HONMEMO

読書備忘録です。

中継地にて/堀江敏幸

回送電車は11年ぶりで、VIということ。新作が出るのを気にして待っている作家なのに、IVもVも読んでおらず、一体いつの間に出ていたのかと狐につままれた感じ。回送電車とは、評論でもエッセイでも小説でもないような文章の表象なのだが、そもそも著者の文章は、回送電車と銘打たれていなくてもそのような文章が多いから、久しぶりという感じもしない。

口数と口吸う、喜久井町と木喰虫、鱧の皮と刃物川、お文とお踏、自転車と次点者といった言葉の音や文字からイメージがホップしてずれていくような心なごむ小文を集める(I)は「なごみ」という裏千家の月刊誌(?)の連載。(II)は作家あるいは文芸作品をきっかけとしたもの。ここの冒頭に置かれた資生堂のPR誌に掲載された「春の中に春はない」という見開き2ページほどの小文の美しさ、豊かさはどうだろう。コーヒーが3倍美味しくなる。(IV)は追悼文。(III)はなんだろう。いずれにしても章立てにあまり意味はないのだろうが。