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読書備忘録です。

乃木希典/福田和也

 戦後乃木希典については、司馬遼太郎の「坂の上の雲」の大きな影響力もあって、ストイシズムへの嫌悪、軍事的無能という評価が定着した。
 一方、福田氏は、乃木将軍は、有徳な人間になり切ろうとした人物として、高く評価する。

 誠実であること。清廉であること。質素であること。勇敢であること。
 こうした旧時代の徳目を、利得が主導する近代社会のなかで貫徹しようとすれば、滑稽というよりはむしろグロテスクと呼ばざるを得ないような葛藤を、世間との間に生じてしまう。(中略)だが、乃木は、そのグロテスクな紛糾から、美しい影絵を映じてみせた。濃厚な死の匂いのなかで。

 児玉源太郎のように「有能な」人は多い。しかし、いまや乃木のような「立派な」人は払底してしまったと著者は嘆く。

乃木希典 (文春文庫)

乃木希典 (文春文庫)