HONMEMO

読書備忘録です。

学術・教養

なぜ社会は変わるのか/富永京子

社会運動論を概説するものだが、その外延があまりに広いからか、理解力不足を棚にあげて恐縮ながら、この一冊をさらっと読んだだけでは何だかよくわからない。 社会運動理論に様々あり、それぞれ歴史的過程を経て形成されたこと自体はよくわかる。 ただ目的…

持続不可能な財政/河村小百合・藤井亮二

我が国には客観的、中立的な財政見通しが存在せず、内閣府の見通しは甘い。実際、我が国の財政状況は極めて深刻であり、財政破綻のリスクが高まっている。 日本でデフォルトが起きると、IMFによる救済は期待できず、戦後日本の預金封鎖と政府による踏み倒し(…

観光"未"立国/永谷亜矢子

主に観光でいかにして儲けるか(マネタイズするか)の実践的指南を語るもの ビジネス本 観光"未"立国~ニッポンの現状~ 作者:永谷 亜矢子 扶桑社 Amazon

米原昶の革命/松永智子

「近代日本メディア議員列伝」という政治のメディア化を体現した議員の評伝集の中の一冊という位置付けなのだが、本書を手に取るのは、米原昶の共産党所属議員(赤旗編集局長)としての活躍を知るというより、万里の父としての昶についての関心による人が多い…

和の思想/長谷川櫂

俳人長谷川櫂による日本文化論。 和とは、外来の文化をまず全面的に受け入れ、次に取捨選択した上で、日本の生活や文化にふさわしい形に作り変える(需要、選択、変容)という創造力である。戦後の日本人はそのような和の創造力を見失い自信を失っているのでは…

人生の教養が身につく名言集/出口治明

いい言葉ではないが、いわばよくある処世術指南の書で、出口治明によるものでなければまずこのようなタイトルの本は手に取らない。 著者の本は何冊か読んでいるのでなじみのあるものが多く、ひょっとすると以前に読んでいたか? 真っ当な人と思うから、その…

欲望の経済を終わらせる/井手英策

井手英策の著作は、共著1冊を含めて4冊目。本書は2020年の上梓で、主張自体に新しいものはないが、前半で、我が国の戦後財政政策が国際的な環境の中で、特に米国との関係の中でどのように決定、変化してきたかが、非常にわかりやすく整理されている。財投が…

この国の戦争/加藤陽子・奥泉光

近代国家の国民統合の装置として帝国議会と軍の2系統があると。軍部が国民統合装置だったという指摘はなるほどと思う。30年代以降、政治化、先鋭化する軍部の戦争観、歴史観(物語)を積極的に受容し、その反響板となったのは中間層であり、戦争への道を牽引し…

日本の分断はどこにあるのか/池田謙一・前田幸男・山脇岳志

アンケート調査をもとにした統計分析をもとに、日本における政治的分断やそのメディア接触との関係、日本人の政治意識と行動などを分析・評価するもの。 論点はさまざま興味深いが、ちょっとだけメモ。 私生活志向の下位概念としての非政治志向の高い人は、…

あの国の本当の思惑を見抜く地政学/社会部部長

どのようなバックグラウンドもつ人なのかわからないが、おどろおどろしいイメージの地政学を変に煽るようなことなく、わかりやすく説明している。 地政学は現実を理解することを強調するが、決して宿命論ではなく、地政学を否定すること、即ち「理想を捨てず…

失敗の科学/マシュー・サイド

「失敗から学べ」よく言われることだが、これを印象的な事例をもとに多角的に説明する10年前のベストセラー 失敗を検証することの重要性(航空機事故と医療過誤の対比) 検証のために失敗を認めることの困難(認知的不協和の問題) 検証自体の困難(ランダム化比…

折々のうた 三百六十五日/大岡信

6,000を超える「折々のうた」からの一日一作の体裁による詞華集。 毎朝、新聞を開いて、このうたを味わうという余裕というか素養のある人の日常の豊かさを思う。 堀江敏幸の解説も贅沢だ。 折々のうた 三六五日──日本短詩型詞華集 (岩波文庫 緑202-5) 作者:…

人類が知っていることすべての短い歴史/ビル・ブライソン

タイトル(原文は「ほとんど全ての短い歴史」となっていてより正確)に偽りなし。宇宙、地球、生命、人類の誕生などについての真理探究の歴史を、著者ならではのユーモアあふれる筆致でわかりやすく描いている。 森羅万象を面白く知ることができるということも…

能十番/いとうせいこう、ジェイ・ルービン

いとうせいこうが能を現代語訳し、それを村上春樹の翻訳などで知られるジェイ・ルービンが英訳するもの。 白洲正子「能の物語」がいわば意訳であるのに対して、こちらは逐語訳に近く、掛詞なども韻を考慮しながらリズムよく翻訳していく。 シテやワキのセリ…

詭弁と論破/戸谷洋志

論破芸は、自身の信条と関係なく相手を論破する技術であり、客観的エビデンスを要求する。しかし、客観的エビデンスの存在自体疑わしく、それを提示することは不可能であるから、どんな主張も妥当でないと結論づけることが可能になる。 昨今は、何が嘘で何が…

都会の鳥の生態学/唐沢孝一

スズメ、ツバメ、シジュウカラ、カラス、水鳥、猛禽類など都市に生息する鳥の生態は、都市の環境の変化によって大きく変化する。フィールドワークを通じて明らかにされるその生態はとても興味深い。 最寄りの駅にあったツバメの巣、2-3年前に落下して(たぶん…

揺らぐ日本のクラシック/渋谷ゆう子

各国オーケストラの歴史的成り立ちと財政基盤を見た上で、日本のオーケストラの持続可能性を問うもの。 クラシック音楽を楽しむには、ある種の教養と社会経験が必要であり、それ故にビジネスの視点だけでなく、教育へのアウトリーチや市民活動との連携が可能…

外交とは何か/小原雅博

著者は元外交官。外交史における様々な事例や外交官・外政家の事績を取り上げつつ、外交とは何か、どうあるべきかを説く。研究者なので堅実な内容だが、面白みには欠けるかな。そこがいいところかもしれないが。 幣原や重光など外交官の回想録に面白いものが…

戦争と交渉の経済学/クリストファー・ブラットマン

ゲーム理論や行動経済学の知見をベースとして戦争・紛争の原因やそれを回避し、平和をもたらすための条件や方策をついて分析する。取り上げられる事例もなかなか興味深く、教養過程の政治学によい本という印象。 平和の構築のためには、正義や公平・公正にご…

町内会/玉野和志

町内会の起源は、自然村の長であった豪農を区長として執行機能のみを担う機関として位置付けた区にある。農村から都市へとの人口移動に伴い、都市自営業者たちは、新規参入者への不安に対処する等のため、全戸加入の町内会を組織するようになり、行政はその…

西洋の敗北/エマニエル・トッド

うがった見方と思うところがなくもないが、国際関係について当然と思っていたことについて違う角度からの見方を提示されて刺激的な本だ。 ロシアが権威主義的民主主義であるのに対し、西洋はリベラル寡頭制(多数決による代表制が実質的に機能していないので…

日ソ戦争/麻田雅文

ソ連は沿海州方面から攻めてきたものとの認識だったが、西からも含めて包囲するように攻めていたとか、米国の後方支援があったとか、この戦争の全体を簡潔かつきちんと知ることのできる著作と言っていいのだろう。 日本政府、大本営、関東軍それぞれの認識、…

サピエンス全史/ユヴァル・ノア・ハラリ

2011年上梓(原著)のベストセラーを今更ながらに。 農業革命などによって、人口増加という意味で人類は繁栄するが、より良い生活や幸福には結び付かなかったというような「ファクトフルネス」的な視点の転換・確認と、ナラティブ、語り口の面白さで読ませるも…

体験格差/今井悠介

所得水準などに関わらず子供たちに体験の機会が与えられることに反対の人はいないだろう。一方、著者が配布したクーポンの9割が体験にではなく学習系に使われたという事実からすると、体験格差是正のために財政支援が必要というのであれば、体験の価値、必要…

庭の話/宇野常寛

グローバル資本主義は、承認獲得と相互評価から利益を得る仕組みのプラットフォームにみられるように、様々な面で弊害、問題が明らかになっている。それに代わるべきものとしてしばしば取り上げられるのが共同体だが、著者は共同体は排除により成り立つもの…

日本の政策はなぜ機能しないのか/杉谷和哉

効率的、有効な政策のため、エビデンスに基づいた判断、決定が必要というのは一般論としてそのとおりであるのだが、これまでの政策評価なりEBPMの実際は、膨大な事務作業などによる評価疲れが言われ、また政治によって歪められるなどその有効性自体も明らか…

風呂と愛国/川端美季

第4章くらいまでの風呂の話はディテールに面白いものが多かったが、後半の風呂、清潔が国民道徳と結びついたという話は、風呂というよりは健康と道徳の話で(健康のためには風呂というのもあるのだが)、何だかさっぱり。 風呂好きと神道が極端に不浄を嫌うこ…

就職氷河期世代/近藤絢子

氷河期世代(前後も含めて)の経済状況、家族形成、格差などについて幅広く統計データにより分析し、政策提言を行うもの。 分析の結果は肌感覚にあうものも多い一方、「就職氷河期世代はそのすぐ上の団塊ジュニア世代より子供を産む数は多かった」といった意外…

森と木と建築の日本史/海野聡

日本の歴史的建造物を森林、伐採、輸送、建築という一連のプロセスから見るもの。 建築といっても主として神社仏閣などの歴史的建造物を対象としているので、大径長大木に焦点が当てられている。 古代より寺社等の大量造営によって大径木等の資源は減少の一…

日本人のための憲法原論/小室直樹

憲法のもとになる政治思想(史)から日本社会の現状までを対話形式で熱く語る。いろいろと気づきの多い著作だが、時に独特のレトリックでビーンボールかと紛う内角高めの剛速球も投じられるので、他の政治思想史の著作と併せ読むと良いかもしれないなどと思う…