HONMEMO

読書備忘録です。

2024-01-01から1年間の記事一覧

おみくじの歴史/平野多恵

おみくじを引いて絶対に読まないところが、吉凶の下にある和歌や漢詩だが、和歌は、託宣歌に由来、漢詩は元三大師(良源)信仰に由来するもので、読み飛ばされるこちらがいわば本家。吉凶と異なり様々な解釈を許すところがある。またその意味を理解することは…

狂人たちの世界一周/ピーター・ニコルス

1968年、初めての単独無寄港世界一周ヨットレース。半世紀前の通信や位置情報技術では、ヨットとのコミュニケーションや位置の確認もままならない。 9人の参加者の経験、技量や参加の目的、ヨットの性能もさまざま。ヨット製作、調達や出航準備からして個性…

グリーン戦争/上野貴弘

パリ協定成立後の気候変動をめぐる国際的交渉過程を背景や周辺状況も含めて詳細に描く(私には詳細に過ぎるほど)。各国それぞれ国内事情を抱え、温度目標や削減方法について合意をすることは容易でなく、その中で少しでも前に進めようとしていることは理解で…

本の読み方/平野啓一郎

副題はスロー・リーディングの実践。 豊かな読書となるための方法論を指南するのもの。温泉宿の図書室で手に取って、読みきれなかったので図書館で借りて読む。 図書館近くに越してきて以来、めっきり本を買わなくなり、本に線を引いて読むことができない。…

なぜ重力は存在するのか/野村泰紀

ニュートン力学から量子論、そして量子論と一般相対性理論の統合の理論までを一般向けに分かりやすく説明する。 村山斉とかミチオ・カクとか、同様の領域を説明する書を何冊も手にしてしまうのは、完全には理解できないにしても、知の最前線に触れることが楽…

実験の民主主義/宇野重規

私たちが政治的意志を示すことができるのは一つの民意により選挙を通じて国会(立法権)を動かす場面だけではない。 トクヴィルが見出したアソシエーション(政府に依存せず、個人が協力して課題を解決していく習慣)は、テクノロジーの発展もあって、執行権に日…

人口減少時代の再開発/NHK取材班

NHKスペシャルの取材をもとにまとめられたもの。 私たちはもはや目先の経済性を優先した場当たり的な再開発の傍観者ではいられない。人口減少を認めた上で、都市の持続可能性、すなわち未来の世代のためにどのような街を引き継ぐべきかをまちづくりの最優先…

建築思想図鑑/松田達・横手義洋・林要次・川勝真一編

有史以来の建築思想をイラストを活用しながら総覧しようとする本。広く薄くを目指す本なので仕方がないのだが、建築素人にはもう少し重要な思想に絞って深掘りして説明したものの方がありがたかった。 建築思想図鑑 作者:松田 達,横手 義洋,林 要次,川勝 真…

漢字と日本人/高島俊男

日本語は、抽象的概念を表す言葉を持たないうちに漢語が流入したため、日本人の生活の中から生まれ、またそれらを指す言葉をうむ可能性が断たれた。 江戸時代までの和製漢語は、聞いて紛れがないが、漢字の意味から言葉の意味を推察できない(野暮、世話など)…

国家はなぜ衰退するのか/ダロン・アセモグル ジェイムズ・A・ロビンソン

国の繁栄と貧困を決定するのは、地理的、文化的な要因によるものでも、知識の有無によるものでもなく、その国の制度が収奪的であるか、包括的であるかによるということを、様々な国の歴史をたどりつつ検証する。先に読んだガロー「格差の起源」は、制度要因…

母の最終講義/最小葉月

テレビばかり見ていると認知症リスクが高まるという大規模コホート研究を紹介した上で、一旦認知症になって施設ひ入るとそこではテレビが重宝されるが、認知症患者向けの番組はない。テレビと脳科学者と介護福祉士とのコラボで、認知症患者がニコニコ気持ち…

21世紀未来圏日本再生の構想/寺島実郎

世界は大国主導の極構造ではなく、全員参加型秩序へと向かう。その中で日本は同盟外交への依存を脱却し、多面的危機を視界に入れた多次元外交を展開すべき。多次元外交では交渉による落とし所を探るというより、主張の正当性、理念が重要になる(日本は非核平…

東京高級住宅地探訪/三浦展

取り上げられるのは、田園調布、成城、山王、洗足、奥沢、桜新町、荻窪、常盤台など。 デベロッパーの構想、住人の属性などによって街の性格やイメージが異なってくる。ターゲットは「中流階級」といっても当初からかなりの高所得層。 じめじめした下町から…

格差の起源/オデッド・ガロー

国家の繁栄の格差の原因の4分の1は、社会の多様性に起因する。同様に地理と気候の特性が5分の2、病気の蔓延しやすさが7分の1、民族や文化の要因が5分の1、政治制度で説明できるのが10分の1であるという。多様性は高ければ高いほど繁栄するということではなく…

入門山頭火/町田康

町田康による山頭火の文芸評論・評伝。山頭火に見る「人間のどうしようもなさ」を我が事のように感じるという町田康だからこその、真に迫る最良の山頭火評ではないだろうか。「山頭火の句は、完成した三昧境から生まれる神韻縹渺とした句ではなく、重い荷物…

天才たちの未来予測図/成田悠輔・斎藤幸平・小島武仁・内田舞

「22世紀の民主主義」「人新世の「資本論」」「ソーシャル・ジャスティス」という話題の新書3冊のさわりを著者本人がちきんと説明するものとなっているので、一冊で3度美味しいお得な本。私のように3冊とも読んでいる人は小島氏の著作を読んだ方がいいかもし…

陥穽/辻原登

辻原登による陸奥宗光半生の評伝。 陸奥宗光といえば不平等条約改正に尽力し、日清戦争の開戦指導をした外務大臣(伊藤博文は消極的だったが陸奥は積極的だった。また三国干渉の受入れを主張)だが、その活躍については最後に触れられる程度で、それ以前、政府…

戦争はいかに終結したか/千々和泰明

戦争は、「将来の危険」と「現在の犠牲」とのトレードオフにより、紛争原因の根本的解決と妥協的和平の間のどこかで終結する。為政者はこれらを散々考慮して出口を探るのだが、将来の危険を正しく見通すことは難しく、また政治状況は変数が多いから、その相…

火の誓い/河井寛次郎

民芸の主導者の一人河井寛次郎のエッセイ。美の感動は、結果としての製品ではなく、直接には物とは縁遠い背後のものからもたらされるものだと。冒頭の短い文章では、南山城の部落(集落)の家や道、田圃などそれぞれの、またその総体の美しさに感動し、「化物…

オッサンの壁/佐藤千矢子

記者というある種特殊な職で活躍する女性の困難がよくわかる。女性であることによる困難はもちろんなのだが、記者という職場環境の制約の問題もある。(本書の話とはずれるが)著者は昨日も自民党総裁選の報道番組に出ていたが、日本の報道はこの手の政局にま…

首相官邸の2800日/長谷川榮一

内閣広報官、首相補佐官として見た安倍政権、内閣広報の実際。効果的な広報のあり方、マスメディアとの向き合い方にいろいろと腐心していたことがわかる。質問が尽きるまで会見に応じよというようなマスコミの傲慢なありようを辟易として見ている者としては…

地球の履歴書/大河内直彦

この分野の本はあまり読んだことがなかったので、興味深く読む。 ・南極大陸の分厚い氷の下には百を超える湖がある。 •.ゆっくりした海面上昇が19世紀半ば以降続いており、海面は明治維新の頃から25センチも高くなっている。 ・600万年前ジブラルタル海峡が…

宿帳が語る昭和100年/山崎まゆみ

民放旅番組がお好きな方向け。名のある客と特別な縁故ができることが自慢に思えるおかみとか、著名人が泊まったというだけでその部屋に泊まりたいと思う一般客とか、そんな人たちの心情がよくわからないひねくれ者には向かない。なんでこの本を借り出したの…

時間は存在しない/カルロ・ロヴェッリ

時間は存在しないー何もかもが相対的で、不確定、揺らぎ、ぼやける量子の世界の話は、それが現実だと説かれて、混乱し、不安になり、感情的になる。もっと理性を。だが理性で「理解する」ということも曖昧で…。 冒頭の詩的な文章で引き込まれる。そもそも物…

作家の珈琲/コロナ・ブックス編集部

作家と珈琲という平凡社編のものも読んだが、こちらは全編カラーで贅沢な作り。カバーを飾るのは松本清張。作家の珈琲との付き合い方はそれこそ様々だが、スノッブのイメージの対極にある人を取り上げるのがいいのかもしれない。コーヒーショップ、喫茶店の…

「反・東大」の思想史/尾原宏之

単なる日本の大学史又は大学関係論?みたいな内容。「反・東大」などというのは、やはり思想になどならない。 「反・東大」の思想史(新潮選書) 作者:尾原宏之 新潮社 Amazon

さらば、男性政治/三浦まり

女性議員の増加のためには制度改革が必要だが、それを決定する国会に女性が少ないために制度改革が進まないというジレンマがある。 ジェンダー平等のためにはクォータ制導入の有効性は明らかだが、抵抗が強い。このため、公職選挙法改正を必要とせず、全党で…

訂正可能性の哲学/東浩紀

政治が目指すべき公共性は、訂正可能性の場としても構想されなければならない。政治の理想は、過去をリセットするのではなく、過去の不条理をある程度許容しつつ同時に常に訂正可能性に開いていくような、持続的な運動を経由して実現されるほかない。 落合陽…

ぼっちな食卓/岩村暢子

「共食」の価値は、家族が揃ってワイワイ食べる食卓コミュニケーションもさることながら、食事を自分以外の人の好みや体調を気にかけて用意したり、他の人に合わせて好みでないものを食べることで、意図しないうちに個々の健康に寄与することにある。それが…

ノイエ・ハイマート/池澤夏樹

ホムス(シリア)からストックホルムへの難民行取材をモチーフとした連作の合間に、満州からの引き揚げ、コソボ紛争、パスポートを持たないレバノンのスナイパーの日本での生活などの短編や詩が織り込まれる企みのある構造。 小説はさっぱり読まなくなったが、…