2022-01-01から1年間の記事一覧
人間個人の知識は自分が思っているより限られており(知識の錯覚)、様々な外部コミュニティの知識を共有することで、知っているつもりになっている。このような自身の無知の自覚のなさが、フェイクニュースの流布など、不合理な判断や行動を生む。コミュニテ…
1994年のルワンダの大量虐殺を生き延びた著者の独白録。2006年の上梓。当時、映画ホテルルワンダほどでないにしても話題になった本だが、たまたま図書館で目に入って。少年少女に語りかけるような柔らかな文章だ。 虐殺の嵐の中を狭いトイレに3ヶ月もの間こ…
平松洋子が編んだ食にまつわる掌編集。短編小説、エッセイだけでなく、詩や俳句、漫画も。どの文章もそれぞれに印象に残る。と言ってすぐ忘れるのだけれど。 忘れない味 「食べる」をめぐる27篇 作者:平松 洋子 講談社 Amazon
中世が基本的に自力救済、分権・多元的、呪術的な世界であることなどを、分かりやすいエピソードをもって語る。 室町は今日もハードボイルド: 日本中世のアナーキーな世界 作者:清水 克行 新潮社 Amazon
著者自身、RV(日本でイメージするRVというよりは、大型のバンやキャンピングカー)を買って3年間にわたりアメリカの車上生活者(ワーキャンパーwork+camp)を取材したルポ。短期の雇用を求めて全米を移動するワーキャンパーは、高齢、シングルの白人が多いよう…
PTAは停滞する日本の社会、組織の縮図のようなところがある。日本の自治、「半径10メートルの民主主義」の現場でもある。 前例主義(引継が大変!)、点数主義(ポイント制)などに絡め取られて身動きができず、みんなおかしいと思っているのに変革することがで…
近代経済学の父といわれ、神の見えざる手で知られるアダム・スミスの評伝であり、また、その思想の概説書。堀内勉氏の解説が簡にして要を得ている。本書を手に取ったのは同氏の書評、読書大全による。以下主として堀内氏の解説をもとに。 当時の経済学は、政…
原題は、「完全警察国家」で、副題を含めてAIという文字もウイグルという文字もないが、このタイトルの方が分かりやすい。 中国では特に新疆ウイグル自治区で恐るべき監視網が構築されている。これには顔認証などAI、最先端技術が用いられているが、その技術…
日本では例外であるはずのゼロ金利が常態化しているが、これは資本主義が行き着くところまで行ったことを示す。より遠く、より速く、より合理的に行動することで経済成長を図り、それによって諸問題が解決できると考えてきたが、ゼロ金利は、現在と将来が同…
グリーンランドをフィールドに、目的地を定めて計画的に旅をするのではなく、狩りをしながら旅をする(漂泊)。 ある時、犬橇で旅するといいとめざめる。食料の見通しが立たないまま先に進むことができないという一線を越えるために。 文章がくどく、説明的に…
ダイヤモンドプリンセス乗客の受入れから新型コロナ感染症医療に積極的に取り組み、「最後の砦」と評された藤田医科大学のドキュメント。 最後の砦たるに必要な要素は何かを5つのポイントにまとめているが、もっとざっくりいうと、臨機応変、連携、経験とい…
河井案里の半生を取材したノンフィクション。メールのやり取りも頻繁に行われていたようで、河合という人の人となりがよくわかる。 河合は、実家への手紙に「政治の世界において一目おかれる、ということは、ある意味、政局のおもちゃ(別のところでは「権力…
ドイツのバイオ企業ビオンテックのmRNAワクチンの開発を追うノンフィクション。 世界で最初に開発・実用化された新型コロナウィルスワクチンであるファイザー社のワクチンは、ビオンテックが開発、ファイザーが製造・使用許諾を取って特許権使用料を払って販…
2011年刊行の「二十歳の君へ」の一部を再編集したのもの。 適度な失敗は歓迎すべきものだが、取り返しのつかないような大失敗をしないためにどうするか。 →先決問題と考える順序。思い込みの排除。 職業的懐疑の精神。 といった思考技術、生きるヒントのよう…
荒畑寒村「父親」父の書棚に自伝があった。読んでない。 森鴎外「寒山拾得」洒落てる。 佐藤春夫「指紋」こんな作風だったの? 谷崎潤一郎「小さな王国」さすがというか、恐ろしい話 宮地嘉六「ある職工の手記」名前すら知らない作家 芥川龍之介「妙な話」幻…
2006年読売新聞に連載され中公新社から出た「私と20世紀のクロニクル」に日本国籍取得決断の記などを加えた増補版。 氏の日本文学に対する愛情の深さは計り知れない。だからこその研究実績であり、また、「教師として私の出来る一番大事なことは私の情熱、私…
秦漢代を中心とする古代中国における日常を1日の時間軸に沿って幅広い資料、史料をもって紹介するもの。ハゲやらトイレやら下世話なものも含めて、n=1であろうような事例、エピソードも多数(文献等の注記付きで)連ねているのが面白い。 古代中国の24時間 秦…
山にまつわるエッセー、思索の書。 哲学的な文章はあまり面白くない。無論私の理解が足りないからに違いないが。 新選 山のパンセ (岩波文庫) 作者:串田 孫一 岩波書店 Amazon
民主主義社会における制度、政策の決定に参画する方法は、議員を選ぶ投票に限られるものではないのはもちろんだ。 昨今の民主主義、政治的意思決定過程の問題については、選挙制度や投票率などの投票に関係する問題点もあるが、重要なのは、著者のように、問…
かみさんが図書館で借りたのを拝借。映画「ドライブ・マイ・カー」は見ていないが、「偶然と想像」が思いの外良かったから、いずれ。 村上春樹は短編がいい。女に去られた男をモチーフとする短編集。 「奥さんはその人に心なんて惹かれていなかったんじゃな…
俳句の話を縦糸に、生と死、天国と地獄、民主主義の挫折、時代精神の変遷、身辺雑事に及ぶ話題を記したエッセイ(あとがき)。 時代精神の話を少しメモ。 芭蕉は、古典復興の空気の中で生まれた根っからの古典主義者だったが、「かるみ」という脱古典を目指し…
古くはシーボルト、漱石、寺田寅彦から村田沙耶香に至るまでの52人によるコーヒーにまつわるエッセーのアンソロジー。 チェーンコーヒーショップとは異なる趣ある喫茶店でのコーヒーのお供に。 作家と珈琲 平凡社 Amazon
積水ハウスの地面師事件とその後の人事抗争、株主代表訴訟を追うノンフィクション。 地面師事件は、当時の阿部社長の前のめりの姿勢と"社長案件"としての忖度などから、当然のチェックが働かずに生じたもので、最大の責任は阿部にあるにもかかわらず、阿部は…
このユーモアある文体はどこか馴染みがあると思ったが、「ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー」の著者だった。懐かしい。 人体について、器官や免疫の機能、医学の歴史など、常識と思われていることが必ずしもそうではないことや、科学の誤謬、今で…
・トランプ、ブレグジットは、自由貿易から保護貿易への回帰、民主主義の失地回復を体現するもの。(新)自由主義(サッチャー、レーガン)もそれからの転換も英米により主導。 アングロサクソンの絶対的核家族に内在的に備わっている個人主義的で不平等に寛容な…
著者は同和出身者で著書に「日本の路地を旅する」という大宅壮一ノンフィクション賞作がある。本書はその延長という面もある。 四国遍路は、巡礼の道というほかに、故郷を追われた困窮者が最後に頼れる一種のセーフティネットのようなところがあり、辺土とも…
大蔵省→金融庁キャリア佐々木清隆氏の人物評伝だが、我が国金融・証券不祥事、監督の振り返りになっている。 佐々木氏は毀誉褒貶あるようだが、官僚としてちょいと変わっているにしても、面白そうな人物に思える。 金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件…
2014年から21年まで芸術新潮に連載された文学・芸術まわりのエッセー集。 日常の中での気づきをやわらかな言葉で紡ぐ。 文章を綴る上での社会状況との関連についての文章(「傷つきつつ読みとったもの」)があるが、何編かのうちに政治や社会状況についての批…
東日本大震災の被害者など30人に憑依された女性と除霊をした通大寺の住職へのインタビュー。 住職は、霊魂やあの世の存在については問題にせず、彼女の言動をありのままに受け止め、問題を解決することを目指す。精神病の診断名をつけたところで、何の解決に…
超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦いという副題どおり。 超多剤耐性菌(スーパーバグ)に感染し、もはや手の施しようがないとみられた夫を救うため、疫学者である著者は、論文をあたり、まだ実験段階と言ってよいバクテリオファージによる治療に可能性を見…