HONMEMO

読書備忘録です。

2022-01-01から1年間の記事一覧

昭和天皇の戦争/山田朗

著者によると、宮内庁編纂「昭和天皇実録」は、過度に天皇が平和主義者であるとのイメージを残し、戦争・作戦への積極的な関与については、編纂者が一次資料の存在を確認しているにもかかわらず、そのほとんどが消された。これは、資料批判の観点を十分に有…

レナードの朝/オリヴァー・サックス

嗜眠性脳炎の後遺症としてパーキンソン症候群を発症することがある。その特効薬であるドーパミン前駆体L-DOPAの投与についての臨床研究の記録。 同薬の投与は、パーキンソン症候群の症状を目覚ましく軽減、改善するが、その後、舞踏病、チック、過度の興奮、…

この国のかたちを見つめ直す/加藤陽子

加藤陽子による2010年頃から2021年までの時事評論。 記録を残し、検証可能性を高め、歴史に学んで政策判断に過ちなきを期すことの重要性は、特に現下の情勢ではいくら強調しても足りないだろう。歴史学者からみればなおさらだ。 「先の大戦は、自国のみを利…

山奥ビジネス/藻谷ゆかり

地方の活性化を考える本は、藻谷浩介「里山資本主義」をはじめ、小田切徳美「農山村は消滅しない」、枝廣淳子「地元経済を作り直す」など関心を持って結構読んできた。 本書前半でも取り上げられているような優良事例、先進事例は、いずれも勇気づけられるも…

「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた/グレゴリー・J・グバー

「ネコひねり問題」(=ネコをどんな格好から落としても、ちゃんと足で着地するのはなぜか?)って、生理学のことと思ったが、関係科学の広がりは角運動量保存則(知らなかったが、高校物理で習う?)といった基本物理から、最先端物理学、トポロジーなど果てしな…

さらば欲望/佐伯啓思

リベラルなデモクラシー、グローバルな競争原理、個人の基本的人権等の米国を中心とする西洋的価値や世界秩序構想が破綻。社会主義も破綻したことから、隠れていた「精神的な風土」が表出してくる。ロシアは西洋近代から圧倒的影響を受けつつ「ロシア的なも…

踏み出す一歩は小さくていい/河野理恵

ケニアでアパレル関係で起業した著者の成功譚。爽やかな幸福感を共有できる。著者には成功に至る様々な好条件、環境があったと言えようし、幸運に恵まれたという面もあるだろうが、とにかく踏み出すということ自体が凡人にはなかなかできないというところだ…

読んでない本について堂々と語る方法/ピエール・バイヤール

2007年上梓のベストセラー。 本について語ることは、自分自身について語ることだ。だから、読んでいなくても語ることができる。 大事なのは、作品と自分自身の様々な接点であり、作品のタイトル、「共有図書館」(その本を含むある文化の方向を決定づけている…

書かれる手/堀江敏幸

あとがきで、著者は、要旨次のように言う。 私の関心は、本質に触れそうで触れない漸近線への憧憬を失わない書き手に向けられている。問題は、その憧憬に適切な形を与える能力が欠けていることで、出来上がった文章は「評論」にも「エッセイ」にも「解説」に…

神の方程式/ミチオ・カク

村山斉の「宇宙は何でできているのか」もそうなのだが、わたしがざっくりでいいからこれを人に説明できるかというと、これは全く無理で、分かった気でも分かってはいない。それでもまた似たような本に手を出すだろう。 "真空は単なる無の状態ではなく、実は…

論語と算盤/渋沢栄一

維新後、有為の人は政治家となり、商業に従事する者は下に見られた。武士階級は、論語をはじめいわゆる武士道の教育を受けてきたが、商人はそのような教育はなされなかった。渋沢は、商業の発展に尽くすが、その際、仁義道徳の重要性を説く。その論拠とされ…

わたしのなつかしい一冊/池澤夏樹編

池澤夏樹編の50人による懐かしい本にまつわるエッセイ。掌編集かと思ったら書評・エッセイ集だった。 わたしのなつかしい一冊 作者:池澤 夏樹,小島 慶子,川本 三郎,辛酸 なめ子,山内 マリコ,高村 薫,若松 英輔,小島 ゆかり,瀬浪 貞子,益田 ミリ,養老 孟司,江…

ヘルシンキ 生活の練習/朴沙羅

ヘルシンキに幼児2人を連れて単身移住した著者によるエッセイ。関西弁とは関係なく、文体が好みでないためか、頭に入ってこない。 フィンランド人は、人間の性格や性質について、いいところと悪いところという発想がなく、練習が足りているところと足りてな…

ファクトフルネス/ハンス・ロスリングほか

様々なバイアス、思い込みで、人は多くの事柄について勘違い、間違った理解をしていることが多い。データをもとに事実に基づいて世界をみる必要性を説く。 事実に基づいて世界をみる必要性は十分理解しているつもりだが、それでも私の理解はチンパンジー以下…

空へ/ジョン・クラカワー

難波康子を含む6人の死者を出したエベレストでの遭難事故の同行ジャーナリストによる詳細な記録。盛んになり出した商業的な公募隊の問題点をレポートするという目的があったが、著者は、参加した営業公募隊のメンバーの能力を評価し、資格不十分な者はむしろ…

掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

これは日本文学が得意とする(した?)カギ括弧付きの私小説ではないか。アメリカ文学でこういうのは珍しいのかもしれないなと思う。いやアメリカ文学なんてそんなに読んでいないので分からないけれど。 掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講…

オールドレンズの神のもとで/堀江敏幸

2004年〜2015年頃にかけて、さまざまな求めに応じて発表された小編18編。 「私の場合、執筆の動機はつねに注文であり、言葉の自発性はそのあとからついてくるので、いったん作品ができあがると出発時の負荷がなくなって、なぜこんな書き方をしたのか理解でき…

「歴史の終わり」の後で/フランシス・フクヤマ、マチルデ・ファスティング編

フクヤマの業績を網羅的に取り上げ、対話形式で平易に提示する書。「歴史の終わり」は趣旨は知っていたが未読だったので読むかどうか迷ったが、同書を読まずとも私には本書で十分かな。 ・権威主義的政府を倒すことができても、民主主義的制度を実際に立ち上…

モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語/内田洋子

イタリア北部の山の中の過疎の村モンテレッジオ(現人口32人)は、多くの人が本の行商で生計を立ててきた歴史を持つ。重いし、誰にでも売れるというものでもない「本」を担いで売り歩く?そういう面ももちろんあったのだろうが、基本的には都市に出て露天商と…

パキスタンへ嫁に行く/わだあきこ

著者は写真家。1995年の上梓。 パキスタン北西部、アフガニスタン国境に近いヒンドゥークシ山脈に抱かれた谷に暮らすカラーシャ族の祭りなどその習俗を取材するうちに半分現地で暮らすようになり、現地の人と結婚。 カラーシャ族の人々は、非イスラムで独自…

新冷戦時代の超克/片山杜秀

2018年の口述をもとにした本。 日本にとってのリアルな問題は、憲法より日米同盟。集団的自衛権が解釈でOKになって、憲法改正の必要性は低下。むしろ改憲案が国民投票で否定されたら自衛隊の否定に繋がりかねないという危険な賭け。中国に対しても米国に対し…

映画を早送りで観る人たち/稲田豊史

思いの外まとも(失礼)な本だった。 映画などを早送り、スキップして見る人が増えている。その要因には、定額配信サービスの普及がある。 SNSによる共感強制が、セリフですべてを説明するような「わかりやすい」作品の増加につながっている。 こういう見方を…

ブルシットジョブ/デヴィッド・グレーバー

ブルシットジョブとは、 「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないと感じている。」 ブル…

不思議の国ニッポン/クーリエ・ジャポン編

取り立てて新しい気づきなし。 扱われている記事は2016〜2021年 海外メディアは見た 不思議の国ニッポン 新しい世界 (講談社現代新書) 講談社 Amazon

サイエンス・インポッシブル/ミチオ・カク

SF小説で取り上げられるタイムトラベルやテレパシーなどは実現可能か、を最先端物理学で検証する。その困難さの程度によって、不可能レベル1から3に分類しているのだが、永久機関のような既知の物理法則に反するテクノロジー(レベル3)であっても絶対不可能と…

力なき者たちの力/ヴァーツラフ・ハヴェル

チェコ初代大統領となったハヴェルによるパンフレット。反体制運動「憲章77」の直後、78年の出版。その後も弾圧を受けて、ビロード革命に結実するのは89年だ。 東欧型権威主義的中央集権体制(ポスト全体主義)のイデオロギーに沿った「嘘の生」ではなく、アイ…

道徳教室/高橋秀実

ドイツでは一人一人に考えさせるが、日本の道徳教育は、みんなで考え、決めつけない。これはかつての価値観の押し付けが戦争を引き起こしたという過去の反省によると。 道徳性とは、自分を客観視すること、自分の中にいる第三人称の自分から自分を客観的に見…

アーネスト・サトウの明治日本山岳記

サトウとホーズとの共編著「中央部・北部旅行案内(明治日本旅行案内)」とサトウの「日本旅行日記」から山岳に関する記述を編訳したもの。 前者は実務的で面白みがないが、後者はサトウの目から見た批評(案内人がろくでもないとか)があって、それなりに楽しめ…

事実はなぜ人の意見を変えられないのか/ターリ・シャーロット

人は自分の信念を裏付ける証拠はすぐに受け入れるが、反対の証拠はなかなか受け入れようとしない(確証バイアス)。したがって、反対の意見を持つ人を説得しようとするときは、間違っているという証拠を突きつけるのではなく、共通点に基づいて話をするのが効…

無月の譜/松浦寿輝

著者らしらかぬ、というのも変な言い方だが、リーダビリティの高いエンタメど真ん中の分かりやすい小説。 奨励会で挫折した主人公の大叔父は、駒師としての志半ばにしてシンガポールで戦死。主人公は、大叔父「玄火」作の「無月」の駒が残されていないかを追…