HONMEMO

読書備忘録です。

ドナルド・キーン自伝

2006年読売新聞に連載され中公新社から出た「私と20世紀のクロニクル」に日本国籍取得決断の記などを加えた増補版。

氏の日本文学に対する愛情の深さは計り知れない。だからこその研究実績であり、また、「教師として私の出来る一番大事なことは私の情熱、私の日本文学に対する愛情そのものを学生に伝えること」だと考え、自分が愛する文学を教える喜びを実感しながら行われた講義はいかばかりであったろうかと思う。

語学将校として兵に命令をするのに「誰か、私と一緒に前線に行きたい人はいますか」としか言えなかったり、戦争犯罪人の取調べが知人を巻き込むことになるために嫌で仕方なく帰国を要請したエピソードなども人柄が表れている。

日本文学だけでなく日本を愛した人だった。

 

日本のこころ」について一番注目すべきことは、日本人がこの言葉で「日本人の審美的かつ精神的な嗜好のある部分が日本人独特なものだ」という確信を伝えてきたことかもしれない。自分たちだけが特別だという確信を、このように強く抱いている国民が他にいるとは思えないと氏はいう。

氏はそのような日本人として死んだ。