HONMEMO

読書備忘録です。

学術・教養

聞き書緒方貞子回顧録/緒方貞子 野林健・納家正嗣編

緒方貞子のオーラルヒストリー。初出は2015年。 国連難民高等弁務官、JICA理事長として活躍されたことは無論知っていたが、その具体的な人となりや事績を知ると、そのあまりの大きさに圧倒される思いがする。 本書と並行して読んだ「悩んでも迷っても道はひ…

中国農村の現在/田原史起

農村社会学研究者によるフィールドワークによる現代中国農村についての考察。 中国は非常に古くから封建制、身分制を脱し、中央集権制の下にあったことに一つの特徴があり、自己責任意識と社会的上昇意欲が顕著。血の流れを継ぐとともに栄達を希求する「家族…

資本主義の次に来る世界/ジェイソン・ヒッケル

資本主義は、自然を、外部(グローバルサウス)を収奪し、成長を続けることを本質とする。そのため、必然的に生態系・地球環境を破壊し、既に危機的状況。解決には、成長を止めるしかないが(グリーン成長は根本解決にならない)、北の高所得国は人々の生活を向…

劇的再建/山野千枝

家族経営の中小企業の後継者難が課題となる中で、いわばベンチャー型事業承継という形で会社を発展させていく経営者(アトツギ)がいる。このような事業承継においては、親などの旧経営陣との確執や資産というより負債を継承して出発しなければならない場合、…

商店街の復権/広井良典

レーガン政権登場後、新自由主義的経済政策がグローバリズムとして世界を席巻する中で、日米構造協議などにより日本は大店法改正や農業の自由化などを推し進め、結果として、シャッター商店街や耕作放棄地を生むことになった。 日本の地方都市の現状は政策の…

漱石文明論集/三好行雄編

日本は維新後、文明開化として西欧近代文明を受容していくが、漱石は、日本の開化(近代化)の進展は内発的でなく、外発的で皮相的(取ってつけたように西洋のものまねをしようとしているだけ)だと批判する。 また、漱石は、英国留学中、英文学研究の意義を突き…

若者のためのまちづくり/服部圭郎

高校生をターゲットとして、まちづくり、まちの楽しみ方や改善の視点などを説く。10年以上前のものだが、今も古びず、おじさんも楽しく読める。歩いて楽しめる、自転車で自由自在に移動できる、ライトレールなど公共交通の復権、空地などのレジャー空間、サ…

犬と鬼/アレックス・カー

「美しき日本の残像」「ニッポン景観論」「観光亡国論」は、主として日本の国土や文化の美が失われてきたことについて述べるが、本書はより広く、金融や教育なども含め、その要因についても詳しく指摘している(先の3冊はもう詳しくは覚えていないが)。初出は…

近代日本の「知」を考える。/宇野重規

名前を知らないという人はいない、広い意味で関西に関係のあった近代の著名な知識人ら全29人、それぞれ一書一文を象徴的なものとして取り上げつつ、その歴史上の位置付けや現代における意義などについて、ごく短い文章で紹介するエッセイ的な肩の凝らない読…

国を作るという仕事/西水美恵子

20年余りにわたり南アジアを中心として世銀の開発プロジェクトに携わり、副総裁まで務めた著者による各国リーダー評を中心とするエッセイ、リーダーシップ論。 開発途上国の貧困の原因の多くは、腐敗構造などを含めた「悪統治」であり、最終的にはリーダーシ…

幕末維新の漢詩/林田愼之助

江戸時代、漢詩は武士の一般教養だった。維新の志士らの漢詩はあまり知られていないが、この漢詩を通じてその考え方の真実や内面を深く知ることができると。読み下し文、現代語訳もついていて理解するのには十分すぎるほど丁寧なのだが、原文を見て読み下せ…

ダーウィンの呪い/千葉聡

本来のダーウィンの進化論は、進歩(主義)とは無関係、また自然選択は適者生存とは異なるものだが、社会に受け入れられやすい形に都合よく規範化、改変されて、功利主義的経済政策や階級闘争、帝国主義(植民地)政策などの「科学的」根拠とされた(ダーウィンの…

私の体がなくなっても私の作品は生き続ける/篠田桃紅

107歳で亡くなった篠田桃紅の弟子(?)松木志遊宇所蔵のコレクションと桃紅が仕事場で語った言葉による画文集。 篠田の「書は創るものじゃないです。できるものです。」という言葉は、漱石「夢十夜」で、運慶が無造作に仁王像を彫るのは、木の中に埋まっている…

「協力」の生命全史/ニコラ・ライハニ

細胞レベルから個体、家族、大規模集団まで、生物が協力により環境に適応してきた事例などを幅広く紹介。小さな集団(近い関係)では協力が行われやすいが、大きな集団(遠い関係)では難しく、大規模な協力が必須の地球環境問題などは困難な課題。 ヒトの繁栄は…

居るのはつらいよ/東畑開人

ケアとセラピーは似て非なるもの。ケアは「傷つけない。ニーズを満たし、支え、依存を引き受ける。そうすることで…平衡を取り戻し、日常を支える」。ケアの必要な人は社会に「いる」のが難しい人たち、従って、ケアラーは「いる」のが難しい人と一緒に「いる…

イノベーション・オブ・ライフ/クレイトン・クリステンセン

御説は至極ごもっともで、本書の理論を自家薬籠中の物として、折々に適用していれば、私も成功したキャリアを歩み、一廉の人物となり得たかもしれない。 家族には恵まれて幸せな人生ではあると思うものの、自らの主体的判断によってそれが得られたという実感…

中継地にて/堀江敏幸

回送電車は11年ぶりで、VIということ。新作が出るのを気にして待っている作家なのに、IVもVも読んでおらず、一体いつの間に出ていたのかと狐につままれた感じ。回送電車とは、評論でもエッセイでも小説でもないような文章の表象なのだが、そもそも著者の文章…

校閲記者も迷う日本語/毎日新聞校閲センター

ネット記事の日本語にうんざりすることが多い中で、新聞の日本語はこういう人に支えられているというべきなのだろう。 校閲記者ですら迷うという言葉遣いや表記の仕方など、違和感を感じる(じゃなくて違和感があるか)と思っても、自分の感覚の方がおかしいの…

経済学の宇宙/岩井克人

著者の研究人生に焦点を当て、その研究内容を俯瞰するオーラルヒストリー。 経済理論は私には難解だが、氏の不均衡動学理論は、長く主流であった超新古典派的な「動学的確率的一般均衡」モデル(現実経済が大恐慌に突入しようがバブルで加熱しようが、それは…

イスラエル/ダニエル・ソカッチ

イスラエル・パレスチナの歴史は、平和共存の合意ができる(できそうになる)と、妥協を拒む原理主義者らが暴力や無神経な挑発によってぶち壊す。暴力はこれに報復する過剰な暴力を生み、事態を悪化させるという繰り返し。 右傾化・強権化を強めるネタニヤフ政…

音楽学への招待/沼野雄司

著者曰く、音楽学は融通無碍。和音とかメロディの分析?みたいなことかと思ったが、全く違ってその言葉からイメージするものよりはるかに幅広い内容を含む。 紹介されるのは、 音楽史学 駄作という定評のワグナーの「アメリカ独立百周年行進曲」の成り立ちと…

テロルの原点/中島岳志

2009年上梓の「朝日平吾の鬱屈」の改訂文庫版。安田財閥の創設者安田善次郎を暗殺した朝日平吾は、自尊心ばかり高く、何事にも他責的で、承認欲求が強い。北一輝の影響下に設計主義的な革新的日本主義を掲げ、「労働ホテル」構想の挫折等から富者に対する恨…

旧約聖書がわかる本/並木浩一・奥泉光

並木浩一元日本旧約学会会長と奥泉光(ICU卒)の対談による旧約聖書の解題。 最後はヨブ記。ヨブは最後、神との対話を経て、(応報原則が当てはまらない)善人にも災厄が降りかかる現実を受け止め、神の責任を問うことをやめて神を全面的に受け入れる。応報原則…

まっとうな政治を求めて/マイケル・ウォルツァー

著者はコミュニタリアン。現在の政治状況における「形容詞としてのリベラル」の重要性を説く。(保守とリベラルというような名詞でなく、)新しいポピュリズムと闘うリベラルな民主主義者、権威主義に反対するリベラルな社会主義者、反ムスリム等排外主義的ナ…

中国の死神/大谷亨

中国の死神「無常」とは、中国民間信仰(仏教・儒教・道教と直接は関係しない)の領域の鬼神であり、死者を鬼界へ導く勾魂使者。様々なバリエーションがあり、ユーモラスな趣もあるのだが、長い舌をダラリと垂らすなどそのビジュアルが強烈で、何やらそれだけ…

私の文学史/町田康

町田康の自分語り。高尚な言葉、建前の言葉と卑俗の言葉、本音の言葉。前者は欺瞞の言葉、後者は公にすると面白くなる。 詩は、わからんけどわかるもの。重大なことを書くと面白くなくなる、 文体は、その人の意思そのものであり(癖ではない)、工夫している…

武器になる哲学/山口周

ビジネスシーンなどでの活用を意識した50の哲学・思想についてのいわば箴言集。▼知らないものや認識を新たにしたものも多く、興味深く読んだ。▼このようなビジネス書が役立つかどうかは結局読者の意識次第で、私にとっては猫に小判であることは分かっていて…

進化的人間考/長谷川眞理子

我が国の進化心理学の第一人者による分かりやすい概説。 昨今は、性差についての研究は、性差別の問題と密接に関連するが故に議論が感情的となり、研究自体も減少しているという。人間の性差について客観的な評価は可能であり、研究者が偏見を持っていたとし…

暇と退屈の倫理学/國分功一郎

人々は豊かになって暇を得たが、文化産業が人々に産業に都合のいい楽しみを提供し、労働者の暇を搾取している。これは人が退屈を嫌うから。なぜ人は暇の中で退屈してしまうのか。暇の中でいかに生きるべきか、退屈とどう向き合うべきか(暇と退屈の倫理学)。 …

ジェンダー格差/牧野百恵

ジェンダー格差についての実証経済学、すなわち統計学を使って因果関係(≠相関関係)を厳密に示すエビデンスを提供する研究を紹介するもの。 因果関係の証明は結構大変で、相関関係を因果関係と見誤ってエビデンスと捉えると政策の方向性を間違えかねない。 男…