HONMEMO

読書備忘録です。

2013-01-01から1年間の記事一覧

茜色の空/辻井喬

大平正芳元首相の生涯についてのノンフィクション・ノベル。 アー・ウー宰相などと言われ、大して能力もないのに派閥順送りで総理にまでなったというイメージがあり、40日間抗争なんてのもあって、自民党派閥政治のなれの果てにこんな人か、菅直人がんばれと…

トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所/中田整一

第二次大戦中米国カリフォルニア州に設けられた日本人捕虜尋問所とそれにかかわる日米の関係者を巡るノンフィクション。 日本人捕虜は、「生きて虜囚の辱めを受けず」との戦陣訓から捕虜となった場合の身の処し方についての指導は行われなかった。そのことも…

30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと/ 宇佐美典也

官僚制度にいろいろ問題があるにせよ、優秀な人材が外資系金融機関を志向する一方で、若手官僚が官僚バッシングの中で辞めていくという実態は歪んでいる。官僚制度は冷静にきちんと検証する必要があるのではないだろうか。30歳キャリア官僚が最後にどうして…

田中清玄自伝/田中清玄・大須賀瑞夫

戦前東京帝大を出て、武装共産党の指導的地位にあり*1、獄中転向後は、天皇主義者・右翼大物として、石油取引や鄧小平とのパイプなどを通じた日中関係などさまざまな政治的・経済的な場面で暗躍した人のようだ。 天皇中心主義のほか、米国依存からの脱却、ア…

ロング・グッドバイ/矢作俊彦

ロング・グッドバイのあとにロング・グッドバイ。LでなくてRだけれど。 物語として(ハードボイルド作品として)独特の雰囲気がある。横浜、横須賀という地域を背景に米軍や中国系の存在感が、戦後日本、ベトナム戦争をひきずってリアル。 THE WRONG GOODBYE…

ロング・グッドバイ/レイモンド・チャンドラー

20年以上前に読んで以来の再読。村上春樹訳で。 訳者あとがきの文学論はなかなかに難しくて十分には理解できないのだけれど、(ハードボイルドの古典ということを越えて)村上春樹が(純)文学の準古典として評価するところが、本書のぞくぞくするような面白…

アイロンと朝の詩人/堀江敏幸

様々な媒体に発表された小文をまとめた回送電車シリーズの3冊目。回送電車Ⅱはまだ読んでいない。 表題作はバイロンと関係があるのかと思ったが、そうではなくて、アイロンに関係するフランス語から派生するユーモラスな妄想。 「大学の送迎バスに乗り遅れた…

ルワンダ中央銀行総裁日記/服部正也

1965年から71年にかけて、独立後間もないルワンダの中央銀行総裁を務めた日本人の記録。 著者は、中央銀行総裁の本来の責務たる平価切下げと二重為替制度の廃止のみならず、大統領からの信任を得て包括的な経済対策を立案し、現地の、特にルワンダ人の声をよ…

「レ・ミゼラブル」百六景/鹿島茂

レ・ミゼラブルは読まれざる名作だという。私も中学の時に旺文社文庫の縮約版で読んで、フランス革命といった社会情勢などについての詳細な記述が省略されていることは知っていたけれど、それで可とし、読んだ気になっている。 本書は、230の挿絵に内容の要…

首相官邸で働いて初めてわかったこと/下村健一

著者は、元TBSアナウンサーで、菅直人元首相の要請で官邸に入り、広報担当の審議官として働いた。その経験を踏まえて考えたことを語りかけるような飾らない文体で綴っている。 「お任せ民主主義」からの脱却 市民の側も、自分たちが選んだ政治家を支える意識…

つぶやき岩の秘密/新田次郎

なつかしいNHKの同名ドラマの原作者は、なんと新田次郎だったんだ。もうドラマの内容はすっかり忘れていたけれど、中島京子の解説によれば、NHK少年ドラマシリーズ屈指の名作と言われているらしい。「新潮少年文庫」の一冊として書き下ろされたものというこ…

「上から目線」の時代/冷泉彰彦

「上から目線」が問題とされる時代になったとか、価値観の多様化、困難な時代の中で会話のテンプレートが失われたとか、日本語の構造と上から目線の関係とか、私にはなんだか論旨がもう一つストンと了解されなくて、なんだか。 「上から目線」の時代 (講談社…

慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り/坪内祐三

夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斎藤緑雨*1の7人は慶応3年生まれ(翌年が明治元年)。豪華メンバーの歩みを、時代背景と共に描く。面白すぎ。日清戦争直前までで終わったのが残念。 子規の新聞小説「一日物語」の謎の女は、…

アーロン収容所/会田雄次

1962年初版のロングセラー。 ビルマ南部で終戦を迎え、英国軍の捕虜として収容所で2年にわたり強制労働の日々を送った記録。 イギリス人は士官と兵とで階級社会を反映した大きな違いが見られ、また、日本人を家畜同様にみている。いかな捕虜であるとはいえ、…

零戦/堀越二郎

1970年に書かれたものを「風立ちぬ」公開に合わせて復刊・文庫化したもの。 技術開発は、厳しい現実的な条件の中で、既成の考え方を打ち破る発想で、当然に考えられるぎりぎりの成果をどうやって一歩抜くかを考えることであり、零戦ほどそのような考え方が象…

世界を知る力 日本創生編/寺島実郎

3・11直後に書かれた「世界を知る力」の続編。親鸞の他力本願とは、3・11のような圧倒的現実に直面し人間の無力を自覚してはじめて腑に落ちるものであり、また自力でとことん努力を積み上げたうえで了解されるもの。今や痛烈な反省の意識をもって近代主義、…

私の嫌いな10の人びと/中島義道

醜い日本の私でもうるさい日本の私でも本書でも氏の思想は変わらない。あたりまえだ。 当人がどんな思想をどれだけ自分の固有の感受性に基づいて考え抜き鍛えぬいているかが決め手となる。つまりその労力に手を抜いている人は嫌いなのです。 一番手抜きがし…

デザインのデザイン/原研哉

2003年上梓、手元のものは09年23版というからロングセラー、先ごろ読んだ「日本のデザイン」の先行著作。デザイン論であり、日本論。 「これがいい」でなく、「これでいい」のレベルをできるだけ高くすることが重要。 日本人の持つ自己を世界の中心と考えず…

古事記/梅原猛

梅原猛による古事記の現代語訳。若干の解説と短い「古事記論」というおまけつき。やはり、おまけの部分が面白く、このあたりのまとまった論文があるなら読んでみたい。 古事記 増補新版 (学研M文庫)作者: 梅原猛出版社/メーカー: 学研パブリッシング発売日: …

グレート・ギャツビー/スコット・フィッツジェラルド

何十年か振りの再読。かつて、近代米国の小説ということで、お気楽な娯楽本という先入観の下で読んで、退屈な本という印象だった。今回村上春樹絶賛本ということで読むと印象がずいぶん違うというのも情けないといえば情けないが、私自身の読書の嗜好が相当…

日本の難点/宮台真司

厭味なというか正直なというか、好きになれない文体ではあるけれど、共感できる点も結構ある。 「米国からの要求(日米構造協議)に応じた結果、日本の<生活世界>の相互扶助で調達されていた便益が、流通業という<システム>にすっかり置き換えられ、個人…

解錠師/スティーヴ・ハミルトン

MWA,CWA賞、このミスなどで最高の評価を受けているということで読んでみた。解錠師というタイトルから、ひょっとして私の苦手ないわゆる本格ミステリー(密室もの)かと思ったが、全くそんなことはなくて、さわやかな青春小説として楽しめた。 解錠師 (ハヤ…

未解決事件/マイケル・カプーゾ

元連邦捜査官と犯罪心理学者、法医学アーティストの3人が中心となって設立した迷宮入りした犯罪の再捜査コンサルティングを行う組織「ヴィドック・ソサエティ」の活動。 アメリカのTVショー「アメリカズ・モスト・ウォンテッド」なんかをうまく使って(使わ…

冬の蜃気楼/山田太一

角田光代の解説を読んだ後で何をメモしておけばいいのか。大学を出て撮影所に入り、助監督になったばかりの主人公、美登利役の「凄い」美人の15歳の少女、下手な中年役者の3人が33年後に交わるかと思われた時、すべては冬の蜃気楼であったのかと…。 冬の蜃気…

近代秀歌/永田和宏

著者は、細胞生物学者であり、歌人・朝日歌壇の撰者。近代の短歌のうち「日本人なら、せめてこれくらいの歌は知っていて欲しいというぎりぎりの百首」の鑑賞。岩波新書第1号は茂吉の「万葉秀歌」だそうだが、本書は、同様ロングセラーとなる名著だと思う。「…

八月の砲声/バーバラ・タックマン

第一次世界大戦勃発直前から、当初のドイツ軍の西部戦線での破竹の勢いを食い止めたマルヌの会戦まで(日本軍部にも大きな影響を与えたという東部戦線のタンネンベルクの戦いも含む。)を描くピュリッツァー賞受賞の「戦記」。 今から見ると情報伝達手段が限…

日米交換船/鶴見俊輔、加藤典洋、黒川創

太平洋戦争開戦後、日米間で、それぞれ相手国に暮らす人々を交換する船が仕立てられた。第一次交換船で帰国した1500人ほどの中に、来栖三郎、野村吉三郎ら外交官のほかに、ビジネスマン・研究者、学生などが乗船しており、鶴見俊輔もその中にいた。 本書は、…

北欧モデル/翁百合、西沢和彦、山田久、湯本健治

高負担高福祉の北欧型社会モデルの優位性は、リーマンショック後の経済成長や財政の健全性などからみても明らかであるが、状況の異なる日本にその仕組みをそのまま導入できるわけではなく、むしろ参考になるのは、ユニークなモデルを構築し、実行してきたプ…

宗教を生みだす本能/ニコラス・ウェイド

道徳的直観というものが生得的なもの(本能)であるというのは論拠がもう一つしっくりこないけれど、まあ直感的にそうなのかなと思う。一方、宗教行動が集団選択(淘汰)の結果としての進化した行動なのだというのは、原始社会の信仰(儀礼、音楽、舞踏など…

おどろきの中国/橋爪大三郎、大澤真幸、宮台真司

これからの日中関係(日韓もそうだが)を考える上で、宮台真司の言う「溜飲厨」「承認厨」の弊に陥ることのないよう改めて自らを戒めたい。 いくつか気づきの点をメモ。 中国の社会組織の原則 1.自分は正しくて立派(自己主張が強い) 2.他者も自己主張…