チェコ初代大統領となったハヴェルによるパンフレット。反体制運動「憲章77」の直後、78年の出版。その後も弾圧を受けて、ビロード革命に結実するのは89年だ。
東欧型権威主義的中央集権体制(ポスト全体主義)のイデオロギーに沿った「嘘の生」ではなく、アイデンティティ、尊厳、自由を実現する「真実の生」を具体化することを支援することが反体制(ディシデント)の基盤であるとする。本書は急進的に体制の転覆を図るために人々を扇動するような反体制パンフレットとは一線を画し、暴力による政治的な転換を否定。これは、それが問題の解決にならない(急進的でない)からだと。
深い思索のもとに練られた文章で、ビロード革命の思想的支柱となったものと思われるが、その実現に10年、ベルリンの壁崩壊という状況の流動化を待たねばならなかったというのはなかなかきつい(プラハの春からなら20年だ)。
とまれ、西側民主主義を目指すことも目標ではなく、それよりも政治的な関心を具体的な人間に向けることがはるかに深遠なことだという認識(いかなる野党も、新しい選挙法もまた新しい暴力の犠牲にならないと保証することはできない)が、革命後の安定をもたらしたのではないか。
1984年冬、観光で1日だけプラハに立ち寄ったが、その街の人々のどんより暗い雰囲気は今も印象に残っている。今やプラハは観光名所として名を馳せているようで、是非再訪したい。