめり込んだことが書かれていまし…

ゴメスの名はゴメス/結城昌治

1962年に上梓されたベトナム戦争下のサイゴンを舞台としたサスペンスです。解説によれば、著者にとっても愛着のある、推理小説史上も重要な作品ということですが、私にはさっぱりでした。タイトルは印象的なのですけれども。 ゴメスの名はゴメス (光文社文庫…

永遠の都/加賀乙彦

文庫版で全7冊の長編大河小説です。時代は昭和10年から22年まで(時田利平の回想なども含めれば日露戦争の頃から)。 登場人物は、漁師から身を起こし、苦学して海軍軍医となり、日露戦争に従軍、その後三田で開業して一大病院を経営する、まさに立志伝中の…

五番町夕霧楼/水上勉

映画化されたりもした著名な作品ですが、金閣寺焼失事件がモチーフになっていることは知りませんでした。著者には、「金閣炎上」という作品もあり、こちらがおそらく、三島由紀夫の「金閣寺」同様の放火自体を中心にした作品なのでしょう。本作では、金閣寺…

思考停止社会/郷原信郎

『「法令遵守」が日本を滅ぼす』の続編のような本です。「法令遵守」という印籠が出されると、もはやいかなる反論も許されなくなり、何が真に問題であるかということを考えることもなく、断罪されてしまうとして、不二家、伊藤ハムの「偽装」、「隠蔽」事件…

さおだけ屋はなぜ潰れないのか?/山田真哉

今更ながらではありますが、著者が何かのTVに出ていて、結構まともなことを言っているなと思って、手にとりました。私は会計について素人ですが、これは会計学の入り口にもなっていないのではないでしょうか。期待したものと違ったというだけですが…。 さ…

科学の扉をノックする/小川洋子

小川洋子による科学者ほのぼのインタビューです。インタビューしたのは、以下の方々。 渡部潤一国立天文台准教授 堀秀道鉱物科学研究所長 村上和雄筑波大学名誉教授 古宮聰高輝度科学研究センター特別研究員 竹内郁夫京都大学名誉教授 遠藤秀紀東京大学総合…

わたしのグランパ/筒井康隆

かわいらしい中学生珠子のグランパは、侠気のある刑務所上がりのイイ男。 時をかける少女の系譜*1のすがすがしい小説です。 ラノベというのは、こういう小説とは違うのでしょうか?読売文学賞受賞作としてはずいぶん異色ですね。 わたしのグランパ (文春文庫…

終わりの始まり ローマ人の物語29〜31/塩野七生

アントニヌス→マルクス・アウレリウス→コモドゥス→ペルティナクス→セヴェルス 平和な時代に困難を想定した改革を行ったハドリアヌスは偉大だったが、慈悲深いアントニヌス・ピウスは平和を享受して何もしなかった。 哲人皇帝と言われるマルクス・アウレリウ…

不幸な国の幸福論/加賀乙彦

今の日本は、公共事業を過剰に続け、社会福祉を切り捨てきた結果、「不幸増幅装置」になってしまっている。自殺者数も高水準になっている中で、幸福になるにはどうするのか。 幸福、生きがいは、期待するのではなく、生み出すものだ、ということで、卑近な言…