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読書備忘録です。

アメリカとは何か/渡辺靖

現代米国の政治の分断状況と今後の見通しについての第一人者の分析。

米国は憲法によって成立した市民主体の「自立・分散・協調」を重んじるネットワーク型の統治を試みた「理念の共和国」と称される。

米国におけるリベラルとは、政府による一定の介入こそが真の自由を保障するというもの。一方、政府による介入を自由にとっての障壁とみなし、大恐慌前、建国当初の小さな政府を指向するのが保守。ヨーロッパ流の君主・貴族による統治や社会主義のような巨大な政治権力による統治を否定し、政治的・経済的に自由な市民による統治(自由主義)のみを肯定するのが米国の特徴であり、リベラル、保守は、この自由主義の左派、右派であるに過ぎない。

経済保守、社会保守、安保保守を融合し、保守大連合を実現したのがレーガンであり、その基本的思想は自己統治(セルフガバナンス)といえる。その後、党派対立が激化する中で融和を訴えるオバマが大統領となるが、民主、共和双方からの批判が強まり、かえって対立、分断を深めた。そのような中で対立、分断を煽るトランプが誕生する。

トランプは、白人とキリスト教を中心とし、分厚いミドルクラスに支えられた公民権運動全盛前の50年代米国を黄金時代とみなすペイリオコン(原保守主義)に近い。共和党ではトランプ、民主党ではサンダースというポピュリズムが台頭、主流派の求心力が低下、超党派での協調を困難にする。一方、両者は、反グローバリズム保護主義では合致、これと対極にあるのがリバタリアン。ただ、孤立主義的外交や反ポリティカル・コレクトネスでは両者は一致する。

米国の現状は、求心力を欠いた対立・分断であり、トライバリズム(部族主義=各自が自らの集団の中に閉じこもり、自らを被害者とみなし、他の集団を敵視し、罵倒、封殺しようとすること)という状況にある。対立や分断がここまで深化した民主主義国家が協調メカニズムを取り戻した事例はなかなか思い浮かばない。

米国は、自由・平等・人民主権といった普遍的理念に根ざして建国された、新世界であり、あるべき世界であるという強烈な自負心を持つ。こうした自らの特殊性がその普遍性にあるという自己認識を「米国例外主義」という。これは米国の核心的イデオロギーであり、今後も覆ることは想像し難い。

米国がグローバル化の象徴的存在であることに対する左右からの批判やダブルスタンダード批判などもあるが、リベラル国際秩序を支えてきた米国外交は党派対立が激化し、国際社会における不安定要因にもなっている。また、権威主義(米国第一主義)や民主社会主義リバタリアニズムが遠心力を強め、民主・共和両党の主流派=外交エリートへの信用が揺らいでいる。このような中で、米国の対外介入や米軍の海外展開を縮小すべきとのリトレンチメント論が高まりを見せるようになっている。

米国政治は遠心力を強めており、エコーチェンバー、フィルターバブル現象などにもかんがみると、その分裂状況が近未来に収まるとは考えにくい。一方、ミレニアル世代以下の若い層(モノの所有に執着せず、格差、人権、環境などに敏感で、大きな政府を支持)が増加するなど人口動態が多様化する中で、対立軸をリベラルな方向にシフトさせる可能性がある。しかし、これは対する反動や、教育格差、経済格差の拡大がより大きな影響を持ち、リベラルなコンセンサスの形成どころか、対立、分断が深化していくことも考えられる。

なお、情報化の進展は、エコーチェンバーなどの問題とは別にデジタル・レーニン主義(監視社会)という問題をはらむことに注意が必要。