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読書備忘録です。

mRNAワクチンの衝撃/ジョー・ミラー

ドイツのバイオ企業ビオンテックのmRNAワクチンの開発を追うノンフィクション。

世界で最初に開発・実用化された新型コロナウィルスワクチンであるファイザー社のワクチンは、ビオンテックが開発、ファイザーが製造・使用許諾を取って特許権使用料を払って販売しているもの。

ビオンテックは、トルコ移民ウールとエズレムの夫妻が主としてmRNAを使った免疫がん治療の研究開発を行っていた会社。新型コロナがまだパンデミックとなるかどうかが全く明らかでない時から、mRNAの技術を応用して光速でワクチン開発に取り組む(プロジェクトライトスピード)。

その過程は、研究開発上の困難の克服という点はもちろんだが、資金調達や関連企業との関係の構築などのビジネス上の問題や政治の介入への対処など、イノベーションを実現することのスリリングな実際を目の当たりにさせるものだ。

成功の要因は様々指摘できるだろうが、2人のパーソナリティに負うところも大きいと著者は指摘する。確かにこの2人だったからと思わせるが、様々な条件が整った上でのパーソナリティであることも確かだ。今の日本には、イノベーションを起こす幅広い基盤、条件というものが不十分なのかもしれないと思う。

なお、ビオンテックの2人について、「ドイツの英雄」、「外観人労働者の子供が世界を救う」といった論調が多くみられる中で、元外務大臣シュタインマイヤーは「あなたがたの業績に国籍を付与しようとする者が大勢いるが、このワクチンは、どこの国のものでもなく、二人が傑出した科学者であることだけを証明している」という旨述べたという。日本人であるかは関係ないと言える政治家は日本にはいないかもしれない。