HONMEMO

読書備忘録です。

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

権現の踊り子/町田康

99年から03年に発表された短編をまとめたもの。川端康成文学賞受賞*1の表題作のほか、「鶴の壺」「矢細君のストーン」「工夫の減さん」「ふくみ笑い」「逆水戸」。 ドツボへドツボへとはまっていくのですね…。 この短篇の続きかとまごう玄侑宗久の解説も楽し…

中国列女伝/村松暎

「烈女」伝かと思ったら、列女伝ということで、中国の史書などにでてくる女性を「貞女」「孝女」「妬婦」「母の権勢」「傾国の美女」「金瓶梅と紅楼夢」「三人の女傑」という章立てにして紹介するもの。 日本の武家社会においても、山川菊栄「武家の女性」な…

利休にたずねよ/山本兼一

端正な。史実から空想を膨らませる優れた歴史小説の典型のような小説。 利休が秀吉に見せることも拒む「緑釉の香合」の印象的なラスト…直木賞選考に当たって何人かの選考委員が言及している。→直木賞受賞 利休にたずねよ (PHP文芸文庫)作者: 山本兼一出版社/…

そうか、もう君はいないのか/城山三郎

先に逝った妻との日々を綴ったエッセイ。著者の死後発表されたもの。娘さんによる城山三郎死去までの氏の様子を綴った文章もまた涙を誘う。 解説は児玉清。氏も鬼籍に入った。 そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)作者: 城山三郎出版社/メーカー: 新潮社…

悼む人/天童荒太

主人公静人は、死者を「悼む人」(悼むというのは、死者が愛し、愛されたこと、感謝されたことをいつまでも忘れないこと)なのだが、彼が悼む人は、家族とか本人と何らかの関係のあった人に限らない。「死者」の方からみると、全く関係のない知らない人に悼ま…

源平合戦の虚像を剥ぐ/川合康

歴史は、権力者となった勝者の側からの正統化という作用を免れず、客観的な歴史というものはありえない。治承・寿永の内乱(源平合戦)については、平家物語が大きな影響力を持ち、勝者源氏から見た歴史(平家物語史観)になっている。そもそも治承・寿永の内…

地獄の季節/ランボオ

小林秀雄訳。1938年初版。 悲しい哉、私には、良さが全くわからない。 地獄の季節 (岩波文庫)作者: ランボオ,J.N.A. Rimbaud,小林秀雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1970/09メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 36回この商品を含むブログ (57件) を見る

月のしずく/浅田次郎

96〜97年、鉄道員と前後して書かれた人情もの短編集。 表題作月のしずく 辰夫 聖夜の肖像 純一郎 銀色の雨 章次 琉璃想 西岡 花や今宵 芳男 ふくちゃんのジャック・ナイフ ふくちゃん ピエタ ミスター・リー それぞれ、まあドラマでしかちょっとお目にかかれ…

鉄塔家族/佐伯一麦

アスベストによる喘息、鬱病として時に現れる自身の幼少期のトラウマ、神経症的な前妻との間の子供の家出などの厄介ごとを抱えつつも、草花を愛で鳥の声に聞き入り、暖かい隣人に囲まれて穏やかに暮らす。そんな私小説。 鉄塔家族 上 (朝日文庫 さ 32-2)作者…

帝王学―「貞観政要」の読み方/山本七平

帝王学なんて私になんかは必要ないのだが、貞観政要(唐の太宗の治世(貞観の治)について後代にまとめられたもの)というのと山本七平というので、読んでみた。 現代で最も大きな権力を握っているのは「大衆」かも知れない。(…)「大衆=帝王」となったら…

ブラフマンの埋葬/小川洋子

奥泉光の解説以上に言うところなし。 ブラフマンは、子犬のようでありながら、水掻きを使って水へ深く潜水したりする生き物であり、全編に漂う不可思議な雰囲気の中核をなすのだけれど、それ以上に、名前のない人間たちこそ(…)謎めいている。誰より、主人公…

絵はがきにされた少年/藤原章生

「ハゲワシと少女」でピュリッツァー賞を受賞したカメラマンの自殺、ルワンダの虐殺についての取材などサブサハラ、南アでの人物取材によるノンフィクション。ただ、著者の感じたことや考え方を述べるウェイトが高く、ノンフィクションというよりはエッセイ…

サクリファイス/近藤史恵

ちょいとネタばれ注意。 自転車ロードレースでは、チームのエースの勝利という観点から自己犠牲を求められる「アシスト」と呼ばれるポジションがある(主人公白石はこのポジション)。一方、レースに仕組まれた陰謀に、自己犠牲の精神を発揮するのは、「エー…

丸谷才一死去

文壇の重鎮死す(13日)。 丸谷才一は、「笹まくら」より「たった一人の反乱」が好きだったようだ。 ぼくの小説は前の長編に対する自己批評から始まる。『たった一人の反乱』の6年前に発表した長編『笹(ささ)まくら』は、徴兵忌避者だった大学職員による逃…

夢よりも深い覚醒へ/大澤真幸

副題は、3・11後の哲学。 原発の問題は、倫理上の最も難しい問題であるソフィーの選択ではなく、子供か金かを選ぶ「偽ソフィーの選択」の問題であり、簡単に脱原発という結論の導ける問題にみえる。しかし、そのように簡単な問題となっていないのは、その…

東京震災記/田山花袋

関東大震災直後の田山花袋のエッセイ、ルポ。もうひとつピンとこない。安政の大地震の経験がすっかり忘れられているという話が深められることはなく、遷都論に話が飛んでしまう。今日また墨田区など危険地域だという報道があったけれど、地権の問題もあって…

イワン・デニーソヴィチの一日/ソルジェニーツィン

シベリア収容所での一日を体験に基づいて淡々と描いている。 日本人のシベリア抑留について 収容所(ラーゲリ)から来た遺書/辺見じゅん 不毛地帯/山崎豊子 夢顔さんによろしく/西木正明 といった本を読んだ後では、なんだかあまりに淡々としていて、明るささ…

ガラスの動物園/テネシー・ウィリアムズ

訳者小田島雄志が解説で書いているように、「ウィンフィールド一家が家族としていわば普遍性をおびている」「家族というものが、外なる現実社会にたいしてはおたがいに寄りそうと同時に、家族内部においてはそれぞれが究極的には孤独であることを思い当たら…

街の灯/北村薫

とんでもなく久しぶりに北村薫。ベッキーさんシリーズの第1作。「虚栄の市」「銀座八丁」そして表題作3編の連作短編。昭和初期の上流階級の風俗が楽しい。 何が謎って、ベッキーさんが魅力的ななぞだわな。 街の灯 (文春文庫)作者: 北村薫出版社/メーカー: …

日本農業への正しい絶望法/神門善久

農地制度に大きな問題があるということ、現在の有機・ブランド信仰のまやかしについての指摘など、なるほどというべきところはあるけれど、比較的小規模な技能集約型農業を褒めちぎる一方で、大宗を占める「マニュアル依存型」というレッテルを貼られた農業…

でっちあげ/福田ますみ

副題は、福岡「殺人教師事件」の真相。モンスター・ペアレントとマスコミによって体罰・いじめ教師に仕立て上げられた教師についてのノンフィクション。ここでとりあげられるマスコミの態度は、心底吐き気をもよおすものだが、これは、本件に特異的なもので…

吉原手引草/松井今朝子

花魁葛城の失踪の謎について、関係者が逐次語っていくという有吉佐和子「悪女について」のようなスタイルの小説。その語りは、淀みなく、落語を聞いているかのように楽しいものではあるけれど、「悪女について」のような、語り手によって対象の印象が大きく…

神谷美恵子日記/神谷美恵子

「生きがいについて」を読んで、著者の日記も読みたいと思ってから何年になるか。 「生きがいについて」を書く人は、このように意志強く自らを奮い立たせる人であり、家族を思う人であるのだなと。心の持ち方の次元が違う。ただただ感じ入るのみ。 神谷美恵…