HONMEMO

読書備忘録です。

2013-01-01から1年間の記事一覧

今年の読書まとめ

読書メーターによると、今年読んだ本は、166(1日平均0.46)、ページ数は55705(1日平均153) で、ほぼ昨年並みだが、私としては非常に多い読書量。 小説はあまり読まなくなり、HONZなどを参考にノンフィクション系を多く読んだ年になった。 印象に残った本は、 …

ピダハン/ダニエル・L・エヴェレット

アマゾン奥地の少数民族ピダハンの人びとは、よく笑い、あまり働かず、性的に大らかで、将来のことを思い煩わず(「心配する」という語彙もない。)、精霊と一緒に暮らしていて、充足しているから他の世界に関心が薄い。また、(同時代に生きる誰かが)直接…

マザコン/角田光代

表題作のほか7編の母と子の関係にまつわる短編集。 斎藤環の解説から↓ 母の謎に触れることは、まるで冷水を浴びせかけられるような体験です。しかし、そのような体験を通じて母に「一人の不完全な女」を見るとき、私たちは支配からの解放と一抹の寂しさを知…

色好みの構造/中村真一郎

「色好み」の理念とその変遷を平安朝文学を通じて探る。 光源氏の色好みは、現代人からみれば色情狂だが、源氏物語は、当時、空想の物語ではなく、風俗小説すなわち実生活の反映としてよまれた。むしろ、一人の女に一途に忠実な恋心を抱く男は、一種の病人、…

俺俺/星野智幸

ネタバレ。 俺は、オレオレ詐欺を働いたことをきっかけに他人の息子と間違われ、一方、自分の実家には、俺がいた・・・。俺は、次第に増殖し、なんでも分かり合える感覚を共有するコミュニティを形成するが、周り中が俺となるに及んで、相互に「削除」を始め…

残響/保坂和志

表題作のほかに「コーリング」を併録。どちらも、何人かの主体の物語のコラージュのような感じ。本作の創作ノートによれば、シークエンスの連鎖(コーリング)あるいはゆるやかなイメージの横滑り(残響) 。著者にとって愛着のある作品のようだ。残響 (中公文庫…

乃木希典/福田和也

戦後乃木希典については、司馬遼太郎の「坂の上の雲」の大きな影響力もあって、ストイシズムへの嫌悪、軍事的無能という評価が定着した。 一方、福田氏は、乃木将軍は、有徳な人間になり切ろうとした人物として、高く評価する。 誠実であること。清廉である…

僕がメディアで伝えたいこと/堀潤

元NHKアナウンサーの著者がNHKでの経験なども踏まえながら、メディアについて考えていることを記したエッセイ。 NHKという組織を半ば追われるように去っても、そのような既存メディアを全否定するような短絡に走らず、市民のためのメディアということを真剣…

アメリカ型ポピュリズムの恐怖/齋藤淳

副題は、「トヨタたたき」はなぜ起きたか。 2009年のレクサス急加速事故を端緒とする激しいバッシングの背景には、 扇動的な報道と苦情増加の負のスパイラル 魔女狩り的公聴会という政治ショー GMの破綻、トヨタの売れすぎでアメリカのプライドを傷つけた? …

世界史/ウィリアム・H・マクニール

人類史をコンパクトにまとめている。教科書だと出来事、キーワードをなるべく盛り込もうとするためか、なぜそうなったのかがわかりにくいといううらみなしとしないが、本書はむしろそういうところに重点があるので、教科書と併せて読むといいだろう。世界史 …

神奈川県謎解き散歩/小市和雄

神奈川の歴史・地理・文化の小ネタを集めたものだが、編集が安直・粗雑なためか、つまらない。神奈川県 謎解き散歩 (新人物往来社文庫)作者: 小市和雄出版社/メーカー: 新人物往来社発売日: 2011/07/08メディア: 文庫 クリック: 20回この商品を含むブログを…

完全なる証明/マーシャ・ガッセン

世紀の難問ポアンカレ予想を証明したペレルマンは、フィールズ賞の受賞を拒否、クレイ研究所の100万ドルの賞金も拒絶し、数学研究からも離れて隠遁してしまう。 証明に対する賞賛以外の、カネ、名声、取材騒ぎのような俗事に耐えられず、もともとあまりなか…

日輪の賦/澤田瞳子

既得権益を守ろうとする豪族たちに抗して、律令制による中央集権を進めようとする讃良大王(持統天皇)の朝廷の動きをダイナミックに描く。 狂言回しの大舎人廣手、讃良の懐刀で少年のような美少女忍裳という架空の人物が大活躍する活劇でもあるのだが、これが…

日本の宿命/佐伯啓思

日本の戦後、近代化過程を論じる後半より、民主主義、政治過程に関する第3章までが面白い。 第1章「橋下現象」のイヤな感じの概略をメモ 民主主義には、議会制や政党政治、官僚制などと調和しつつ政治をすすめるという間接的で抑制的な民主政治と、国民の意…

古池に蛙は飛び込んだか/長谷川櫂

古池の句は、「古池に蛙が飛び込んで水の音がした」という写生の句ではなく、芭蕉は、蛙が水に飛び込む音を聞いて、心の空間に浮かぶ古池を目の当たりにした。この心の世界が開けたことが、蕉風開眼の句と言われるゆえんだと。俳句はやはりなかなか深い。古…

掏摸/中村文則

著者の親切な解説によれば、残酷な運命の中で生きる個人の抵抗を描いた物語。 掏摸のディテールがリアル。縫い付けられたポケットの中から封筒を(2日以上気どられないように)スリ取るシーンなど、すごくスリリング。 大江健三郎賞。掏摸(スリ) (河出文庫)作…

妻と飛んだ特攻兵/豊田正義

昭和20年8月「19日」に、「満州でソ連に対して」、「妻と一緒に」特攻したという信じられないような事実。 関係者が亡くなっていることや夫婦間の心情などはいずれにしても想像するしかないことなどもあって、肝心な部分の厚みに欠けるという印象をもつ。一…

キレイゴトぬきの農業論/久松達央

著者は、茨城県で脱サラして野菜を有機農法で栽培しているが、有機農法を採用しているのは、有機農業が「安全」「美味しい」「環境にいい」というのはウソ(神話)であると認識した上で、有機農法が栽培時期(旬)、品種、鮮度という「野菜の美味しさの三要素」…

日本農業の真実/生源寺眞一

著者は政府の審議会委員なども務める学者。 自給率、担い手、生産調整などについて、その問題点、経緯、あるべき方向をわかりやすく解説している。手軽な基本書と言えるのでは? 著者の基本的な考え方が表れている部分を少しだけ抜粋。 逆走、迷走の農政から…

亡国農政の終焉/山下一仁

著者は元農水省キャリア官僚。農政批判の中心は、農水省、農協、族議員という農政トライアングルが農業者、消費者のためであるべき農政を歪めてきたという点にある。 そして民主党農政が農協を退出させた後の農政大転換に期待している。著者の提案は、ウルグ…

日本は世界5位の農業大国/浅川芳裕

生産調整の廃止など農業がいろいろ話題になっているので、ブックオフで新書を何冊か買ってみた。そのうちの1冊。 本書は、農水省を叩いて溜飲を下げたいという人以外にはおすすめできない。バイアスがかかり過ぎていて、部分的になるほどと思うような指摘も…

見上げれば星は天に満ちて/浅田次郎編

浅田次郎編集の短編アンソロジー。不穏なタイトルのものが並んでいる。 百物語/森鴎外 秘密/谷崎潤一郎 疑惑/芥川龍之介 死体紹介人/川端康成 山月記、狐憑/中島敦 ひとごろし/山本周五郎 青梅雨/永井龍男 補陀落渡海記/井上靖 西郷札/松本清張 赤い駱駝/梅…

パルモア病院日記/中平邦彦

なお新生児死亡率の高い時代に周産期医療の重要性を説き、これを実践するためパルモア病院を開設した院長三宅廉氏の奮闘記。そのバイタリティは、本書でも言及される日野原重明氏に勝るとも劣らない。 本書を手にしたのはHONZで言及があったからだが、たまた…

鳥類学者無謀にも恐竜を語る/川上和人

恐竜は絶滅しているだけに、その色は?声は?歩き方は?など基本的なことも最終的には想像するしかないようなところがあるが、そのようなことを鳥類との緊密な類縁関係をもとにして考察する。 内容も興味深いが、ぶっ飛んだユーモアあふれる筆致が最高。図書…

存在の耐えられない軽さ/ミラン・クンデラ

もし永劫回帰が最大の重荷であるとすれば、われわれの人生というものはその状況の下では素晴らしい軽さとして現われうるのである。 だが重さは本当に恐ろしいことで、軽さは素晴らしいことであろうか? 名作として知られているが、はっきりいってもう一つよ…

耳そぎ饅頭/町田康

うくく。耳そぎ饅頭 (講談社文庫)作者: 町田康出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/01/14メディア: 文庫 クリック: 6回この商品を含むブログ (58件) を見る

全国アホ・バカ分布考/松本修

著者は探偵ナイトスクープのプロデューサー。番組での取材をきっかけにアホ•バカ表現の分布や語源を調べていく。結論は柳田國男の方言周圏論を支持する興味深いもの。全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路 (新潮文庫)作者: 松本修出版社/メーカー: 新…

アマン伝説/山口由美

アマンリゾーツを紹介する旅行案内本ではなく、また、創業者エイドリアン•ゼッカの伝記を超えて、リゾート•ビジネスの動向を追う意図は分かるが、対象を広げたせいで、散漫になった印象。アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命作者: 山口由美…

からくり民主主義/高橋秀実

原発、沖縄、諫干、上九一色など、世論とか一般的な理解、イメージというのは結構いい加減で、現場は簡単には語れない複雑なものなんだと。大事な視点。 解説は村上春樹。からくり民主主義 (新潮文庫)作者: 高橋秀実出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2009/11/…

古代から来た未来人折口信夫/中沢新一

中沢新一による折口信夫入門。事前に本書を読んでいたら、難解な死者の書も少しは理解できていたかも。古代から来た未来人 折口信夫 (ちくまプリマー新書)作者: 中沢新一出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/05メディア: 新書購入: 3人 クリック: 17回こ…