HONMEMO

読書備忘録です。

2013-01-01から1年間の記事一覧

重金属のはなし/渡邉泉

重金属におる健康被害について、水銀による中国皇帝らの早逝、あるいは白粉(おしろい)の鉛被害などは聞いたことがあったが、ローマ人がワインの貯蔵に鉛製品を使用すると味がマイルドになること(鉛糖)を発見したことで、帝国を滅ぼしたのではないかとい…

ボヴァリー夫人/フローベール

1857年の刊行ということで、日本でいえば幕末頃の作品。比較的裕福な田舎の農家の娘エンマは冴えない医者ボヴァリーに嫁いだが、不倫を重ね、借金まみれになって…というあらすじは知っていたが、夫人の末路は知らなかった。 山田ジャク訳。解説は、蓮實重彦…

ロジカルな田んぼ/松下明弘

著者は、様々工夫しながら、有機・無農薬で山田錦をはじめコメ9町歩を作ったり、新品種を登録したりする自称「稲オタク」。 なぜこのような農法がうまくいくのか、いろいろと説明はあるのだが、生命力なんていうことを持ち出されてなんだかよく分からなくな…

ファスト&スロー/ダニエル・カーネマン

心理学、行動経済学の古典となるであろう一冊。実験事例も多数掲載されていて、楽しく読める。 合理的経済主体(エコン)を前提とするリバタリアンに対し、「ヒューマン」を前提とする行動経済学者セイラーらはリバタリアン・パターナリズムの立場をとる。リ…

舟を編む/三浦しおん

かみさんの本棚から。 ものに打ち込むことのさわやかさ。 舟を編む作者: 三浦しをん出版社/メーカー: 光文社発売日: 2011/09/17メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 1,184回この商品を含むブログ (283件) を見る

宿澤広朗 勝つことのみが善である/永田洋光

ラグビー日本代表監督などを歴任、トップリーグの設立に尽力する一方、三井住友銀行の執行取締役として頭取にとも目されていた宿澤広朗の伝記。急逝されたのが本当に惜しまれる。トップリーグの成功と、日本で開催されるワールドカップで、日本が氏の言う意…

ハチはなぜ大量死したのか/ローワン・ジェイコブセン

何年か前、日本でもハチがいなくなったと騒ぎになった。その少し前、アメリカ・欧州でも蜜蜂が姿を消していた。Colony Collapse Disorder(CCD)と呼ばれるその現象の原因を、農業の実情から詳細に解説するノンフィクション。 原因は今でも必ずしも科学的に明…

ウーマンアローン/廣川まさき

第2回開高健ノンフィクション賞受賞作。著者がアマゾンならぬユーコン川を一人で下り、新田次郎「アラスカ物語」のゆかりの地、人を訪ねる旅行記。 冒険物語でもあるのだが、比較的あっさりしていて、そこが良いところでもあるのかもしれない。 アラスカ物語…

創られた「日本の心」神話/輪島裕介

副題は、「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史。 「演歌」とは、「日本固有」の「伝統的」な表現ジャンルではなく、昭和40年代以降、レコード歌謡の製作スタイルの大転換の過程で「時代遅れ」とみなされるようになった古いタイプのレコード歌謡を「演歌」と呼んだ…

中国「反日デモ」の深層/福島香織

尖閣問題を契機とする中国での反日デモは、中国指導部による「動員」と言ってもよい側面も持つが、第2代農民工の格差問題などからくる不満の爆発という形でコントロールが効かなくなるという危険性を持つ。 しかし、デモをする方にも、許す当局側にも「反日…

海軍主計大尉小泉信吉/小泉信三

慶應義塾の塾長であった小泉信三による戦死した息子信吉のメモワール。おおよそ30年ぶりの再読。 出征に当たり、著者は、息子信吉あての手紙に次のように書く。 君の出征に臨んで言って置く。 吾々両親は、完全に君に満足し、君をわが子とすることを何よりの…

選択の科学/シーナ・アイエンガー

選択は生物の本能で、自己決定権を奪われるとストレスが高まる。動物園の動物は早死に、社長は長生き。 選択は、環境を自分の力で変える能力のことであり、第一に「自分の力で変えられる」という「認識」を持つことが重要。 自己決定感は、その人の属する集…

面白い本/成毛眞

HONZは愛読サイトなので、本書を買う必要がどこまであるか、疑問でもあったのだが。一読してトイレット・ライブラリーに。 面白い本 (岩波新書)作者: 成毛眞出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/01/23メディア: 新書購入: 3人 クリック: 30回この商品を含…

世界が土曜の夜の夢なら/斉藤環

副題は、ヤンキーと精神分析。「ヤンキー的なもの」は実は思いのほか広く世間一般に浸透している。冒頭取り上げられる天皇即位20年の奉祝曲をEXILEが披露したというのは、まさに象徴的なのだけれど、TV、音楽などがヤンキー的なものにあふれているのはなんで…

東京骨灰紀行/小沢信男

関東大震災、東京大空襲の被災者の眠る両国旧被服廠跡、小伝馬町の牢屋跡、小塚原(千住)、聖路加・本願寺の築地、谷中、多磨霊園、新宿などの「骨灰」をめぐる散歩エッセイ。 わたしも一時「墓マイラー」の仲間入りをして、雑司ヶ谷、谷中、染井、多磨など…

紅の党/朝日新聞中国総局

習近平体制誕生までの経緯を薄熙来の失脚の内幕などを含めて取材したもの。 薄熙来は、重慶市書記として辣腕をふるうが、そのキャンペーンの一つ打黒というマフィア撲滅運動は、政敵排除の手段としても用いられ、文革にもなぞらえられているが、マフィアから…

日本のデザイン/原研哉

デザインとは、…ものを介して暮らしや環境の本質を考える生活の思想でもある。 とする著者の思想を語るもの。 日本の美意識の真ん中あたりにある「簡素さ」はシンプルというよりエンプティネスである。 日本の美意識の核心は、繊細、丁寧、緻密、簡潔を旨と…

赤い高粱/莫言

中国東北部、一面こうりゃん畑が広がる広大な大地で生きる人々の素朴な生命力を感じる。特に、群像劇ではあるものの、主人公と言っていい「祖母*1」が魅力的。 5編からなる連作のうち2編を収めるものだが、残りを読もうという気はしない。むしろ映画は高い評…

マテイーニを探偵する/朽木ゆり子

マティーニの歴史や様々なエピソードを紹介する本。カクテルいろいろあれど、このような本が書かれるのはマティーニしかあるまい。 学生の頃、いろいろとカクテルを作ってみたことがあるが、甘いものが多くて結局マティーニ以外を作ることはなくなった。 究…

草枕/夏目漱石

明治の一般大衆がこれを面白く読んだとは思わないが、知識人階級はここで言及されるような漢文やら俳句やらの素養を持っているのは当然だったのだろうか。 最近展覧会でみたミレイのオフィーリアは何度か繰り返し登場。実際の絵を知っているとイメージがわく…

東大のディープな日本史/相澤理

東大の日本史の入試問題を材料にして、日本史を語る本。東大の入試問題を茶化すか、揚げ足をとるかする本だろうと思っていたら、ほぼ絶賛というスタンスに立っていて、ちょっとびっくりしたが、実際、取り上げられる入試問題は、それぞれの時代の社会や政治…

あの日からの建築/伊藤豊雄

「みんなの家」でヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞を受賞したということで、著者のことを知って、いつだったか、乃木坂にみんなの家のプロジェクトの展示を見に行った。 建築家は、自治体や住民と対峙することが多く、震災復興の過程でも建築家が呼ばれるこ…

モサド・ファイル/マイケル・バー=ゾウハー

イスラエルの諜報機関モサドの事件ファイル。著者は、イスラエルのジャーナリストで、国会議員も務め、ベングリオン首相らの公式伝記も執筆したということ。 アイヒマンの探索・拉致、黒い九月やヒズボラなどのテロリストの暗殺など、いわゆるインテリジェン…

日本の七十二候を楽しむ/白井明大

二十四節気は知っていたが、七十二候というのは知らなかった。 今日6月8日頃は、二十四節気「芒種」(これも恥ずかしながら初耳)、七十二候では「蟷螂生ず」だそう。 おれの こころも かまも どきどきするほど ひかってるぜ (工藤直子) 旬の魚介としてあ…

世にも奇妙な人体実験の歴史/トレヴァー・ノートン

医学、薬学研究が中心だが、これにとどまらず、広く人体実験、自己実験の事例を取材したもの。 コレラ菌に汚染されている可能性の高い水や、黄熱病患者のゲロ、寄生虫、プルトニウムを飲むとか、時におぞましい内容を含むのだが、ユーモア、ウィットに富む筆…

脳はなにかと言い訳する/池谷裕二

ちょっと前のベストセラーの文庫化。脳ものは人気なのかな。小ネタが盛りだくさん。 「作業興奮」 やる気がなくてもまず始めてみると、次第に脳が活性化し、やる気が出てくる。 「変化盲」 思い込みにより変化に気が付かないことがある。 「恒常性維持本能」…

中国と茶碗と日本と/彭丹

著者は、四川省出身の法政大学講師で、日中比較文化・比較文学を研究。日本の茶碗をめぐって、 中国では雑器である珠光青磁茶碗が日本でなぜ珍重されるのか。 曜変(窯変)天目茶碗はなぜ日本にしか残っていないのか。 日本ではなぜ龍文が使われないのか。 …

子供のための哲学対話/永井均

ダイニングテーブルに転がっていたので、サラッと読む。ちょっとだけメモ。 人間は何のために生きているのか →なんのためにでもなく生きる~ただ存在するだけで満ち足りているということ 人間は自分のことをわかってくれる人なんかいなくても生きていけるっ…

たった独りの引き揚げ隊/石村博子

本書は、旧ソ連で盛んだったサンボという格闘技で41連勝という記録を作り、わが国柔道・レスリング界にも影響を与えたというビクトル古河の評伝だが、本人が「人生の中で一番輝いていた」という北部満州ハイラルから日本へたった独りで引き揚げた1年半が中心…

物語イスラエルの歴史/高橋正男

何というか、出来事を順番に並べただけみたいな味気ない文章で、また変に細かいところにこだわりがあったりで読みにくく、大局的に歴史を捉えようとする人には向かないだろう。 物語 イスラエルの歴史―アブラハムから中東戦争へ (中公新書)作者: 高橋正男出…